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異世界大陸軍戦記-鷲と女王-  作者: 長靴熊毛帽子
第三章『草長の国』戦争~いまから始める大陸軍(グラン・ダルメ)~
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第二十話 いまから始める大陸軍その③

 ボナパルトはクルーミルからフランス軍が持ち込んだ道具や技術を担保に商人から金を借りることができないか、というアイデアを聞くとただちにカファレリ将軍に『剣造りの市』に駐屯している全部隊を『川辺の都』へ出発させるように命令してクルーミル、コンテ共に『川辺の都』へととんぼ返りした。善は急げ。というのが彼女のモットーである。二人の後を護衛と、いくつかの細々とした道具とその設計図を積んだ小型の馬車が、たいした舗装もされていない道を土埃を立てながら続いた。






「御覧ください。フランスの科学技術の粋を!」


ボナパルトの屋敷の広間に集められた商人たちを相手にコンテが道具を次々に披露してみせる。商人の中には「このように素性の知れぬ技術を持ち込む怪しい発明家などはごまんといる。たいして価値のあるものではない」という言う者もいたが、多くの者は印刷機や望遠鏡、顕微鏡といった未知の技術に商機を見出そうと関心を示した。いずれもグルバスには存在しない物ばかりである。もしくは頭の中にあっても技術的に製造することができないと思われた品々である。




「さて。お集まりの諸君にはこれらの技術が持つ価値はご理解いただけるだろうが……」


コンテが一通り技術の説明を終えるとボナパルトは集まった商人たちへ告げた。


「我々はこの技術を諸君が学ぶ場所を設けたい。我々が持つ、この世界には無いあらゆる知識を学ぶことができる学問所だ。入学金と学費を支払えば、貴族、平民を問わず。またどの組合に所属しているかも問わない。あらゆる人間が学ぶことができる場所である」


 ボナパルトはフランスの機械や、機械を作る技術を学ぶ権利を売りに出すことにした。

機械を作る技術を独占し、自分たちの手で売り出すという手もあるが、未知の技術の独占販売は商人や職人たちの組合から商売敵として妬まれ、排除される危険がある。

 また買い手の問題もある。こうした技術は独占すればするほど価値が高まるものであるから、少人数の大商人に高値で売りつけることになる。大商人たちは自分たちしか買い手がいないと分かれば結託して、この技術を安く買い叩こうとするだろう。


 門を開き、知識を学ぶ機会を広く売り出すのだ。学んだ後、その知識を使ってどう商売するかは彼ら自身の商才にかかっている。

 


「入学金はミナル金貨二十枚からとする。入学する者には学びに必要な教科書も販売する。金貨十枚からだ。」

 

それはこの世界では破格の金額であった。

 この世界で学びを得ようと思えば教師を雇うだけでもその十倍はする。教科書だけでも金貨三十枚は下らない。教師はそもそも数が少なく、もっぱら、貴族の子供ばかりを対象にする上、印刷技術が無いので書物は全て手作業で書き写すしかないためである。

 ボナパルトは印刷技術を活用することで書籍を安価に供給することを約束した。

印刷技術さえあれば後は持ち込んだ知識をそのまま印刷するので紙代とインク代、いくらかの手数料を差し引けば金貨十枚そのほとんどが利益としてクルーミルとボナパルトの懐に転がり込む。この世界では本一冊金貨十枚というのは破格の安さだが、ボナパルトにとっては金を印刷しているのと大して変わらなかった。



 教師たちの成り手はボナパルトがフランスから連れて来た百五十人ばかりの学者たちである。学者たちからしてみれば、この世界は未知のことだらけであり、植物一本、石ころ一つも全て研究対象である。現地の人間と直に接して情報を集める機会を学者たちも渇望していた。


 機会を等しく与える。誰にでもチャンスがある。それは向上心のある者の心をひきつける。

大金持ちの商人は勿論、さほど裕福ではない商人たちもこれに賛同した。我が息子や娘に知識を学ばせるのだ。そうすれば彼らは新しい技術を身に着けた職人や商人になってさらに一族を富ませるだろう。

 知識が持つ価値を知らない者は商人にはいない。


 その場にいる人々の多くがボナパルトの提案する計画に賛同して資金の提供に同意した。

安価で供給される学びの場に興味を示すのはここにいる商人だけではない。少しばかり裕福な農民や、職人の子弟もこぞってここに来るだろう。

 



「素晴らしい考えです。お金を集めるだけでなく、民に学びを与えようとは!」


人々が解散した後、クルーミルは嬉しそうにボナパルトを賞賛した。


「貴女が私たちの技術の価値を気づかせてくれたおかげよ。これでいくらか金が集まるわ。集めた兵隊の最初の給金ぐらいは間に合いそうね」


 学校を作り、知識を広める目的は金を得ると言う他にもある。

集められた子供たちは一つの場所で学び、育つ。その中で彼らは交流する。そして「我々は同じ女王の民」であるという意識を育む。同胞意識、同族意識を彼らの中に巡らせるのだ。まずは裕福な商人や職人の子らから、そして次は貧しい者にも教育をいきわたらせて、人々の間に「我々は同じ女王の民」「同じ国の民」であるという意識を育てていく。教育を受け、同胞意識を持った人間たちは、戦場にあって命令をよく理解し、隣の味方に戦友意識を感じて踏みとどまるようになる。つまり、良い兵士になる。

 ボナパルトはここに、そうした種を蒔こうとしていた。



 


「司令官。先ほど集めた商人の一人が、閣下と女王にお話があると申し出ているのですが」


ベルティエが二人を呼んだ。


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