最後の手掛かり
天使の居場所の最大の手掛かりは、アルフォートが最後に報告した場所、イタノークだ。
絶対王政からなる貧富の差が激しい国で、王の土地のみ肥えていて、
その他の国民が暮らす土地は枯れていた。
そして王は局による管理を拒否している。
そのためかほぼ放置され、局の目が届きにくい状態らしい。
局から隠れるという意味ではかなり良い場所と言える。
「これでも国が成り立つのが不思議だな」
遠くで様子を見ていたトウヤが呟く。
「そんなに長くはもたない国でしょうね。王様もほら、見るからに不健康よ」
ポーラに見せられた写真にはブヨブヨに垂れ下がったぜい肉を持つ男が移ってた。
「うげ……」
食って寝て女と遊んで……欲望のままに生きた結果がこれである。
存在すら知らなかった国がどうなろうが、そこまで関心は無い。
大切なのは天使の痕跡がどこにあるかである。
「戻ったぞ」
住人からの情報を探っていたリーシャとファイゼンが現れた。
「どうだった?」
「全然ダメだ。ここの住人は今を生きるのに必死で他に関心が無さすぎる」
リーシャは首を振りながら答える。
「こっちはある程度この国の情報を仕入れてきた」
リーシャが不審者や見慣れないものを聞きまわったのに対し、
ファイゼンは住人が知っていることを聞き出したようだ。
「どうやらここ数年、王宮入りする人間が増えたらしい。
元から見張りや護衛の男の入りは多かったみたいだが、
“喜び組”なんて呼ばれてる王直属の女集団の入りも増えたそうだ」
「喜び組?」
「あー……王様の接待をお布団でもやる女性と言えば伝わるか?」
夜のお店が多い街の近くで暮らしてたトウヤでも伝わった。
「だが出てくる人が減ったと感じている住人が多い」
何かの理由で出ることが出来ない。
例えば殺されたり……実験されたり……
「一番怪しいのが王宮か。あの王様なら食べ物や女で何とでも出来そうね」
全員が納得してしまった。
「あともう一つ、氷の魔女と呼ばれてるのがこの国のどこかに隠れ住んでいるそうだ」
「魔女?ってことはこっちは魔法で何かやってるのね」
天使は魔法で作られた生物。こちらも怪しい。
「ここは王宮攻略と魔女探しの二手に分かれて調査する必要があるわね」
「あぁ、そうだな」
方針が決まったので他のメンバーへ連絡する。
「あれって……」
監視していたトウヤが何かに気づいた。
「どうしたの?」
ポーラ達も覗く。
「王宮の辺り……女の人が追われてる?」
さっき言っていた王宮関連の人だろうか?
「ちょっと助けてくる」
トウヤはそう言うと素早く飛び出した。
「ちょ!?目立つ行動は避けないといけないのに!」
「まあ、考えるより先に体が動いてるんだろうぜ」
地球にいた頃も似たようなことをやっていた。
やれやれという感じだが、別に悪いことじゃない。
「トウヤ、隠してやれよ」
リーシャが念話でそう伝えると、トウヤはローブで服装を隠した。
「あの性格は変わりそうにねぇな」
「いいんじゃね?」
スグに合流できるようにポーラ達も飛んでいった。
人助けが終わると上空で合流した。
「何か聞けた?」
「あっ……」
「ホントに助けただけかよ」
「ごめん」
人助けついでに何か情報を聞けたら良かったが、
本人は助けることしか頭になかったようだ。
「……下を見るな。目線はこっちに」
突然のリーシャの言葉に一瞬で緊張が走る。
「あの女、こっちを見てる」
300mほど離れてるはずだが、魔法での視線を感じる。
「……警戒された?」
「いや、ただここで合流したのはマズかったかもしれないな」
局があまり干渉してこなかった国に局の魔導士が複数人いる。
これは何かあると勘ぐられても仕方ないことだ。
「中の人ならマズいな」
「ここは離れて様子を見るぞ」
全員で何事も無かったように離れた。
どうやら彼女も魔法使いのようで、能力としては空間操作系の使い手だ。
王宮にへは新鮮な野菜を始めとする食料と綺麗な飲み水を盗むためだった。
倉庫へ侵入して盗んだものを異空間へ入れ持ち帰る。
盗品を持たずに動けるのは大変便利な能力である。
倉庫との空間を繋げばいいのにと思ったが、彼女が移動出来る距離が短いようで、
ある程度近づかなければいけないようだ。
さらに、盗んだ後はさらに距離が短くなっている上に、転移回数も増えている。
どうやら盗品を入れる空間を維持し、動かすのと、転移の両立が難しいようだ。
ある程度王宮から離れたら転移せず歩いているのも確認出来た。
そして食料を盗んでいる理由も分かった。
「血の繋がらない家族……か」
彼女は十数人の子供達と一緒に暮らしていて、その子供達に食べさせていた。
境遇が近いトウヤには嬉しい理由だ。
「……いい人だな。仲良くなれそう」
そしてもう一人、大人がいた。
全身布で体を包まれていたが、体格が大きいので男だろう。
二人はまるで夫婦。病気を抱える夫とそれを支える妻という感じに見える。
彼女が若そうに見えたし数十人いたから、たぶん子供達は孤児。
二人が子供達を引き取って育ててるんだろう。
ふと故郷を思い出す。
「元気……だよな」
チビ達の顔と親代わりのシスターの顔が思い浮かんだ。
そしてシスター達が苦労してたことも。
「この国の王様が変われば彼女も楽になるかな?」
私的なことを思ってしまったが、すぐに追い出した。
「余計なことを考えてたらクエスト失敗しちゃうよ」
頬を軽く叩き、気合を入れ直す。
今回の件に彼女は関係ない。そう報告するためにポーラ達がいる場所に帰った。
「男にょ方は関係大ありにゃ~」
情報解析に専念していたリンシェンの話にショックを受けた。
トウヤの報告した映像から重要な情報が取れた。
男は全身に魔法がかけられていたのだ。
「布の隙間から流れ出ている魔力は相当なものよ。恐らく無理やり抑えてるのね」
「全身に魔法……天使と同じ状況だけど、彼は自力で自我を保っているんだな」
「この国の昔を知ることが出来れば大きな手掛かりになりそうだな」
「う~ん。そもそもこにょ国は記録という風習がにゃいにゃ」
この国には記録媒体や紙が全然無い。
王宮で一括管理して都合のいい記録だけを残しているのだろう。
街の露店にも数字だけで文字を見ることがなかった。
もしかしたら識字率も低いかもしれない。
そんな中で記録が残っているとすると王宮内だろう。
王宮内で起こった過去の記録を呼び出す。
まさに適任の魔導士が最近仲間になっていた。