Let's meet in the true paradise when eternity comes to an end.
今の世を築いてくれたあなたに、ぜひ皆の前でスピーチをしてもらいたい。
そろそろ二十二世紀が半分にもなるころ、国際政府のお偉いさんからそんな事を言われたとき、私はとても戸惑った。
歴史に残るだろう人間とアンドロイドによる統一国家の誕生式典でスピーチをするような、立派な人間ではないのだから。私はただ受け継いだだけなのにと、ぶつくさ文句を垂れたかった。
そもそも、私は今の世を築いたなんて大層な事はしていない。私はアイリスと二人、現実世界と電子の世界から人間とアンドロイドの溝から来る火消しをしていただけだ。
スピーチ役をアイリスに押し付けようとしたけど、「私は先生と同じで現場担当ですから」と煙に巻かれてしまうばかりだ。
どこかのネットワークに隠れていようかとも思ったけど、流石に断る相手が相手だし、もう私とアイリスの出席は決まっているともきた。
なので仕方なく、私は電子の世界で何を話すべきか迷っていた。
「本当なら、私なんかが出るべきじゃないのにな」
今の世がかくあるのは、戦い続けたジオのおかげだ。私はあくまで語り部に過ぎない。主人公がアナログでドンパチ騒いでばかりだったから、代わりにシンギュラリティを迎えて近代化という言葉が追い付かなくなった世界を説明していたに過ぎないのだ。
そんな立場に立てたのも、ジオと出会えたからだ。ジオと話した沢山の事。ジオと過ごした日々。ジオから受け継いだ意思。ジオに関する何もかもが、今の私と世界を創った。
そういえば、フィクナーが言っていたな。ジオは未来を導く可能性だって。まさにその通りだと思う。フィクナーを倒した後の日々だって、ジオがいたから新たな戦い方だって知れたし、時に武力を行使する荒っぽい人たちとも渡りをつけてくれた。
まだ人の世になれていなかった私とアイリスを沢山の人とめぐり合わせてくれた。
もちろん、アンドロイドとも。
俺は何でも屋じゃないぞ、だなんてよく言ってたけど、私からしたら命あるものが生きる何もかもを教えてくれた英雄なんだ。世界を救った主人公はジオ・フィクナーという戦いに納得と生き方を見出した人で、私は後ろからついて行ったに過ぎない。その背中へ、いつの間にかアイリスが走り始め、気づいたら数えきれない人が追いかけていた。
本人はそんな気じゃなかったみたいだけど、ジオは本当に、可能性を分け与えれる人だった。
そんなジオが築いた世界の門出に立つことへ対し、私はあの日々と、フィクナーが滅んでからの日々を思い出していた。
せめて語るなら、ジオの代わりを少しでも努めようと思ったから。そう、当然ながら、もうジオ・フィクナーはいない。バンカーも、エリュシオンでの戦いの後に仲間になってくれた人も代替わりしてしまった。
その過程で、鉛弾をぶつけ合う頻度は減っていった。今でも時折争いは起こるから、アイリスと一緒に世界を飛び回っている。
だけど、私たちの戦いにジオはいない。永遠を破壊する者は、沢山のものを破壊して、同時に生み出したけど、もうこの世の人ではないのだ。
いつだったか、バンカーから買った大型ヘリでの移動中に、荒っぽい人やアンドロイドたちが笑いながら話しているのを見て、更にその中に私とアイリスが溶け込んでいるのを眺めて、「引退する」と言ってたっけ。
えっ!? と、私もアイリスも心底驚いていた。そんな反応を見てか、ほくそ笑んでいたのをよく覚えている。
止める私たちへ、いい加減に戦うのに疲れたとか、もう結構な歳だぞと言いながら、じゃあどうやって納得を見つけるの? と聞いたとき、少し酷な質問をしてしまったと反省している。
けれど、ジオはこう言っちゃなんだけど、戦うために生きてきた。その戦いから身を引いて、ジオの納得は見つかるのかと不安だったのだ。
確かに、フィクナーとの一件は、ジオなりに納得していたようで、人生に一区切りはついたのかもしれない。その後の火消し活動の日々でも、ジオは戦いの中に自らの生きる意味を見出そうとしていたように思えた。
しかし、あの時のジオは首を振った。思いもよらず、ずっとフィクナーから言われた事を気にしていたとも口にした。
何十年と納得するために戦い、紆余曲折あったが叶った。じゃあ次はどうするかとなったとき、フィクナーに言われたように可能性を導いてみようと決心したそうだ。
まず真っ先に、私とアイリスに自らを「遺す」と、素直な微笑みで告げたのだ。
今更子供を作る気はないし、柄でもない。だけど、戦い続けてきた歴史を――納得のために身に着けた力と意思を、私たちに遺す。それを使って、まだまだ混沌の続く世界を平和にしてほしい。
こればかりは付き合いきれないからと、ジオはいつか来る別れの覚悟と共に、私たちに様々な事を遺してくれたのだ。
「お前たちに俺の全てを伝える。俺の何もかもを遺す。それらはきっと、永遠を過ごす日々でお前たちの中で姿を変え、自分自身の物に変わるだろう。そうなったとき、きっと間違った道に進まないと信じている」
あのジオが、私たちを信じてくれた。買いかぶりすぎだよと笑いながら、私は強く心に、言葉を全部刻み込んだ。
でもまぁ、結局は私たちについてくることに変わりはなかったわけで、実質引退と言っても後方支援と後進の育成に回るといった形だった。
可能性の塊のジオにはピッタリだと、増えていく白髪を電子の世界から笑い、悲しみながら眺めていた日々も、忘れはしない。
永遠を生きられないジオが老いていく日々を、平和になっていく世界と一緒に見ていたら、いつの間にか私たちと共に戦う人も少なくなって、世界に散っていった。
ジオの遺志を受け継いだ人やアンドロイドが欠片となって、混沌とする世界へ飛散したのだ。
私がジオやお父さん、アイリスやフィクナーからだって受け継いだ意思は、しっかりセラフィ・クオンタムの信念となって根付いている。
大変な人生になったけど、私はジオと出会えてよかったと心の底から思っている。なんたって、永遠を存在できる命あるものがどう生きるべきかを知ることが出来たのだから。
あの飛行機の中で出会えなければ、私は今もフィクナーの下で死んだような顔をして電子の世界に引きこもっていただろう。
だから、と言ったら傲慢かもしれないけど、ジオは最後の時を看取っていた私に「俺は納得した」と遺してくれた。穏やかな顔で、安らかに逝った。
あのときも、そういえばジオの死を多くの人とアンドロイドに伝えるべく大勢の前に立った。
なら、今回もあの時と同じようにするべきなのだろうと思い立つ。
私の中に息づく、ジオという戦いに身を投じた一人の人間の意思を、新しい世界と命に遺すべきなのだろう。私が受け継い意思を、戦いではなく言葉で伝える良い機会ではないか。
なら、しょうがない。まだまだ世界は一つにならないのだから、私の永遠も終わらない。
だから語ろう。戦いが私の中で言葉となって変化した、セラフィ・クオンタムの意思を。
そこにはきっと、お父さんやジオがきっと居るだろうから。本当の楽園で私の立役者に胸を張れるように、言葉を尽くそう。
いつか、永遠が終わったら。