突入開始
突入作戦が決まると、即座に開始された。
外部の警戒がまるで無い王宮に警戒しつつも、
マリアが教えてくれた道に沿って突入する。
「待て!」
ファイゼンの合図で立ち止まる。
「罠魔法が動いている」
目を凝らしてみると魔法陣が見え、薄っすら光っているように見える。
「大丈夫、それは付与された魔法を発動させるものみたい。
だけどセンサーの役割もあるみたいだから触らない方がいいそうだ」
トウヤの目とリンクさせた映像からマリアが確認、連絡してくれた。
「見た限り床も壁も張り巡らせてる。宙に浮きながら慎重に進むぞ」
先陣を切るのはリーシャ。
リーシャなら魔法抜きでも格闘技に長けているので不意打ちにも強い。
突入する三人は一列になり進む。
すると何も起きずに王の間まで進めた。
「おかしいな」
「ああ、警備が手薄すぎる」
あまりにも呆気ない。そんな展開に不信感は積もるばかりだ。
「トウヤ、お前はあいつの案内で最奥まで真っ先に進め。
うちとファイゼンは壁になりお前を送る」
いざとなればトウヤや局の魔法で強制転移、そんな算段だろう。
「わかった」
他のメンバーを連れてくるためには最低でも一人、たどり着かなければならない。
マリアの案内があるトウヤがそれを引き受けるのは最良の手だろう。
ファイゼンも黙って頷く。
ここからは強行突破。センサーで知られてもかまわない。
リーシャは扉を蹴破り突入する。
続けてトウヤ、ファイゼンと突入する。
だが意外なことに兵はいなかった。
「止まるな!行け!」
既にセンサーが動き、突入を知らせているだろう。
ならばモタモタしている暇はない。
急ぎ最奥へ進む。
「マリア、何処だ?」
「左の奥、暖炉の右隣の壁が抜け穴になってるよ!」
場所を確認し急いで向かう。
「ああ、あああ」
どこからか声が聞こえる。
「声?どこから?」
声のする方を見ると悲惨な光景が広がっていた。
「うっ!」
その光景と共に異臭が広がる。
「これは……人間?」
血反吐でぐちゃぐちゃとなった一面に何かが動いてる。
「あれ――!?王様!」
「え!?王様!?」
マリアの台詞を繰り返したトウヤの声でリーシャもファイゼンも驚き、事態を把握する。
「この国の王はもう死んでいたんだ」
何かの肉片に腰を打ちつけ奇声を発している。
もう意識もなく何かに操られるだけの人形と化してるようだ。
「おい」
リーシャの声は低く怒っている様に感じたが、それは二人も同じだ。
「こいつらを火葬する。デカい音が出るから最速で奥へ進むんだ」
せめて葬ってあげることが手向けになる。
「……ありがとう」
マリアにとってこの肉片のどれかが共に過ごした友、または先輩後輩かもしれない。
その人が無残な姿で放置されているのは心苦しかっただろう。
そんな感謝の声はリーシャに届かなかった。
「いくぞ!!」
炎を纏ったリーシャは拳を床に打ちつけると同時に爆発が起こる。
それと同時にトウヤは隠し通路の扉を破壊し通路へ進む。
続けてファイゼンと、王の間が火の海になったことを確認したリーシャが続いた。
隠し通路を進むと大きな部屋が現れた。
「これは!?局の訓練場と同じじゃねぇか!」
地下とは思えない広大な空間、壁には防護魔法も確認出来る。
「ここは……シェルター?いや――」
前方を確認したリーシャは構えた。
それを見てトウヤとファイゼンも構える。
「何かいる、が人じゃなさそうだ」
そうファイゼンが言うと、前方で赤い光が灯った。
そして部屋の電気がつくように空間全体が明るくなると、赤い光の正体が解った。
「これって……ロボット?」
トウヤは目を疑った。
目の前には無数のロボットが所狭しと並んでいた。
「ロボットって機械人間のことだよな?」
ファイゼンが確認する。
皮肉にも魔法世界のロボットは精巧に人間に似せて作られているため、
土木作業で使われる重機のようなロボットはあまり知られていない。
「ああ、可動部分の骨だけを残して作られたタイプだ。
科学世界ではよくあるタイプだな」
そうトウヤが説明すると科学オタクのリンシェンが割って入る。
「うにゃん、最低限にょ材料で、見た目に拘らにゃければこんにゃ形にゃ」
量産型で壊れてもいいようなものだが……
「さっき赤く光ったのは頭部のようだな」
つまり……
「動くぞ!!」
キュルキュルとホイールを鳴らしながらロボットは動き始めた。
「これだけを相手にするのは骨が折れるぞ!」
全て確認出来たわけじゃないが数千数万といそうだ。
「局は転移ポイントを取得!全員、戦闘態勢!!」
突如響くアローニャの声。それはつまり……
「この場所を作戦の開始地点とする!ロボットを殲滅しなさい!!」
このアローニャの合図を待っていたかのように声が響く。
「「おお!!」」
地面が揺れそうになるほどの掛け声と共に局の転移魔法が展開。
雪崩れ込むように魔導士の大群が現れた。
「リサ、時がきたら話した通りに」
「……はい、承知しました」
リサの返事は暗い。やはり彼女自身は反対だろう。
だがアローニャの気持ちを第一に考え、その意見を押し殺している。
「ありがとう」
これはアローニャの我儘だ。
「お母さんはお父さんがあんな目にあっても関わるなって言うの?」
「何で生きてるって信じないの!」
娘から言われた言葉は辛かった。
自分の感情を押し殺して、ギルドのために尽くそう。
そう思っていた気持ちが揺らいだ。
そしてリサや多くの人が、気持ちを第一にしてほしいと背中を押してくれた。
黙って見過ごすことは出来ない。
そして私が動けるように配慮してくれた。
(ありがとう、みんな。そしてごめんなさい)
ギルドマスターとしてあるまじき私情を挟んだ行為は反省すべきだ。
だが許してほしい。
(私は大切な人が殺されてても黙ってるような人間じゃない!)