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異世界大陸軍戦記-鷲と女王-  作者: 長靴熊毛帽子
第三章『草長の国』戦争~いまから始める大陸軍(グラン・ダルメ)~
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第十八話 いまから始める大陸軍その①

「新しい軍隊……とは?」


クルーミルはその美しい金髪を傾けて問いかけた。


「まずは貴女の今の軍隊について振り返ってみましょう」


 ボナパルトは二角帽子をもてあそびながらクルーミルに説明する。


「貴女の軍隊は今、貴女と主従の契約を結んでる貴族たちの寄り合い所帯みたいなものよ。見た目は一つの軍隊だけど、中身はバラバラで指揮系統は不統一」


クルーミルは頷いた。


「貴族たちが集めた兵士は、一応は使う武器ごとに編成されなおして戦ってるようだけど、見ず知らずのやつらといきなり一緒に戦う事になる兵士たちには結束も団結もあったもんじゃないし、そこらの農民を集めてきてるだけだから戦闘訓練なんてほとんどない。はっきり言って烏合の衆よ」


 ボナパルトは召使が持って来た飲み物に口を付けた。甘い林檎ジュースのような味がする。


「貴族たちは騎士として馬に跨って突撃する。騎士の突撃は確かに強力だけど、貴女たち『草長の国』の騎士たちはてんでばらばらに敵に向かっていくばかり。『斧打ちの国』の連中はいくらか集団で突撃してたけど……でも程度の問題で、彼らにとっては戦いとは個人プレーの集まりなんでしょ」


 ボナパルトは傍に立っている召使にジュースのおかわりをジェスチャーした。


 騎士は弓兵や歩兵、砲兵といったほかの部隊と連携することでさらなる絶大な威力を発揮できるのだ。とボナパルトは戦争の歴史とと自らの経験から知っていた。フランスにまだこの世界の騎士たちと似たような、甲冑を身に着けた騎士たちがいた頃、彼らはほかの部隊と巧みに連携して戦っていたのだ。


 どうやらこの世界ではそうした連携攻撃はまだ考えられていないか、考えられていたとしても実行に困難が伴っているようだった。他の部隊と連携して攻撃するというのは訓練を要するものである。


 

「戦場での戦い方に問題があるのは置いとくとしても、貴族たちの寄り合い軍隊であるといことは、彼らの協力が無ければ軍隊を動かせず、彼らがその気になれば軍隊を使って反乱を起こせる。というのが致命的よ。こんな状態じゃ強い王様にはなれない」


ボナパルトはお代わりした林檎ジュースを飲み干した。


「つまり! 必要なのは! 統一された指揮系統を持ち! 高度に訓練された! 女王の命令に絶対服従!そういう軍隊よ!」


ボナパルトは机を叩き、語気を強めて満を持してというような表情でそう宣言した。


「その通りですナポレオン!」


クルーミルも力強く頷いた。


「それで、そうした軍隊はどうやって作るのでしょうか?」


「それは勿論、貴女に忠誠を誓う人間を集めて訓練を施し、武器を装備させればいいのよ」


「それはそうです。……ですが、そうしたことをするには莫大な費用がかかります。どこからその費用を出せばよいのでしょうか?」


「そう、そこなのよクルーミル。金、お金をどうやって手に入れるか。貴女に考えてほしいわ。なにかいい財源はないかしら?」


二人は顔を見合わせた。


「お金ですか……」


「そ。私も一応考えはあるんだけど……たとえば、領地に重税をかけるとか、征服した土地に

軍隊を養うための特別税を課すとか、鉄や塩といった必需品や酒などの嗜好品を国王の許可がないと売れない専売制にして税金を巻き上げるとか……」


 ボナパルトはイタリアで軍を指揮した経験があったが、基本的には軍の支える資金繰りをどうするかという問題は本国の政府が考えるものであったし、自給自足が必要なら占領地に税を課したり略奪したりという方法を採っていた。基本的に軍人であり、その思考は軍事力にモノを言わせた高圧的なものになりやすい。


「そういうことをしたら、私は支持を失ってしまいます」


 クルーミルは美しい顔を曇らせて答えた。

重税は貴族や商人、町人、農民あらゆる人々に嫌われる政策である。下手をすれば反乱が起こり、統一どころではなくなるだろう。


「むぐぐ……」


「商人たちからお金を借りる、というのはどうでしょうか?」


「商人?」


 ボナパルトが商人と聞いてイメージするのはフランス軍の御用商人たちである。金に目がなく、儲けを出すためならパンにおがくずを混ぜてワインを水で薄め、質の悪い靴を平気で納入する……そういうものを連想する。


 もちろんそういうのは悪質な一部の商人たちであり、善良でまじめな商人たちは多い。危険を冒して軍に追従し、悪路を乗り越えて兵士たちに必要なパンやワインを提供し、兵士たちが占領地で得た「戦利品」を換金して、給金を故郷の家族に送金するのに必要な手続きを行い、軍隊が必要な軍資金を貸し出してもくれる。軍隊に商人は必要不可欠な存在だ。


「商人から金を借りるには、担保が必要よ。徴税の権利でも売るの?」


 権利と引き換えに金を得るのは国王の常套手段であるが、いまだ弱い権力しかもたないクルーミルの権利を商人たちが買い求める可能性は低い。投機での買い手はつくかもしれないが。


「ほかに良い手が思いつきません……」


「まあ……そうよねえ。いいわ。じゃあ、とりあえず金の事は後でどうにかするとして、とりあえず人は集めましょう。街中に兵士を募る張り紙をだして、各村に志願兵を募る使いをだして頂戴」


「お金の目途もたってないのに人を集めるのですか?」


「そうよ。資金を調達してから人を集めるんじゃ間に合いそうにないし。最初の給料を支払うまでに思いつけばいいわ」


 クルーミルは目を丸くした。










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