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隊葬

隊葬


それは長年、ギルドに対して多大な功績を残した魔導士に対して行われる大規模な葬式。




訃報から二日。隊葬が厳かな空気の中、トウヤは写真を見てようやく悲しみが伝わった。


パースレールのサブマスターでマスターであるアローニャさんの夫。


そしてよく知る仲間、セレスの父親でもある。


正直に言って、あまり接点はなかった。


トウヤも厳しいが気前のいいおじさんくらいの印象しかない。


ただ多くの人に慕われていたのは事実だろう。


泣きながら別れを惜しむ人の列が長く連なっている。


パースレースのメンバーはもちろん、アルカナフォートのメンバーまで

並んでいるのは、それだけ慕われていたことを示している。


関係が浅く、涙が出ないトウヤ、リリス、リンシェンは少し離れたところで隊葬を見守る。


「人間は必ず死ぬ。にゃらいつまでも(にゃ)いてたら死人に失礼にゃ」


リンシェンには家族がいない。記憶すらも無いらしい。


いつも一人で自由気ままに生きていたので、独自の感性を持っているようだ。


「……残された人間はそう簡単にいかないよ。……その人が大切であればある程ね」


トウヤも大切な人が亡くなった経験があるから理解は出来る。


そしてこの場で泣けない自分に心底嫌になった。


(深い関係じゃないと泣けないとか、俺って冷えた人間だな)


関係者は皆泣いている。アローニャさんも気丈にふるまって泣かないでいるが、

本当は大声で泣きたいくらいだろう。


ふとセレスがいないことに気づいた。


父親の葬儀なんだから何が何でも出るものではないのか?


いや、どこかで隠れて泣いているのか?


辺りを見回していると、リリスが察したのか

「セレスはいないみたいだよ」と教えてくれた。


「いない?なんで?」


「さあ?」


父親の葬儀に参加するより何か大事なことはあるのか?


ティアは来ていたのでセレス個人の用事だろう。


(……まさか、いや、あり得るな)


トウヤは嫌な予感を感じ取っていた。




隊葬を終え、一段落した後に娘は訪ねてきた。


「マスター!なぜ調べられないようにしてるんですか!」


案の定、予想通りの反応をしていた。


「あれは極秘案件。特別な人間じゃないと知ることは許されないわ」


「私がその特別な人間じゃないと?」


「ええ。あなたに見せることは出来ないわ」


歯を食いしばっているのがわかる。


悔しい。その気持ちはアローニャにも理解出来る。


でもここは堪えてほしい。相手はそれほど危険なのだ。


「お母さんは……」


セレスの呼び方が変わる。


「お母さんはお父さんがあんな目にあっても関わるなって言うの?」


セレスは仕事とプライベートはしっかり分けている。


母と呼ぶときは家族としての想いが強い時だ。


「……」


「映像やレーダーだけの確認に納得しているの?遺体の無い葬式に納得しているの?」


痛いところを突かれた気分だが必死に耐える。


「……ええ」


なんとか絞り出した答えに、セレスは耐えられなくなった。


「何で生きてるって信じないの!」


「……」


「何で局が言ったことに納得してるのよ!」


「納得してるわけないでしょ!!」


アローニャも耐えられなくなり声を荒げて反論してしまった。


しかしハッとするとすぐに元に戻った。


「私も生きていると信じているわ。……でも、最後の報告を聞いたら局の報告も納得せざる得ないの」


「最後……最後に何て報告が来たの?」


「……」


「お母さん!」


ふと気づくと外が騒がしい。


「待ってください!困ります!」


声の主はアローニャの補佐役のリサだ。


それと同時に何人かの足音も聞こえる。


「失礼します!」


こちらの返答を待たずに扉が開かれる。


そしてゾロゾロと入ってきたのは見知った顔だった。


「押しかけて来て申し訳ありません!」


先陣を切っていたトウヤは地に座り両手を付くと、土下座するように頭を下げた。


「その話、俺たちにも聞かせてください」


「どうしてそれを!?」


その答えはすぐ後ろにいた猫っ娘が何かの機械を見せながら答えた。


「にゃっは!盗~聴~器にゃ」


セレスはすぐに体中を調べた。


「そっちじゃにゃい、そっちにゃ」


指を指したのはアローニャの方だった。


アローニャはすぐに調べると、襟元に何かが付いていた。


これが音を送っていたのだろう。


普段のアローニャなら気付いていただろうが、今はそれが出来ていない。


それほど精神的に参っていたのだ。


「今のままではギルドとしても局としても不利益を被るばかりです!

ならばその不利益を解消する手伝いを俺たちにさせてください!」


「!!」


セレスを後押しするような提案に驚いた。


「ダメよ!それは許されない、とても危険な話よ。

それに私情も(はさ)んでしまうようなことにあなたたちを巻き込めないわ!」


アローニャは断る。だが……


「「マスター!!」」


ここに居ない、たくさんの人の声がした。


「ま、まさか……」


リンシェンは全ての音声を拡散していたのだ。


全て聞かれてしまっていた。


そして全員がトウヤ達と同じ想いであることが伝わってきた。


「マスター!お願いします、教えてください!」


セレスもトウヤ達に加わり頭を下げる。


すると、一本の通話が届いた。


「まったく、とんだ事をしてくれましたね」


その声にアローニャは驚いた。


そしてほとんどの人間が息をのんだ。


「な、なぜエルラン様が……」


エルラン。局を取り仕切る組織の宰相、つまりマスターよりも権力の強い人間だ。


「これだけ大騒ぎしているのです。無視しろと言う方が難しいでしょう」


いったいリンシェンはどれだけ大きく拡散させているのだろうか?


「今回の件はアローニャさんの判断が正しいです。それに我々も賛同します」


組織である以上、権力者の判断は絶対だ。半ば諦めの溜息が出始めた。


「ですが、それでは納得いかないのが人間と言う生き物であり、

彼の言う不利益が起こることは避けられないでしょう」


アローニャの判断を支持する一方で、トウヤの意見も支持した。


「そこで提案ですが、アローニャさんは内容をお話ししてください」


「え!?」


意外な提案にアローニャは驚いた。


「お話しして敵の脅威がわかれば納得出来るでしょう。

そして納得出来ない、敵との力量差を判断出来ない魔導士は早死するだけです。

その時期が早まっただけで気にすることもないでしょう」


冷徹、だが合理的だ。


死に近い魔導士の仕事は、相手との力量差の見極めを間違えれば簡単に死ぬ。


一時の感情に流されて無茶をするのは無謀でしかない。


「予め教えておきましょう。七剣徒(セプトレア)がいなければ辛いでしょうね」


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