王宮を攻略せよ
問題があるとするとどうやって王宮に入るかだろう。
王の城というだけあって街と不釣り合いなほど厳重な警備体制だった。
魔法による監視から逃れるために中を見にくくしているし、人の数が多い。
王宮内がどうなっているかわからないのに迂闊に近づくのは避けた方がいいだろう。
人の方は一般人で魔法を使う人は少ないように見える。
護衛は使い捨てで中に強力な魔法使いがいる場合もあるので、
外の人間の脅威だけは低いと考えた方が無難である。
外からの監視で分かったのはここまでだ。
そしてここで手詰まりでもある。
「私達“クレリアリス”の過去を見る力って言うのは、その場所の記憶を読み取るの。
だからその場所に行かないと過去を見るということは出来ないわ」
“クレリアリス”、教戒師と呼ばれている貴族の力の通称だ。
その中の一つ、過去を見る力は物に残る記憶の残滓を読み取り、映像化するそうだ。
この記憶の残滓は物の大きさに比例するようで、場所でなければ難しい。
つまり過去を見るのはその場所に行かなければならない。
王宮内がどうなっているかわからない状況で、王宮内の過去を見るのは無謀な話だった。
「となるとクルル達が中に入る必要があるけど……
先に私達が中を見て、安全に入れるようにしなければならないわね」
「集めた情報から護衛連中の入れ替えが頻繁に起きているから……俺が適任だな」
ファイゼンは潜入に名乗りを上げた。
「男って言うなら俺も行こう」
「「いやいやいやいや」」
トウヤも名乗りを上げたが全員に止められた。
「お前は見た目でアウトだ」
トウヤの見た目は身長が少し伸びたが、まだ少女とも言えるくらい中性的な見た目だ。
「弱そうだから役に立たないって思われるかもね」
見た目で判断され怒りを覚えたが、言う相手が違う。
言うなら護衛をまとめるリーダーか王様だろう。
「そんなこと言うなら、そっちは“喜び組”でもいいんじゃねえか?」
「馬鹿言わないでよ、あれに触られたら……ひぃ!」
この中で一番美人と言われるのはポーラだろうが、この反応である。
リーシャも小柄でツリ目だが整った顔立ちで、そういうのが好みなら好かれるだろう。
「おいらはリリスの方が可愛らしいと思うにゃ」
「……トウヤが行けと言うなら」
「いや、言わないから。冗談だから」
リリスも幼さが残る、目がぱっちりした黒髪美人と言えるし、
リンシェンも黙って座っていれば美人な方だろう。
(誰が行っても王様は喜びそうだな)
そう思うあたりトウヤも中身は野郎である。
トウヤは王宮に向かわない代わりに向かったのが、例の布男とその女の場所である。
天使のように全身に魔法陣を宿し、それを自力で抑えている男。
魔導士であればかなり高いランクになりそうだ。
そしてその恋人と思われる女は空間操作系の魔法を使う。
魔力がそんなに高くないのか、移動も短距離だし複数の空間操作は不慣れのようだ。
男はなぜあのようになったのか、二人はどこで出会い、なぜ一緒に暮らしているのか。
そしてなぜ孤児を集めて面倒を見ているのか、疑問が尽きない状況だ。
「ねえ」
今回は一人でない。チームを組んでいるリリスも一緒だ。
「どうした?」
「待ってるだけじゃ何も変わらないから、会いに行かない?」
大胆な作戦に少し驚いた。
「会いに行ったって警戒されるし、不審者に何か話すなんてことはしないよ」
見ず知らずの他人に身内の話をするなんてことは普通しないだろう。
「大人ならそうかもしれないけど、子供ならどう?」
「……」
彼らが保護した子供たちのうち、数人は目の届く範囲の屋外で遊んでいるのを見て思ったのだろうか?
確かに子供なら警戒は緩い。だが……
「何も知らない可能性が高いから、無駄だと思うよ?」
「そう」
素直に引き下がったリリスは、それ以上話さなかった。
数分後
後ろにいたはずのリリスが監視している子供に接触していることに驚いた。
「ちょ!?何やってんの!?」
無理やりでも連れて行かないと、相手に見つかってしまうので飛び出してしまった。
この国は子供が健やかに育つ環境ではない。
貧しい故に子供を物として売り、収入を得る輩がいないと限らない。
そのため親は常に子供を監視している。
つまりその状態で子供と接触すれば必ず見つかってしまう。
それを解っていての行動だろうか?
いろいろ考えながら向かっているとあることに気づいた。
そして……
ピシッ!パリン!
リリスの近くで何かが割れて砕ける音がした。
「おまえ!その子を離せ!!」
例の女がリリスの元へ駆けつけた。そして砕ける音は女の魔法だろう。
「……いきない攻撃とか酷いんじゃない?」
リリスの返答を待たずに女は矢を放つ。放出系のようで氷の矢だけでも飛んできた。
が、リリスの結界の前では魔法の矢は石となり崩れ落ちる。
「くっ!なら――」
「待った待った!!」
トウヤは二人の間に割って入った。
「――!?君は!!」
「驚かせてすまない!俺の仲間なんだ。あいつはそれからその子を守っただけだよ」
トウヤが指して説明する物陰には人の形をした石像があった。
「まさか、守ってくれたの!?」
リリスは答えない代わりに子供を離した。
「お姉ちゃん!」
子供は女に抱きつくと泣き始めた。
子供の様子を見て助けたのが事実だと確信した。
「ごめんなさい、てっきり人攫いかと思ってしまって……」
「いいって、こちらも不用意に子供に近づいたんだから、仕方ないさ。
リリスも子供に不用意に近づくなよ。この国は安全じゃないんだから」
「……ごめん」
反省はしたが、今回はリリスのお陰で子供は助かったので後でお礼をせねば。
一応リーダーだからか仲間の良い功績には何か褒美を用意しないとと感じてしまった。
「みんなで家に帰ってなさい。私はこの人たちと話があるの」
女がそう言うと子供は黙って頷き、家の方に向かった。
「で、局の魔導士が何の用かしら?」
「よく局の人間だと分かったね」
「あの後一緒に合流した一人、ギルドマスターでしょ?
局がマスターに配布するマントを身に着けてたしね」
「そんな身バレするようなものを着けていたのかよ」
トウヤにはいつも身に着けているバリアジャケットの一部だと思ってた。
「一応、名乗るのが先だね。俺はホシノトウヤ、こっちがチームメンバーのリリスだ」
「リリス・フランベールです」
リリスも学んだ挨拶で名乗った。
「へぇ、局の人間でも礼儀を重んじる人がいるのね。
私はマリア・ウィンタード。見てのとおり子供を育てる一般人よ。
それでトウヤとリリスはなぜ、こんなのことにいるのかしら?」
やはり警戒されている。
ここは嘘偽りなく話すのが良いだろう。