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貧民街の女

もう何年経つだろうか?


廃れた街並みは変わらないけど、変な連中が現れてから人の出入りが減った気がする。


こんな街に来たいと言う物好きは少ないので、出入りが見られるのは稀だけど。


ただここでも生きている人はいる。


「今回の報酬だ」


「どうも」


フードとローブを目深に着直し向かうのは露店だ。


と言っても何かを買うわけではない。


あんな干からびた果実や汚い乾物を買っても無駄だ。


小さいから一日ももたないだろう。


向かう先は……


「チッ!」


いつもより多い見張りがいる。


この街で唯一飲める井戸水。あいつらもそれが分かってて見張っている。


生物である以上、食事の他に水が必要になる。


そこに法外な値段で金をとっている。


と言っても貧しい街なので、はした金程度しか手に入らないけどね。


そして……


井戸の奥からドンチャン騒ぎの声が聞こえる。


用事はその側にある食糧庫。新鮮な野菜が唯一手に入る場所だ。


野菜も法外な値段だが、これを手に入れないとあの子たちが飢えてしまう。


見張りが多いので危険だがやるしかない。


覚悟を決めて出来る限り()()()で話した。


「すみません、これで野菜をわけて欲しいんですが……」


「ん?ああ、いいぜ。幾らある?」


「ここに」


「チッ!この程度じゃこれだけだ!」


見張りの男は手のひらくらいの大きさの野菜を掴むと投げつけた。


「うっ!」


頭に当たり尻もちをついてしまう。


それと同時に被っていたフードが脱げてしまった。


「女!?……しかも……」


男の視線が下に下がる。


(しまった!)


急いで隠すが遅かった。


「へえ、いい体の上玉じゃねえか」


その言葉に他の見張りも集まってきた。


囲まれる前に逃げ出したが、すぐに捕まってしまった。


「はなせ!」


振りほどこうとするが、力では敵わない。


「野菜が欲しいならもっと稼げる仕事紹介してやるぜ」


察しはついている。


「誰がやるかそんなもの!」


すると男は口元を掴み壁に押し当てる。


「強気だねぇ!いいよ一番良いの紹介してやんよ!」


人数が多いので逃げ切れるか不安だが、こうなればもう強硬手段しか方法がない。


そう思ったとき、ふと声がした。


「お待ちなさいな」


声の方を見るとフードを被った小柄な人がいた。


「どっから現れた!?誰だてめぇ!!」


そいつはフードをとり顔を見せた。


「お、女!?……へへっ」


相手が女だと分かると男は油断した。


「その人は何かやらかしてしまったのですか?」


「いや、俺達はただ仕事を紹介してやろうとしているのさ」


「へぇ……」


少女のような顔だが何か危険な感じがする。


男たちが気づいていないあたり、女の勘だろうか?


「お嬢ちゃんも紹介してやろうか?いい金になるぞ?」


別の男が少女の肩を掴む。逃がさない気だろう。


「ああ……めんどくせえ!」


少女の口調が変わると、肩を掴んでた男が消えた。


「な!?何をした!?」


少女が身軽に動き男たちに触れると、どんどん消えていった。


「てめぇ!まど――」


全員消えると静かになった。


空間系の魔法。たぶん何処かに転移させたのだろう。


「大丈夫?」


「え、ええ、ありがとう。あなたは外の人?」


「はい、仕事でこの近くに来ているんです。今この辺りの地理を詳しく調べていて……」


見慣れない顔なので外の人なのは納得したが、近くで仕事は珍しい。


「そう、変わった仕事ね」


ここの地理を詳しく……依頼主は何を企んでいるやら。


この辺りはそれくらい見捨てられている。


「じゃ、仕事に戻らないといけないので」


「あ!名前を聞いてもいい?お礼をしたいの」


「いやいや、名乗る程の事してないし、お礼もいいよ、気にしないで」


タダで人助けとか、謙虚というかお人好しな子である。


「じゃ、気を付けて帰ってね」


「ええ」


すると少女はフワッと浮き上がり飛んで行った。


「飛行魔法とかどこで教わったんだろう?」


ここではかなり珍しい魔法である。


目で追っていると上空で数人人がいた。


「あれは……」


あの子が合流したのを見て仲間だと思ったが、一人の姿を見て驚いた。


「あれは局のギルドマスター!?」


金髪の女性が身に着けていたのは局がマスターに配布する防護用マントに似ていた。


「もしかしてあの子も局の魔導士?」


そうなるとあの強さは納得だ。


身のこなしもかなり鍛錬された動きであることから、それなりの高ランクと思われる。


そう長くない人生だが、局の魔導士が来たこと自体が知る限り指で数える程度。


「まさか……私たちを?」


いや、それより先にあの連中を討伐してほしいくらいだ。


「しばらく大人しくしていた方が良さそうね」


女は用事を済ませると急いで帰路についた。


「あの子、結構好感の持てる子だったのに……残念ね」




家に着くと子供たちが迎えてくれた。


「マリアねーちゃんおかえり!」


「おねーちゃん!」


「よしよし、いい子にしてた?」


「うん!」


「今日はラッキーだったから大量に持ってこれたよ」


「「わあ!」」


魔法で小窓を作り、取ってきた大量の野菜や麦類を見せる。


子供たちはキラキラと目を輝かせていた。


「あの人は?」


「奥にいるよ。今日は調子がいいみたい」


「そう、それは何よりね」


奥へ進み目的の人物を見る。


全身包帯に代わりの布に包まれているが、隙間から見える目は元気そうだ。


「マリア……また危ないことを……」


「今日は本当にラッキーだったのよ?助けられたし」


「助けられた?珍しいな」


「ええ。どうやらその人、局の魔導士みたいなの」


「……ほう」


「だからしばらく大人しくしてるわ」


「苦労をかける」


「いいって」


食料は十分取ってきた。しばらく隠れられるだろう。


(しかし局が来るなんて……嫌な予感しかしないわね)


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