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第16話 刺客

 須坂荘(すざかのしょう)にあるパレス内執務室で、日本国宗主サクヤヒメが執務室で端末を起動した直後の事だった。


「何ですか、このメールは?」

 見た事のないメールアイコンがモニタの隅に表示されている。

「ウイルスとかではないですよね。一応チェックして……うん? 差出人がガーデン運営? これって、もしかして……」

 まさかと思いながら、恐る恐るメールを開け、内容を読んでいく。


「きのもと……風花ですって!?」いきなり宗主が大声をあげて立ち上がったので、ちょっと離れて座っていた秘書官がびっくりして飛び跳ねた。

「そ、宗主様。いかがなされましたか?」秘書官があわてて近づいてくる。

 サクヤヒメは、モニタを覗かれない様注意しながら、秘書官に命じた。

「な、何でもありません! ですが、至急サザレイシをここへ呼んで!!」


 時を置かずサザレイシが部屋に駆け込んで来たので、メールの件を伝えた。

「私も実際にメールが来たのを見たのは初めてですが……なるほど。『住民登録のお知らせ』ですか。町田の連中がガーデンに入ったのは間違いなさそうですね。まったく、なんと悪運の強い。それで、いかがいたしましょうか宗主様」

「あそこでは管理者権限がないと何も出来ませんので、慌てずともよいかとは思いますが、変に外に出られて他の荘園や他国にでも拾われたら厄介です。闇に葬るのがよろしいでしょう……どのみち先日、作業中に被災して死んだ事になっている者達ですので、全く問題はありません……ですので、千代女(ちよめ)を呼んで下さい」

「御意」


 そして深夜。宗主サクヤヒメがもう休もうかと寝室に入った時、ふわっと風が吹き抜けた。

「千代女ですね」サクヤヒメは振り返らずにそう声をかけた。

「はっ。お召しにより参上いたしました」

「すいませんが、また汚れ仕事をお願い致します。横須賀沖のガーデン内に反乱分子が潜入しましたので、その除去をお願いします。場所などの詳細はサザレイシに聞いて下さい」

「はっ!」そう言って千代女の姿は闇に紛れた。


 日本の中央をつかさどる須坂荘では、力で他の荘園を従える場合に備え、プロの暗殺集団を代々密かに養っていた。長き大戦の後、表向きは多くの兵器が封印・破棄された現在、こうしたプロ集団のはたす役割は決して小さくはないのだ。その集団は、もちろん複数の男女で構成されているが、現在その統領(とうりょう)をしているのが千代女だった。


 ◇◇◇


 ガーデンに来てひと月が過ぎた。風花様の足の骨もくっついたのではないかと思われるが、レントゲン設備がなく確証はない。まあ本人は至って元気で、すでに松葉杖を突きながら、居住区内やビオトープをうろうろしている。


 イブ・メイカーの件は、孝由さんが先日ガイから聞いた内容をそのまま風花様にも伝えたが、彼女もすぐに宗主様に連絡するのはよそうと言った。

 正直、俺は、女性の風花様があの話を聞いたら、滅茶苦茶怒るのではないかと思ったのだが、さすがは領主様と言うところか、結構冷静にお考えになっている様だった。


「まずはこっそり脱出して、町田荘がどうなってるか確認しないと。私達は死んだ事になってると思うけど、それを契機にお取り潰しになってる可能性もあるわ。その上で、やっぱり……こっそりだけど、私が宗主様に会いに行きます。その上でここで見た事を突き付けて、なんらかの譲歩を引き出すしかないと思う」

 孝由さんも、イブ・メイカーが稼働出来ない以上、ここに長居しても仕方ないと考えている様だ。

 そうなると当面の問題は、管理者に内緒で外に出られるかと言う点なのだが、孝由さんの考えは、来た時に使ったカプセルは権限に関係なく俺達を乗せてくれたので、あれをうまく使えないだろうかという事だ。なので俺はそれが可能かも含め、日々あのカプセルを調べていた。


 そんなある日の夜中。風花様が起き出して、慌ててトイレに行こうとしていたので、気が付いた俺が補助をしてあげた。

「起こしちゃってごめんね」そう言う風花様の顔が真っ青で気になったが、トイレで思い切り嘔吐している様だった。

 出すものを出したら落ち着いた様だったが、「なんか最近。調子悪いんだよね……」とぼやいていた。


 部屋に戻ると、孝由さんも起きていた。

「風花。大丈夫か? 変な感染症だったりすると薬が無くてまずいのだが……」

「いやー。ここんところ、なんかずっと気持ち悪くて……」

「何? ……風花。お前、いつから来ていない?」

「来ていない? 何が?」

「いや、その……女性の日」

「ああ。えっと……あれ!? あっ、あっ。孝由さん、これってまさか?」

「うん……つわりかも知れないよ」

 その会話を聞いていた俺は、よく分からず二人に質問した。


「あの。つわりって?」

「ああ、鏡矢。何言ってんのよ。あんたの子よ! 私、あんたの子供を妊娠したのかもしれない。私、あんたとしかエッチしてないから……間違いないわよ!!」

「ええっ!?」あまりの事に、俺も飛び上がって驚いた。


「ははは。鏡矢君、おめでとう。これで君も父親だ。これで、もし女の子だったら一発逆転だ! 中央も風花をむげに扱えないかも知れない。とはいえ調べる術がないから、生まれて見ないと判らないけどね」そう言いながら、孝由さんが俺の右肩をバンバン叩いた。


「それじゃ、今後の方針は決まりかな。町田荘の事は心配だけど、女の子を産んでから宗主様と交渉する方が、安全確実な様に思うわ」風花様がそう言った。

 いや、まだ女の子と決まった訳じゃないんだけど……でも、今の俺達はそこに賭けるしかないか。そう考えて、俺も風花様の方針に従う腹を決めた。


 ◇◇◇


 ゴトン!


 鏡矢達が最初に入ってきた、ガーデンのデリバリーカプセル収容庫に、もう一つカプセルが入ってきた。しばらくしてハッチが空き、男女二名が出て来た。


認証要求(ログイン)!」そう言って女性が右腕を高く上げる。

【アドミニストレータキーを確認しました。日本国宗主様。ようこそガーデンへ】

 ガイドAIがそう言うのを聞いて、男性の方が不思議そうな顔をした。

「ああサスケ。心配ない。宗主様はご了解済だ。ここではこのキーが無いと、思う様に動けないとの事なので借りて来たのだ」

 そう言いながら千代女(ちよめ)は、右腕のリストバンドをサスケと呼んだ男性に見せた。

 

 やがて、インカムと掌認証用のスキャナが出て来て、二人は登録を終えた。

「ガーデン運営に特権要求。我ら二名の存在は住民から隠蔽」

【了解しました】


「それじゃサスケ、最初の仕事だ。あいつらがここに来るとき使用したカプセルは破壊しろ」

「はい。ですが我々が乗ってきたものはそのままでよろしいので?」

「馬鹿かお前は。それを壊してしまってどうやって我々は帰還するのだ。そいつには私の生体認証でロックがかかっているから問題ない」

「はっ!」

 サスケは、懐から刃渡り30センチ位の、肉厚なナイフを取り出しカプセルに切りつけた。すると、カプセルの外郭がまるでバターでも切るかの様に、サクサク削れていく。

「ふふ。こんな耐圧構造位……このナイフの敵ではないな」

 そう悦に入っていたサスケに、千代女が釘を刺した。

「油断するなよ。戦闘の素人とは言え、ここまでたどり着いた連中だ。どんな準備があるかわからん。発見次第、有無を言わさずデリートだ。いくぞっ!!」


 そしてエレベータが上から降りて来て、二人の暗殺者はビオトープに出た。


「……すごいなこれは。しかし、遊びに来た訳じゃない。住民の座標を教えろ!」

【居住区医務室に木之元風花。ミーティングルームに木之元孝由。ビオトープ北東エリアに佐々木鏡矢がいます】

「一番近いのは?」

【医務室です】

「ふっ、風花か。それは好都合。奴さえ始末出来れば任務は終わったも同然。放っておいても、あとの男どもはここで勝手に立ち枯れる。サスケ。いくぞ!」

 

 そう言って暗殺者たちは居住区を目指した。




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