天使とは2
ここまでの流れで危険な臭いがプンプン漂っているのは理解した。
だがまだ全て納得出来ない部分がある。
「ねぇポーラ、七剣徒ってどれだけ強いの?」
トウヤの唐突な質問にハッとした。
そうだ、局を取り仕切る組織の宰相であるエルランが言っていた
「七剣徒がいなければ辛い」の意味が解らない。
今のままではアルカナフォートを狙った計画で、マスタークラスが数人必要な程度。
言っていたことが大袈裟になる。
「まさか!?」
ポーラは資料をもう一度確認するが、そもそも知らない情報なので判断がつかない。
「ソニアさん!このリストの中で特に地位の高い方はいらっしゃいますか?」
「え!?ええ、えっと……」
「なるほど、これは我々でも手に負えない話になってきたな」
先に理解したのはステラだった。
「始めは貴族であれば誰でもいいようだが、後半は明らかに地位の高いのを狙っている」
中には同じ場所へ複数回、魔導士を送り出している箇所がある。
始めは一回で済んでいるが二回目以降になると高い地位、
つまり強い魔導士を入れて複数人まとめて送り出し、生死不明となっている。
つまりクエストを受け直す度に強い魔導士がいて、生死不明者を出している。
直近はギルド内でもかなり上位の強さの魔導士だそうだ。
それがわかると、動揺が大きくなった。
「じゃ……じゃあアルが戦った天使は……上級貴族並みの強さだと言うの……!?」
解りやすく言えば、平民の集まりがパースレールとすれば、
下級貴族がアルカナフォートで上級貴族はその上を指す。
そして下級貴族と上級貴族には大きな壁がある。
魔導士としての強さもその壁の一つだ。
「あの人……ここまで解ってて言っていたのか?」
「エルラン様は“天眼”と言う魔法で、あらゆる事象を見渡せると言われているわ」
「言われてる?」
「そんな重鎮が自分の能力を簡単に話すと思う?」
「ああ、なるほど」
トウヤでも理解出来た。重要な人物の詳細情報など公表するわけがない。
あくまで噂だが、そのような力があるように見えるのだろう。
「ならあの人なら解決方法知ってるんじゃない?」
「その答えが手を引けと言うことだろう」
ファイゼンも話に加わり納得する。
解決方法が無い。だから諦めろ。
トウヤは納得出来ず、セレスを見る。
セレスも納得出来ないが、解決策も浮かばないと言わんばかりの顔をしている。
「七剣徒を説得出来ないのか?」
「難しいわ。あの人たちは完全にこちらを下に見ている。
特に今回は私情による部分も大きいから、協力はしてくれないでしょうね」
完全に手詰まりと言う状態にしばらくの間、沈黙が続いた。
「にゃは!?……にゅっふっふっふっ」
急にリンシェンが怪しく笑いだす。
「ど、どうした!?」
あまりの場違いな行動に隣にいたリーシャが困惑して引いていた。
「にゃら私情を話さずに、事実に脅威を織り交ぜて伝えればいいにゃ」
全容は見えないがリンシェンの考える提案なら使えるかもしれないと感じたトウヤは話を聞き出す。
「どう伝えるんだ?」
「下級貴族でも対処出来にゃいような生物兵器が作られていて、
上級貴族の抹殺を狙っていると伝えてやるにゃ」
「ん?どういうこと?」
「天使は下級貴族でも対処出来にゃいほど強化実験を繰り返されたにゃ。
でもどうしてここまで強化する必要があるにゃ?」
「それは……あ、上級貴族を相手にするため?」
「そうにゃ!相手にする理由は抹殺!自分にょ身にょ危険が迫っていると伝えれば動くにゃ!」
「そ、そうか?」
トウヤのイメージではそこまで強化出来ないと高を括る気がするが?
思っていたより無理そうな話に気まずさを感じ辺りを見渡すと、
ステラとティーナが笑っているのが見えた。
「くっくっくっ……はっはっはっ!面白い提案だ!」
「確かに下の方の人は焦るでしょうねぇ~」
「実際、そいつらと同等と見てもいいレベルだ」
「それなのに見逃したとなれば、敵の脅威も推し測れずに犠牲者を出した
無能な家として名に傷がつくわねぇ~」
「そしてそれは上の家にも響いてくるだろうな。無能な一族の一角としてな」
「眷属関係も悩みどころねぇ~」
つまりこの話を聞いて、高を括り何もしなければ上級貴族でも力の無い家はいずれ天使に消される。
そして天使に負けた、事前に脅威を知りながら対処を怠った一族として、
家の名に傷と言う生涯の汚点を残し対処することになるだろう。
上級貴族でもそれは避けたい。
ならば現段階で局に協力して対処すれば避けられる可能性は高いということだ。
「なんか、天使の評価がかなり高い気がする……」
トウヤは妙な違和感を感じていたが、ステラはそれを説明してくれる。
「犠牲者から見て、力は本物だ。今まで気づかなかった自分が情けないくらいにな」
そう言うステラの顔の真剣さに、冗談ではないと思えた。
「ここから先は七剣徒を引き入れてからになるな」
「それにいざという時に逃げられたとなれば上から何されるかわからないわ。
アルフォートが亡くなった場所を中心に幾つか偵察を出した方がよさそうね」
そしてステラは全体に聞こえるように話す。
「いずれ天使討伐のクエストが発生する可能性がある。天使のランクは推定S+!
参加したいと言う者は各々のマスターに名乗りを上げよ」
全員に緊張が走る。当然、全員参加するつもりだろう。
「だが……力の無い半端者、敵に恐れをなしている者は連れて行かない!
そのつもりで名を上げろ!」
弱い人間を連れていく行為は犠牲者を増やす。
一定の強さを示さなければ連れていけないことを言っておく。
「アローニャさん!ステラさん!」
民間人の方から声が聞こえる。
「俺たち一般人はあんた達に託すことしか出来ねえ!
だからせめて、デバイスとバリアジャケットを受け取ってくれ!
あんた達が最高の状態で戦ってアルフォートさんの仇を取れるようにしたいんだ!」
本来デバイスは使い慣れたものが望ましい。
だが同一デバイスで効果が変えられたりと複数持っていると都合がいいことが多い。
それに民間の気持ちもある。
ここはありがたく申し出を受けることにした。
「さて、七剣徒を引き入れる方法だが、我々はクラリスを使おうと思う」
上級貴族でも最上位になる麗王の一花、藤躑躅の君ことクラリス・ローデンドロンは、
ギルド、アルカナフォートの最高位でもある円卓のメンバーの一人である。
ステラたちは顔見知りなので、そこから七剣徒を引き込む作戦だろう。
トウヤも会ったことあるが良い思いはしてない。
「そしてトウヤ君、これは君にしか頼めない」
「……もしかしてクルルにお願いするのですか?」
「うむ、友人になったのだろう?それに彼女も参加してくれれば助かる」
「……苦労かけてばかりな気がするなぁ」
「アグリッター、シフォン。お前たちも同行しろ」
「うっ……」
ルーは明らかに嫌そうな顔をし、ミナは黙って反論を諦めた。
「友人、だろ?」
すごく強い圧力を感じる。
「は、はい」
ルー達は渋々返事をするしか出来なかった。