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異世界大陸軍戦記-鷲と女王-  作者: 長靴熊毛帽子
第一章 鷲と女王
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第五話 入城

 戦いが終わった。

 ボナパルトは護衛と共に戦場を歩いている。


 『斧打ちの国』の軍勢は戦場から敗走し後には五百あまりの死体が戦場に散らばっている。


 傷を負って戦場に倒れた者はその倍にも上り、身代金が望めそうな騎士たちはクルーミルの手勢に捕らえられ、そうではないそこらから徴募された歩兵の負傷者は放置されている。


 無傷で捕らえられた者たちは死体を埋める穴掘りを命ぜられ周辺の村からいつの間にかやってきた農民と一緒に穴を掘り死体を埋める作業をしていた。


 周辺の村からやってきた者たちは戦場の後片付けを手伝うことで戦場に遺棄された武器や防具を拾うことが許されていて、村の人間はそれらを自分のものにしたり、街に売りに出たり、行商人に買い取ってもらったりして貴重な収入源にしている。


 騎士の従者たちが、主の亡骸を見つけて連れ帰ろうと集められた死体をまさぐっていた。



 軍資金を入れた馬車や、武具、食料なども捕獲された。指揮官を失い、装備を失い、統制と士気を完全に砕かれた『斧打ちの国』の軍勢はしばらく戦闘不能であることは明らかだ。




「我々の損失は兵10名と伍長1人が死亡、100名が負傷です」

 ベルティエが報告をまとめてもってくる。


 ボナパルトは勝利を素直に喜べなかった。相手を銃も知らぬ連中と侮っていた節がある。改めなければならなかった。この戦いは幸運だった。


 敵が出撃せず街に籠城していたなら自分たちは食料が尽きていただろう。そうならなかったのは自軍を少数に見せたやすく撃破できるよう見せかけたためでもあったが敵がたまたまそうしたに過ぎない。ギャンブルのようなものだった。



「ボナパルト将軍。我々の戦いぶりをご覧いただけましたか」


 腕に傷を負い、包帯に血をにじませた兵士がボナパルトのそばにやってきて言った。


「兵隊、私は満足している。よくやった。傷を治せ」


 その声は幼い子供を気遣う母親のように優しかった。


「ありがとうございます」


 兵士は敬礼してその場を去った。


「兵隊は好いな。ベルティエ。私は彼らが好きだ」


「彼らも閣下が好きでしょう」


「私は彼らを地獄に連れていくというのにな」


「しかし閣下は兵隊に勝利と栄光を与えます」


「栄光……栄光か。そうだな」









 しばらくしてボナパルトの元にクルーミルが騎士たちを連れてやってきた。


「ボナパルト、私たちの勝ちです。こんな風に勝ったのは初めてです!」


 クルーミルの表情は明るかった。


「勝利はまだ完成していません。街を手に入れなくては」


「ええ、そうでした。ですが、ボナパルト、お礼を申し上げます。これからも頼りにさせていただきます」


「これからも……」


 ボナパルトは一瞬躊躇ったが、すぐに下手くそな笑顔をつくってみせた。


「もちろん。協力します」







 翌日、ボナパルトとクルーミルの軍勢は『剣造りの市』を目指して進軍を再開し二日後に街を占領した。


 街はボナパルトたちが最初に見た村よりもはるかに大きく、人口も多かった。大通りは砂利が敷かれて通行しやすいようになっており、左右にいくつもの露店や、鍛冶屋、服屋、酒場らしきものが見える。各家の壁は暗い土色で、特に塗装がされている様子はない。大通りから少し外れれば、しっかりとした作りの家はまばらになり、蹴とばせば倒れそうな簡素な、壁と屋根だけの家がちらほらと見えた。


 人々は馬に乗って大通りを進むクルーミルの姿を見て歓喜の声を上げ、自分たちの女王が戻って来た事を祝福し続いて入城するフランス兵たちを好奇心たっぷりに見つめた。



 レンガ造りのしっかりとした造りに赤色の染料で彩られた鮮やかな館が街の中心にあった。市長が住む屋敷である。そこへ迎えられたクルーミルは早速、街の有力者たちと面会した。


 彼らは『斧打ちの国』の兵士がいかに自分たちを苦しめたか自分たちがいかにクルーミルの帰還を喜んでいるか、クルーミルを見捨てて降伏したのは本心ではなかった事などを長々としゃべり続け、改めて忠誠を誓うと言った。



 彼らが退室するとクルーミルは傍に控えていたアビドードに顔を赤くして言った。


「私が戦いに負けたら『斧打ちの国』に味方して私が勝ったら『斧打ちの国』を見捨てて私に忠誠を誓う。なんて自分勝手な人たち!」


 強い方の味方をする。というのは地元の勢力としてとても常識的な事ではある、クルーミルもそれはわかっているのだが、やはり自分を見捨てた人々についていい印象は持てなかった。


「しかし、彼らの協力なしには街は運営できません」


「わかっています。……彼らを許すしかありません」


「して、我が君、ボナパルト殿の件があります。彼らに食料を渡しますか」


「勿論です。彼らは私のために戦ってくれました」


「……彼らはよそ者です。それも、非常に強力な」


「いいえ。心強い友です。食料を渡す手筈を整えてください。そしてボナパルトを呼んでください」


「かしこまりました」





 ボナパルトはクルーミルの元に呼び出された。


「ボナパルト、お約束の食料をお渡しします。二十日分の食料がお渡しできます」


「それは結構」


「それで、これからの事なのですが」


「クルーミル殿……」


 貰うものをもらったらこんなところに長居は無用である。今頃ブリュイ提督がこの地を離れてエジプトに向かう航路を見つけているだろう。食料を手に浜辺に引き返すのだ。ボナパルトはそんなことを考えていた。


「司令官閣下!」


 そこへベルティエが血相を変えて飛び込んできた。クルーミルからボナパルトを引きはなして囁く。


「ブリュイ提督から緊急の報告がありました。この地を離れることができません!」


「なんだと」


 ボナパルトも血相を変えた。




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