第13話 デリバリーカプセル
「開いた!!」鏡矢が声をあげた。もう数時間飲まず食わずでクラクラするが、ずっと動かさなかったので足首の痛みは多少落ち着いた様だ。
脱出用と思われるカプセルの扉が開き、中を見ると小さなシートが二つあった。二人用なのか。だが、カプセルは一つしかない。三人乗れるかな? それに大体、乗れたとして操縦出来るのか? そこまで考えたら何かおかしくなってふっと笑った。
「やったなオタク少年。動かせそうかい?」孝由さんが様子を見に来た。
「それはこれからですが……いじっていて、いきなり動きだしても叶わないので、もう乗り込みましょう。風花様の具合は?」
「相変わらず熱が下がらない。骨折部分から体内に大量出血しているんだろう。足がゾウみたいにバンバンに腫れ上がっている」
「大丈夫なのですか?」
「わからないよ。とにかくあがくしかないよね」
そうして二人乗り用と思われるカプセルに無理やり三人で乗り込んだ。
俺が操縦席と思われる側に座り、隣に孝由さん。そして風花様を二人の膝の上に抱える様にした。風花様の顔がなんかめっちゃ俺の顔と近いが、今はそれどころじゃない。例によって懐中電灯で照らしながら操作方法を調査する。
「あー、鏡矢。苦しいよー。痛いよー……いい子いい子して……」
熱でうなされているのか、風花様が変な事を口走っているが、仕方ないので頭を撫でてやったら、少し気持ちが落ち着いた様だ。
「へへ……鏡矢は優しいね。私、今の旦那と別れてあんたと夫婦になるね……いいよね孝由さん」
「ああ、無事助かったらね」
しっかし、こんなメカ見た事も触った事もないし……まあ、昔のアニメとかで似た様な物はいくつか……だいたい緊急脱出用なんだから、そんなに操作が難しい訳ないよな! そう思って、半ばヤケで大き目なボタンを端から順に押してみた。
ドガン!
衝撃がして、カプセルが細かく振動した。そして、目の前のインパネに順に灯りがともりだす。
「やった! 動いた!!」
孝由さんもビックリしていた。まさか本当に動くとは……いや、そう思っていてくれていたに違いない。
やがて合成音声が聞こえてきた。管理用のAIだろうか。英語だったが、孝由さんが訳してくれた。
【デリバリーカプセル射出準備……警告。重量オーバーです。あと5kg削減が必要です】
「くそ。仕方ない。とにかく捨てられるものは捨てよう」そう言いながら孝由さんが、リュックから工具や水のペットボトルを外に放り出した。
「ああ、孝由さん。水はダメですよ。他に使わなそうな書類とか入ってるじゃないですか!!」
「ああ、これはダメ! あとで必要になるかもしれないから」
「え?」
【あと2kg削減が必要です】
「くそっ、鏡矢君。君、服脱ぎたまえ。僕も脱ぐ!」
「ええっ!?」
それでもあと1kgオーバ―だと言われた。
「すまん風花。お前の服も脱がすぞ!!」
こうして三人とも下着だけになり、俺と孝由さんは、さらに連れションまでして、なんとか重量制限を乗り切った。
【デリバリーカプセル射出準備。行先を指定して下さい】
「えっ? どうするの? どこ選べるの? 町田荘は?」
【町田荘は座標データなし。指定が無ければデフォルト地点になります】
「それってどこ?」
【ガーデン】
「??」
俺とAIの掛け合い漫才みたいな会話を聞いていた孝由さんが口を挟んだ。
「それでいい! ガーデンだ!!」
【行先座標ロック。射出三分前。ハッチを閉じます。搭乗員の方は、シートベルトをしっかりと締めて下さい】
「ええ? シートベルトって……そんなのどこにあるの?」
オタオタ探していたら、いきなり床が抜け、カプセルが自由落下に近い速度で下に落ちていき、俺達は一瞬無重力状態になった。
風花様の顔が俺に急接近してきて、はからずもぶちゅーっとキスした様になった。やがて傾斜に当たったのか、こんどはゴロゴロ回転しながら転がり落ちて行く。いやーーこれ、シートベルトしていてもだめなんじゃないか?
上下左右も分からず眼をまわしていたら、ガツンと衝撃がしてカプセルの動きが止まった。そして外でモーターでも回っているのか、ちゃんとシートの位置が水平に戻った。
そしてカプセルが加速を伴って前進をはじめた。目の前のランプ類は全部緑なので、まあ大丈夫なのだろうとは思うが……
カプセルの中から外は見えないし、カメラとかモニタもない様だ。ただ、行先だけがプログラムされていってそこへ向かっているのだろう。
ガーデンと言ったか……それがどこだかわからないし、何時間で着くのかもわからない。
「孝由さん。ガーデンでいいって言ってましたけど……知ってるんですか?」
「いや、どこにあるか知らないし、行った事もないよ。だけど……まあ着いてからのお楽しみだな」
「やれやれ……風花様、大丈夫ですか。熱あるのに服まで脱がされちゃって……」
「足すっごく痛いし……寒い……鏡矢。お願いだからギューってして……」
また甘えた様に言うので、思い切り抱きしめてあげた。風花様の右足は本当に大きく腫れ上がってしまっていた。
ああ。でも本当にこれからどうなるんだろう。救助が来てくれてももぬけの殻だろうし……明さん、心配してるだろうな……