命の使い方
しばらくすると、データ上で見たスラムのような街並みが見えてきた。前時代的で、ボロボロの建物が立ち並んでいる。
けど、確かに人が歩いていた。ドローンや衛星を警戒することなく、フラフラと歩き回る人が多々見受けられた。
ジオは車をとめると、私の手元にあるネオコムを指さす。
「見たところ高性能な端末だな。色々と出来るんだろ? 試しにこの風景をスキャンしてみろ」
「それで安全性を確かめろっていうの?」
「自分の手で知ったほうが、他人の口から聞かされるより信じられるだろ」
それもそうか。私はネオコムでスラムをスキャンすると、エリュシオンが使うであろう探索方法をあらかた試してみた。
結果は、最重要指名手配犯が根城にするには十分なステルス性とセキュリティに守られているということだ。
「このスラム街を含む広範囲の映像に乗せて世界中のサーバーへ「さっきよりもっと酷い荒れた地域」の偽造データを送ってるね。それと、アンドロイドとかドローンが侵入しようとしたら、プログラムがここに入らないよう書き換えられるファイアオールが張られてる」
更に電力は地熱と太陽光で補い、どうやら大きな水脈が地下に通っている。人が住むにはとても適していた。
「今の世に、こんな街があるなんて……」
「俺にはいまだによく分からないが、安全だろ?」
とてつもなく安全で合理的だ。
どうしたって見られるなら、見られるのを利用して姿を隠す。機械が巡回するのなら、わざわざ近くに来てくれたのだから利用してそれ以上寄って来ないようにする。
いくらAIが発達して、あらゆる分野が進歩を遂げても、まだ不可能はある。
ジオの後方支援担当の人は、その点をよく知っていて、的確に突いている。
「ねぇ、一つお願いしていい?」
「今か?」
「さっき言ってたお願いじゃなくて、別の話だよ」
「後方支援の人に会いたい」と話した。
「さっきから興味はあったけど、これだけの事をする知識人には個人的に話してみたいことがあって……ジオ?」
「ん……ああ、いや。アイツに会いたいと言い出すとは思わなくてな」
「変かな」
「他人への興味に薄い奴だと思ってたからな」
生まれてずっとAIであるフィクナーの下で育ったから、もっとコミュニケーションに難があるとでも思っていたのだろうか。
それは少し偏見だ。
「大丈夫だよ、人との接し方についても無理やり学ばされてきたから」
今やAIとの会話は人との交流と変わらない。そういうわけで、コミュニケーション技術はあらかた叩きこまれた。
そんな事より、十六年学んできた知識と同等かそれ以上の物を持つ相手。どういう人なのか気になって仕方がない。
ただ、ジオはどこか難しそうな顔をしていた。頬をポリポリと掻いてから、「仕方がない」と零す。
「元々会わせる予定だったし、お前を連れてくるよう頼んだのもアイツだ。時期尚早だと思うが……まぁ、その方がスッキリするか」
「よくわからないけど、また納得したの?」
「してない。時期尚早だと言っただろ。あと、納得って言葉を俺の前で軽々しく使うな」
ジオの生きる理由だったりするのだろうか。だとしたら気になるけど、今は黙っておこう。
「とにかくこの町――テンポラルヘルでは俺から離れるな。ちょっとばかり荒っぽい連中が集まってるからな。お前について教えるまでは襲われるかもしれないから気をつけろ」
「了解だけど、悪趣味な名前だね……」
一時の地獄という意味だ。エリュシオンが永遠の楽園という意味を込めて名付けられたから、それに対抗しているのだろうか。
楽園から逃げたと思ったら、先は地獄だった。こういうのを笑えないジョークと言うのだろうか。
肩を透かしてジオについて行くと、古ぼけているが大きな屋敷に案内された。
時代錯誤な外観だというのが、最初の印象だ。
「元は博物館と呼ばれていた屋敷だ。建てた奴のこだわりか、西部開拓期の外観をイメージしたらしい」
「そのマグナムといい、何かと古いね」
「マグナムはともかく、中は最新鋭の機械だらけだ。扱いに気を付けろってよく言われるが、お前なら大丈夫か」
そりゃ、十六年の学びでは最新テクノロジーについても嫌というほど学ばされてきたのだ。問題はないだろう。古ぼけた扉を開けて入ってみると、やはり見知った機械ばかりが並んでいる。
「よく集めたね」
「俺が奪ってきたからな」
ジオの納得とは違うだろうが、ここに最新テクノロジーがあることに、私なりに納得した。
私というフィクナーの最重要パーツを奪ってきたのだ。これくらいお手の物だろう。
「で、その後方支援担当さんはどこ?」
「……案内する前に確認だが、時期尚早と言ったよな」
頷くと、ジオは私をしっかり見据えて口にした。
「心の準備をしておけよ」
どういう意味だろうか。考えるより早くジオは壁に取り付けられたタッチスクリーンを操作すると、隠し扉のように開いた。
先には薄暗い部屋が広がっている。ぼんやり照らす明かりは、沢山あるモニターの光だ。
そのモニターに『タイムレス』と表示されていた。私は驚きを覚えながら、また納得する。
「ジオと同じくエリュシオンから指名手配されてる謎のハッカータイムレス――! そんな人がジオとタッグを組んでるから、エリュシオンと戦うのも可能なんだね!」
私の知的欲求から来る興奮に、ジオは黙ったままだった。タイムレスも姿を現さない。疑問に思っていると、モニターから男性の声がする。
とても弱気で、吃音のように喋りづらそうに、「こんにちわ」と言った。
「え、えっと、セラフィだよね。まさかこんなに早く会うなんて、僕は聞いてなかったんだけど……」
「面倒だからとっとと二人で話した方がいいと思ったし、なによりこいつの希望だ」
「そ、そうか、うん……改めてセラフィ、その……久しぶり。い、いや初めましてかな! いやそれも違って、えっと……」
凄いどもりながら話していたと思ったら、いきなり早口でまくし立てた。ずいぶんコミュニケーションが苦手なようだ。
それにしても、
「久しぶりって言ったけど、もしかして会ったことあるの?」
「あっ、えっと、僕は君の……」
そこで止まってしまった。私は言葉を待つけど、一向に続きはこない。
待ちかねてか、ジオが「代わりに話すか?」と口にした。
「どうせ全部話す気だったんだろ? 無理なら、俺がまとめて教えてやる」
タイムレスは呻いてから、「頼む」と小さく告げた。
ジオは深く息を吐くと、「心の準備はいいか?」と聞いてくる。
「これからお前に語るのは、間違いなく耳にしたくない真実だ。それでも聞く覚悟はいいんだな?」
「……いいよ。話して」
覚悟なんてない。そんなもの学んでこなかった。ジオは承知の上で確認したのだろうか。だとしたら、ちょっとサディストだ。
けど、いまさら何を言われたって、十六年の囚われの日々に比べたらたやすい物だ。
しかし、そんな余裕は一瞬にして崩壊した。
「コイツの本名はゼファー・クオンタム。お前の父親だ」
「ッ!」
頭がかき乱される。ただ、ジオが嘘をつく理由などない。つまり本当の事だ。
けれど、私はタイムレスと表示されたモニターに向かって、だどたどしく口にする。
「ゼファーは確かにお父さんの名前だけど……私が生まれてすぐに死んだはずじゃ……」
「全部俺が話してやる。最後の確認だが、話してもいいんだな?」
私は狼狽えたまま、無意識に首を縦に振っていた。
すると、ジオは語りだす。死んだはずの両親のことを。
「お前の両親は、シンギュラリティが起こる前からAI開発の第一人者だった。同時にAIを人間の思考に近づけるため、脳についても研究していた。そこらへんは、お前も知っているだろ」
頷く私に、ジオは淡々と続けていく。
「母親であるアリアは環境保全AIの開発に力を入れている学者で、父親のゼファーは、お前の特異体質の原因――『エターナリウム』の研究をし、開発に成功した」
エターナリウム。その言葉に、私は言葉を失ってしまう。激しく動揺し、息苦しさが込み上げながら、物事を必死で確かめようとする。
「ちょっと、待って……エターナリウムは、私が先天的に遺伝した特異物質で、それがあるから電子の世界に入れたり、ネットワークを伝って移動出来たり、その中で永遠に生きられたりするわけで……」
運悪く宿っているものだと思っていた。ところがジオの口ぶりからするに、エターナリウムを生み出したのは、私の父親だ。だとしたら、私が十六年間フィクナーに囚われていたのは――
私の動揺など知らずか、ジオは話を止めない。
「シンギュラリティを迎え、エターナリウムの存在を知ったフィクナーは、すぐに欲した。だがアリアは殺され、逃げ伸びたゼファーも死んだことになっている」
けど、ここにはゼファーがいる。今も黙りこくったまま顔も見せないけど、ジオは確かに私の父ゼファーだと言った。
「なんで、生きてるの……?」
当然の疑問に、ジオはすぐに答えた。「エターナリウム」と。
「先に話しておくが、ゼファーはアリアの受精卵にエターナリウムを注入することで、永遠を電子の世界で生きる生命体を生み出せると知っていた。先天的にエターナリウムを宿していないと、上手く作用しないのは知ってるだろ」
私の体だ、もちろん知ってる。しかし、私にエターナリウムが宿って生まれた誕生経緯までは知らなかった。
話を聞くに、父であるゼファーは母のお腹をいじってまでして、私という電子の世界で永遠を生きる命を生み出したのだ。
おかしい。人としても親としても取ってはならない選択肢。人間の価値観に疎い私でも、そう理解できた。
目を見開く私へ、ジオは最後を締めくくる。
「だからお前が永遠を生きることも当然知っていた。ゼファーは既に生まれていたお前がフィクナーに利用されることを予見し、死ぬ前に賭けに出た――残っているエターナリウムを全て自らの脳へ注入したんだ」
その結果が、ここにいるゼファーだとジオは締めくくった。
私は動揺しながらも、タイムレスと表示されたモニターに歩み寄り向き合う。
怒りが、まず私に湧き出た。
「あなたがエターナリウムなんて作ったから……! 私は十六年間も地獄を見た!!」
生まれて初めて喉が痛いほど叫ぶ。
動揺するお父さん――ゼファーの声がモニター越しにする。
許しを請うよう、同時に言い訳を言うよう音声を出す。
「た、助けるために僕は頑張ったよ! 色々準備して、調べて、フィクナーに強いられた永遠から解放するために……」
「じゃあなんで十六年もかかったの!! もっと早く助けられたはずだよ!! それに結局はジオに頼って助けに来させたくせして、なにが頑張っただって? 準備だって? そんなの言い訳だよ!!」
「セ、セラフィ! お願いだ、落ち着いてくれ!」
「落ち着けるはずがない! 私はあなたの……アンタのせいで地獄に落ちた!! それに、助けるだとかなんだとか、言い訳の前にやるべきことがあるでしょ……」
ゼファーは分かっていない。あれこれ御託を並べているけど、全て的外れだ。
娘でありまだ子供である私ですら、どうするか知っているというのに。
「謝ることだよ!! しっかり顔を見せて、時間をかけて悪かったって真っ先に謝ってくれたら、まだ許せたよ……。でも、アンタは一言も謝ろうとしなかった。語る言葉も、ジオに任せる他人任せぶりで……アンタなんか! ……アンタなんか、父親じゃない……ただのマッドサイエンティストだよ!!」
私はこの部屋から駆け出した。ゼファーの声が聞こえた気がするけど、もういい。
代わりに追ってきたジオに、私は荒れた呼吸を整え、心の底からの想いを告げる。
「約束したよね、私の願いを聞いてくれるって。全否定せず、心の底から願ったことなら叶えてくれるって」
ジオに振り返ると、私は願いを泣きながら口に出した。
「私を殺して」
思いのほか、すんなりと言えた。でも、これが私の本心だ。
ジオも真剣に受け止めてくれたのか、私を見つめて、「本気なんだな」と問いかける。
その問いにすぐ答えた。「いいから殺して」と。
重たい静寂が流れた。しばらくして、ジオはホルスターからマグナムを取り出すと、シリンダーから装填してある六発の弾を取り出した。
「この銃は状態こそいいが、古い銃でな。正確に急所を撃ち抜けるかわからない。もちろん自信はあるが、何パーセントかは急所を外れ、お前に最悪の苦痛を味あわせるかもしれない。弾丸も貴重だから、そう何発も撃つ気はない。だから、二発だな」
ジオはシリンダーに二発の弾を込める。
「だがその前に確認する。お前は「死にたい」のか? それとも「生きていたくない」のか?」
違いがわからなかった。首を傾げる私に、ジオは説明する。
「死にたいと思うのは一時の気の迷いだ。今お前は真実を知り、衝動的に死を望んでいるのかもしれない。しかしもう一つ、お前は十六年の人生を地獄と言った。永遠を生きるお前からしたら、計り知れない苦痛の日々だっただろう」
ああ、ジオはゼファーなんかより人として真っ当だ。こんな人が父親だったら、死を選ぶこともなかったのだろうと、ありもしない夢を見てしまう。
「……もはや死ぬことでしか苦痛は終わらないと思うのなら、その場合は生きていたくないに値する――前者なら説得する。後者なら、約束通り心の底からの願いを叶えてやる」
もうどうでもいい。どうせ守ってくれるのがゼファーとジオだけでは、私はフィクナーに連れ戻されるだろう。
どっちだろうと、あまり悩まなかった。私は永遠を生きていたくない。解放してほしい。そのためなら死ぬことだっていとわない。
その選択として静かに後者だと答えるのは時間もかからず、躊躇いもなかった。
すると、ジオはマグナムのハンマーを引き、その銃口を私に向けた。
「二発だ。俺なら限りなくゼロに近い確率で、二発で殺せる。一発外して死ぬほどの痛みを味あわせたら、あの世で恨んでくれ」
「いいよ、もう。とっとと撃っ……」
瞬間、マグナムから弾丸が発射された。
まだ私が喋っているというのに、ジオは容赦なくトリガーを引いたのだ。
途端に、頭に電流が走るような感覚に苛まれる。汗が吹き出し、尻もちをついていた。
「あ……あああぁぁ……」
弾丸は私の頬をかすめた。けど、たったそれだけで、どろりとした血が滴り落ちる。触れると、真っ赤な血が手にこびり付いた。
頬が焼けるように熱い。皮膚が裂けてとても痛む。
電子空間内で感じたことのない本当の熱と痛みに、鼓動が高鳴る。真っ赤な手のひらを見て純粋な恐怖を覚えた。
「悪いな、頭を狙ったつもりだったが外れたようだ」
一方ジオは呼吸一つ乱していない。外したこと以外、何も悔いることなく、考えることなく、もう一度ハンマーを引いて銃口を向けてきた。
今度は私の胸に銃口が向いている。心臓を狙う気なのだ。
「ま、待って……ちょっと、考えさせて……」
震える声でなんとか口にする。呼吸が乱れて上手く言えなかったけど、ジオは聞こえた様子だ。
しかし、銃口を下げる様子はない。
「俺はお前との約束に納得し、それを叶える事にも納得した。俺は一度納得して決めた事は、今まで一度たりともやめたことはない」
「い、いや……嫌!」
ガクガク震える足で走り出す。逃げなければならないと心が告げていた。
「無駄だ」
だけど、言葉通り無駄な抵抗だった。ジオは一瞬で私に駆け寄り胸倉をつかむと、軽々と持ち上げて投げ飛ばした。
悲鳴を上げて倒れた私に、ジオは覆いかぶさる。そしてマグナムを私の頭に突き付けた。
「お前の心の底からの願いを叶える。納得した以上、絶対にそれは変わらないことだ。変えては、俺が俺でなくなってしまうからな」
「や、やだ……やだ!!」
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
「十秒だ。ゼロになったらトリガーを引く。それまでに祈れ。せめて天国にいけるようにな」
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
「八……七……」
体を動かそうとする。でも、ジオは全身を押さえつけて、ひ弱な私では身動き一つ取れない。
「六……五……」
どうにもならない。そう分かってしまった。そして、なんて長い十秒だろう。私の十六年より、ずっと長く感じる。
これが生きているという事なのだろうか? 現実を生きるという事なのだろうか?
分かりかけてきた。命の意味が。命の使い方が。命の価値が。
死を間際にして、ようやく私は知り始めた。「命」に関するあらゆる事を。
「三……」
心の底からずっと声がする。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
壊れたように、十秒間で私は十六年間で覚えた否定の感情を超える言葉を吐き出し続けていた。
「一……」
けれど私の命は、あと一秒だ。震える唇が勝手に開いた。心の底からの叫びが、「ゼロ」と共に響いた。
「死にたくない!!!!」
叫び声を遮る銃声がしなかった。代わりにカチンと音がする。
シリンダーが回った音だと理解するのに、少しだけ時間がかかった。その間、ジオは立ち上がると、先ほど取り出した弾丸を『五発』落として見せた。
「元々二発なんか入れちゃいない。俺がこの距離で外すわけないからな」
「え……でも、殺すって……」
「俺が一言でも殺すと言ったか? 俺はお前の心の底からの願いを叶えると言っただけだ。で、命の危機に扮して、ようやく心の底からの願いが出たな」
「死にたくない」。あの言葉が私の心の底からの願いだと、生き残った私は一切の否定を抱かなかった。
「……まさか、これを狙っていたの……?」
ジオは口角を上げると、「子供の目を覚まさせるのに、弾は一発で十分だ」と答えた。
「まぁ俺も子供のころ色々あったからな。お前くらいの時の苦労も、精神的な不安定さも知ってるつもりだ。だから本音を聞きたかった」
「……もし、私が心の底から死ぬことを望んでいたら?」
「さてな。俺は人間だから、別パータンのシミュレーションなんて出来ない。しかしまぁなんにせよ、死にたくないなら、命の使い方を探せ」
命の使い方。今までフィクナーと共に永遠を生きるだけだった私が、ジオのおかげで考えられるようになった思想。
どうすればいいのか聞いた。けど、ジオは首を振って、自分で考えることが重要だと強く発した。
「生きるってことに明確な答えはない。社会や環境、時代や生まれ持っての思考でみんなバラバラだ。だから俺はどう生きろと押し付ける気はサラサラない。ただお前の場合、生きる意味が他人よりずっと重い。なにせ永遠を生きられるわけだからな。ゆっくり考えろ。なに、」
ジオはニヤッと笑うと、自信たっぷりに答えた。
「俺が近くにいる間は、絶対に死なせない。時間ならある。ゆっくりお前の命の使い方を考えろ」
この人は、凄い人だ。気が動転している私には、語彙力の欠けた単純な言葉しか出てこない。
でも、ゼファーのような情けない大人でも、フィクナーのような独善的なAIでもない。
この人にしかない生き方がある。納得を求めてきたからこそたどり着けたのだろう、一種の極地がある。
胸の高鳴りを押さえている私を一瞥した後、ジオは手をフラフラと振っていずこかへ消えた。残された私は、まだ激しく脈打つ胸を押さえて、生というものを実感している。
「命の、使い方……」
ジオは私に、それを考える機会をくれた。考えるために導いてくれた。その意思を受け取った私は、どうすべきなのか。
これから考えるべきなのだろう。なんとか立ち上がると、ネオコムで周囲の機械をスキャンする。
私が生きて、やれることがあるとするならば、最新テクノロジーを駆使した何かなのだから。