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異世界大陸軍戦記-鷲と女王-  作者: 長靴熊毛帽子
第一章 鷲と女王
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第三話 打算

 ボナパルトはクルーミルに協力することを本当に決心した。幕僚たちに協力すると言い、兵士に協力すると説明しクルーミルにもそう宣言したにも関わらず、この瞬間までボナパルトの頭の中には別の選択肢が存在していた。


 しかし今や決心がついた。決心したなら行動するのみであるというのがボナパルトの信条でもあった。


 ボナパルトはクルーミルの美しい手を握りしめた。


「早速作戦を立てよう」



 ボナパルト一行はクルーミルの住まいへと案内された。この村の中では唯一、石造りで屋根に鮮やかな白色の塗料が塗られている。


 最も広い食堂へ通され、大きな机の上に地図が広げられその周りを全員が取り囲む。意思疎通を図るため全員が手をつないでいるので傍から見れば何かの儀式のようにも見える。



「私たちが目指すのは『剣造りの市』ここから十日の距離にあります。物見の報告によれば敵はおよそ一万。騎士と騎兵が合わせて千、歩兵が九千です」


 クルーミルが改めて全員に伝える。


「我々の兵は乗馬騎士が十騎、歩兵が四百。歩兵のうち武具を揃えられている者は百も満たないでしょう」


 クルーミルの家臣で指揮官を務める騎士、アビドードが付け加えた。

 ボナパルトが見るに年は五十ほどだが活力に満ちており短く刈り込んだ黒髪に闘志に満ちた緑色の瞳を持っていた。


「そして……『日の住む大河』の向こう、フランスなる国から我らに助力していただけるという、ナポレオンボナパルト殿の兵がおよそ五千。さらに浜辺には二万五千の兵があるとか」


 ボナパルトは胸を張った。


「しかし……失礼だがナポレオンボナパルト殿の兵は些か頼りない。騎士はおらず、歩兵には鎧も兜もない」


 アビドードの横にいる別の男がやや不安げに言う。



 銃も知らない田舎者どもに「頼りない」と言われるとはボナパルトは心外だったが、懸命にそれが手を伝って漏れ出さないように努めた。



「心配ご無用。私の兵隊は諸君らより役立つだろう」


 ボナパルトはクルーミルのそばにいる彼女の部下たちをその青みがかった灰色の瞳で一人ずつ射すくめるように見やった。


「兵は兵です。ボナパルトの兵は三万。十分に敵を破れます」


「クルーミル女王、一万の敵を破るに兵は五千で十分です」


 全員がボナパルトの発言に首を傾げた。


「五千で進む理由は二つ。第一に街までの道が悪い。いや道がない。大軍が移動するに向かない。浜辺にいる全軍を今から呼び集めたのでは戦機を逸する。第二に、敵にわが軍を少数に見せて、簡単に倒せると思わせ、街から出撃してくるように仕向けたい。こちらが多数で迫れば、街に籠城したり物資を焼き捨てて退却したりする可能性がある。それを減らしたい。わが軍には街にある食料が不可欠で、これを無傷で手に入れる必要がある。敵にこちらを撃破できる可能性大と見せかけて一度の野戦で撃破したい」


「理由はわかるが、敵の半数では勝利などおぼつかないのではないか?」


 アビドードが尋ねる。


「いや、できる!」


 ボナパルトは力強く答えた。大砲も銃も知らぬような連中の軍隊など一たび撃ち合えばたちまち驚いて崩壊してしまうに違いない。そのような傲慢な打算が彼女の胸の内にはあった。


「ボナパルトには自信があるようです。私はこの方を信じてみます」


「しかし、女王陛下。であったばかりの者にすべてを委ねるおつもりですか」


 アビドードはボナパルトたちにはわからないように声に出した。


「選択の余地はありません」


 クルーミルは静かに、しかし断固とした声でアビドードに告げた。

 クルーミルにしてみれば、それ以外に選択肢はない。彼女の手元にあるのは僅かばかりの敗残兵であり、ボナパルトの軍事的才覚と兵力に頼るほかないのだ。残る財産をすべて賭けて挑むか、あるいは臆して追手にとらわれるのを待つか。二つに一つ。





 会議が終わるとボナパルトと部下たちは家の二階へ案内された。客人用の寝室である。


 外の兵士たちは各々テントを立てるなり毛布に包まるなりしている。屋根付きの家屋で眠れるのはありがたかった。


「連中は信用できるでしょうか」


 ベルティエが聞く。


「さあね。信用なんか関係ない。連中が賢ければ私に従う他ないと分かるはずよ。五百の兵で一万の敵をどうにかできるわけないんだから」


「本当に彼らに味方して戦うおつもりですか? 兵士たちになんと言います。ここはエジプトでもなければアフリカでもありません。兵士たちはフランスのために戦うでしょう。しかし、この訳の分からない世界の、誰とも知れぬ女王のために戦えと言うのですか?」


 ボナパルトは軍服を脱ぎ、ウジェーヌが持って来た寝間着に着替えながらベルティエに答えた。


「とりあえず今のところは、水と食料が要る。何がどうであれ、私には軍隊を食わせる義務がある。こんなところに連れてきてしまった責任もね。水と食料を得るには、現地の人間に合わせるのが一番早いわ。だから協力する。でもそれも長い話じゃない。水と食料を手に入れたら、さっさとここを離れる。兵士には……フランスの同盟部族を助けるとでも言っておきなさい」


 ボナパルトは用意されていたコップに水を注いで飲んだ。


「ベルティエ、ブリュイ提督にこの土地から離れる準備をさせておきなさい」


「承知しました」


「明日は夜明けと共に進軍よ。下がってよし」


 ベルティエとウジェーヌは一礼して部屋を退室した。


 二人が出ていくとボナパルトはベッドに横になる。


 まったくこんなことになるとは思いもしなかった。見知らぬ土地、見知らぬ国、不思議な力。あれやこれやと思い出しているうちにボナパルトは眠りへと落ちていった。




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― 新着の感想 ―
数の上では半分ですがボナパルトちゃんの神がかり的な用兵術で完膚なきまでに完全勝利をしてくれる期待してます(興奮
[一言] ファンタジー軍記ものぽくって私は大好きです
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