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第15話 管理者

 ガーデンに漂着して二週間ほど経過し、俺の足首はほぼ正常に戻った。風花様の骨折はもちろんまだ直らないが、とりあえず容態は安定している。とはいえまだ一人では動けないので、生活の介助は俺がやってあげている。その間、孝由さんは、独自にガーデン内の調査を進めている様だった。


 ある夜。孝由さんが俺について来てほしいと言った。すでに風花様は寝付いており、起こしますかと尋ねたら、彼女には聞かせない方がいい話かもしれないと言って俺だけ伴って居住区の別の部屋に行った。そこは、どうやらミーティングルームの様で、大きな机があり、その周りに多数の椅子が並んでいた。


「ほらこれ……」孝由さんが、部屋の隅にあったものを指さす。

「これは……ここの模型ですか?」俺の答えに孝由さんがうなずく。

「そう。このドームがビオトープで、こっちが居住区。それでこっちの工場みたいね大きなブロックが、多分イブ・メイカーやリアクターが有る施設」

「かなりの規模ですよね。こんなの誰も気が付かないのかな」

「ああ。今は多分、海の中だ。旧東京湾横須賀沖の結構深い所にあるみたいだよ」

「はあ。でもなんでそんなところに」

「ここいらは大昔、アメリカさんの縄張りだったしね」

 そう言いながら孝由さんが、そばの椅子に腰かけた。


「それじゃガイドAI君。ガイ……でいいんだっけ? そろそろちゃんとこことイブ・メイカーの事を教えてくれないかな」


 部屋のスピーカーからガイの回答が聞こえてくる。


【元来ここのビオトープは、外宇宙探査移民の宇宙船内技術として研究・開発されたものですが、人類の災禍に対抗するため、通常の生殖行為では人類の人口維持が不可能になる程人口減少したケースを想定して、イブ・メイカーや他の技術と組み合わせ、ガーデンとして国連主導で設計し直されました】

「ほう。それで具体的には、何がどこまで、どうなっているんだい?」孝由さんが問う。


【本プラントのメインモジュールは、『イブ・メイカー』です。これは、人間の女性(フィメール)を繁殖母体として量産する事を目的にしています】

「……やれやれ。やはりとんでもなく非道徳的かつ非人道的な設備だね。女性を出産の道具として大量生産するって事だものね。クローン見たいなものなのか?」


【作成される個体の遺伝子情報が同じと言う点では、そうとも言えますが、細かい部分で異なります。クローンの場合、テロメアの制限があり大量の個体を生成出来ませんし、妊娠可能個体に成熟するまで通常の成長過程を経なければなりません。しかしイブ・メイカーは万能細胞から誘導分化させた組織細胞を、機械的に並べ個体を作り上げます。予め万能細胞を大量に用意出来れば、妊娠可能な人体構成自体にさほど時間は必要ありません】

「何だって? そんな……人体は、フィギュアじゃないぞ!」


「……あのー孝由さん。俺にはよくわからないんですけど……テロメアって? それに、イブ・メイカーって、予め用意した細胞を3Dプリンタで並べて人体を造るって事で合ってます?」

「ああ、鏡矢君。まさに3Dプリンタだよ。テロメアというのは細胞構造の一種でね。細胞が分裂するとだんだん短くなって行って、最後には分裂出来なくなる。いわば細胞分裂の安全装置みたいなものだ。がん細胞などは、これが壊れて無限に増殖したりする。まあ万能細胞も限りなく増殖させられるものが多いのだが、人がコントロール出来るし、増えた後で目的の細胞に変化させられるんだ」


「はは……細胞を3Dプリンタで並べて人間を作る? 

 そんな事やっていい訳ないじゃないですか!!

 あーーーー!! でも……もしかしてあの媒体にあった三体のケモミミ3Dモデルって、これ用のデータなんですか!?」

「多分そうだろう。ケモミミだったのは、あんまり人間の姿形のままだと、心苦しいとか、そう言った理由なのかもしれない」

「そうか……でもそれで罪悪感を薄めるのって、なんか卑怯ですよ!」

「そうだね……でもここまで来たら、もう試してみるしかなかろうさ」

「えっ!? それじゃ、孝由さんはこれ(イブ・メイカー)を稼働させるつもりですか?」

「……ああ。実際の話。もう人類は、こうでもしないと滅亡が確定なんだよ」

「そんな……そうだとしても……」


「ガイ。イブ・メイカーを稼働させるためにはどうすればいい?」

 孝由さんは躊躇(ちゅうちょ)せずそう尋ねた。


【まず万能細胞の準備が必要です。それを材料に素材となる組織細胞を培養します。そしてその万能細胞は、ゲノムタイプの異なる二人の女性(フィメール)の物が必要です】

「えっ? 二人……なのか?」

【はい。一人分だけだと、継代のどこかで遺伝情報が劣化するリスクの可能性が高いと考えられ、最低二名の女性(フィメール)を生成し、二組から繁殖開始させる事でそのリスクを減らす様にプラント運用規則が定められています】


「なんてこった……だが女性は風花しか……」

「孝由さん。やっぱり、一度荘園に戻って応援を要請しましょう! こんなものが実際に目の前に出てくれば、国だって協力してくれませんか?」

「……どうだろうね。だが、それしかないか。風花の様態も良くないし、いつ敗血症を起こしてしまわないとも限らない……ガイ。ここから町田荘へは移動可能なのか?」

【可能です。ですが住民が外出する際はアドミニストレータの許可が必要です】

管理者(アドミニストレータ)? 以前もそんな事を言っていたが、どこにいるんだい?」

【現時点でアドミニストレータキー保持者は、『日本国宗主』となっています。連絡を取りますか?】

「いや。おい、ちょっと待て! いったい、いつからそう言う話になっているんだ?」

【153年前から変更されていません】

「なんてこった……中央はここの存在を知っていて隠していたのか? 一体何のために!?」そう言いながら、孝由さんががっくりと膝をついた。


「……やっぱり、あまりに非人道的なもんで、本当に最後の手段用として封印されたんじゃないですか? 宗主様も女性ですよね」俺のその言葉に、孝由さんもちょっと納得した様だ。

「そうだね。だが、そうだとすると私達がここにいる事自体、国家にとっては反逆罪に等しい事になる。宗主様に状況が伝わった時点で、私達の命はないも同然だろうね」

「…………」そうだよな。でも俺にはここで死ぬ覚悟がまだ出来ていないな。


「ガイ。イブ・メイカーの稼働にも、アドミニストレータ権限が必要か?」

【はい】

「やはりそうだよな。鏡矢君。どうやら詰みの様だ。どっちにしろ我々がここにいる事を宗主様に知らせないと先に進めない。あとは、出来るだけここで生き長らえて、システムのセキュリティホールを探してハッキングするか……」

「……俺の考えを言っていいですか?」

「ああ」


「やっぱり宗主様に連絡しましょうよ。その上で、こいつを稼働してもらう様お願いしませんか。確かにこれ、ものすごくひどい仕組みだとは思います。でも、それで人類の人口構成が変わって行けば、何か突破口が開けるかも知れません。そのきっかけになれるんなら……俺は処罰されても構いません」

「……ありがとう鏡矢君。そうだね……私も、もう少し冷静になって考えてみるよ。まずは風花の意見も聞いてみよう」

「はい!」




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