突入2
「トウヤ!!リリス!!」
攻撃が直撃したように見えた。
粉塵で姿が確認出来ない。
「風打ち・第五座……」
どこからか声が聞こえる。
「震!!」
叫び声と同時に双頭の一つが地面に叩きつけられた。
「トウヤ!無事だったのね」
そう安堵すると近くからリリスが現れた。
「空間魔法、あいつのか?」
何もない場所から現れたリリスを見てリーシャは事態を把握した。
「うん。予め合図したら異空間の入り口を動かして逃げられるように決めてたの」
空間を操作することに長けたマリアは、入り口を操作する方法もすぐに取得した。
トウヤがやって見せた通り、枠をイメージしてそれがそのまま動くイメージ。
風打ちの“繋”を“駆”のように動かすこの方法は、
トウヤだと大量の魔力を消費するが、マリアは少量の魔力で手早く出来る。
創った能力と本来の能力の差である。
そうこうしているうちにもう片方がトウヤに向けて無数の金属槍が放たれる。
非魔道製の金属は魔法で守られた片方の頭に当たっても効果が薄い。
そこを即座に判断しての攻撃、ロボットにしては考えている。
だが――
「ロボットにしては浅知恵だな」
トウヤは全て躱した。
「おいおい、あいつ全て見切ったのかよ」
遠目で見ていたリーシャが感心する。
「そういやあいつってまともに攻撃受けたことないよな」
「確かに」
元々動体視力がずば抜けて良いのだろう。
そこに魔法で強化された目はほとんどの攻撃を見切る。
そこに最近創った“雷帝の衣”という魔法で体の反応速度を極限まで上げられる。
回避という点ではトップクラスの能力だろう。
トウヤは素早く頭の上へ移動すると攻撃態勢をとる。
「風打ち・第五座……」
危険を察知した竜は頭に防御魔法を展開する。
「震!!」
力いっぱい撃ち込まれた震は体の内部を揺らし破壊する。
人であればあまりの激痛に気を失うが、今回はロボット。
壊れた個所を庇うことなく反撃した。
「硬くて効いてないか」
破損も小さい。かなり頑丈に作られているようだ。
反撃を躱し、再度攻撃に移る。
「付加・第二段階」
さらに能力を上げ、狙いを胴体に変え、首を駆け抜ける。
破壊を目的にするなら、末端部の頭部より胴体部分の方が確実だろう。
「風打ち・裏五座……」
胴体は頭部より頑強に作られている可能性が高いが、一部に欠点がある。
「砕!!」
首元へ大きな衝撃波。震より大きく集中した攻撃だ。
ロボットの欠点は可動部分が表面より脆弱になることだ。
その可動部分、首の付け根から胴体に向けて攻撃することで、一気に破壊できるはずだ。
だが首がもげた程度。そこも考慮して作られたロボットのようだ。
だが有効な手段だったようで、ロボット側も動きが鈍い。
何とか攻撃をしようと動いたロボットだったが……
「マリア、リリスを……」
その合図で隣に転移させると、リリスは輪っか状に崩れる石像を展開、
ロボットは石となり崩れていった。
ある程度雑兵を片付けると、あとは下位ランク組に任せて奥へ進む。
そして主要メンバーを転移で呼び寄せる。
各ギルド主力と言っていいメンバーが揃っているが、
はっきり言って今回は先が見えないので油断は出来ない。
「各自予定通りに。トウヤだけは呼ぶかもしれないからそのつもりでいて」
「ああ、わかった」
メンバーを代表してポーラが指示を出す。
「では、お願いします!」
号令と共に全員散り散りに奥へ進んでいった。
「さて、何処から探す?」
トウヤはメンバーの意見を聞く。
「部屋がわからにゃいから適当にゃ」
「同感」
リンシェンもリリスもお手上げ状態だ。
「ま、適当に進むしかないか」
予想してたがそれしか選択肢は無いようだ。
「ねぇ……」
スプニールが声を上げた。
「どうかしましたか?」
「あなたが言っていたセキュリティってやつ……私なら辿れるみたいよ?」
「え?どういうことですか?」
スプニールの言っていることがよくわからない。
「セキュリティってやつ……パズルみたいだよ?」
「にゃるほど、順に破壊すれば連鎖崩壊するにゃ。
でも厳重なセキュリティは大事だから残る。そこに目当てにょ物はあるにゃ」
「なるほど、ってまさかセキュリティが見えてるんですか?」
「ええ。木の根が網のようになってる」
スプニールは魔法を使っているように見えない。
しかし今現在、スプニールの異能“弱点看破の毒”は発動している。
トウヤも強で周りを見たが、何か魔力の流れがあるような感じだけで、
それが何なのかまではわからなかった。
スプニールにはまた別の物が見えているのだろう。
「これは桃姫の君のお陰で楽な仕事になりそうだな」
性格はよくわからないが、仕事はしっかりやるスプニールの姿勢に、
上級貴族の中でも真面な性格なのでは?と感じてしまった。
「魔導士、各方面に散りました」
「一番危険なのは……こいつだな」
男は画面越しに金髪の女を指す。
「こいつに鬼を使えぇ!」
「鬼ですか!?でもまだ調整が――」
「うるさい!私が調整した!」
「は、はい、わかりました!」
「こっちは……人魚だ!」
男は画面に映る魔導士を見て指示を出す。
「おい!データはまだ移行できないのか!」
「すみません、膨大過ぎて時間がかかっています」
「ちっ、急な移動だから仕方ないか」
男はまたブツブツ言っている。
ふと聞き慣れない声が響く。
「おい、ピンク髪の半裸女は危険だぞ。そいつに集中しろ」
「は!見ていらしたのですか!?」
男は急に姿勢を正し、威圧的な言葉も直す。
「お前の実験は役立つ。ここで失ってはならない」
「勿体ないお言葉!必ずや守り切ります!」
「期待している」
そう言うと声の念話は切れた。
あの半裸女はさほど魔力を発していない。
脅威と思えないがあのお方の判断を疑ってはいけない。
「あのお方の判断だ!ピンク髪の半裸女に天使を全て使えぇ!」
「はっ!直ちに!!」
魔導士たちの知らぬところで、着実に脅威が迫っていく。