解く手がかり
「何があったの!?」
急いで転移した先は拠点内、ポーラ達の目の前だった。
急に現れた仲間たちに驚きこそすれど、冷静に対応してくれているのは、
長年魔導士として働いている経験の賜物だろう。
「うっ!ああ!!」
ファイゼンが急に苦しみ始める。
「どうした!?」
「これ……ヨシエフと同じ症状だ!」
「なに!?」
つまり正体不明の魔法に体が蝕まれているのだ。
「場所は!?どこが痛むの?」
「……右腕だ!」
「なら右腕に魔力を集めて!」
ファイゼンは即座に右腕に魔力を集めた。
すると痛みはひき、楽になったようだ。
「お、収まった?」
「魔力で無理やり抑えてる感じよ」
「ああ、なるほど。よくわか――!?なんでここに!?」
ファイゼンは潜入前に聞いていた女が目の前にいることに驚いた。
「ああ、今回の件で協力してもらうことになったんだ」
「はあ!?それって一般――んんん!?」
気を抜いて魔力の抑えが無くなり痛みだしたようだ。
まるで中二病の腕が疼く人みたいで吹き出してしまった。
「笑い事じゃねぇんだよ」
「わるい」
笑いを堪えながら平謝りするしかなかった。
マリアの存在を隠しながらポーラが報告してくれたおかげで突入計画が作られた。
ファイゼンにかけられた魔法も貴重なサンプルとしてソニアに伝えられたが、
その対処法の出所を問われてやむなくマリアの存在を話した。
ってかソニアさんは知っている。
なので話が早かった。
「あんたも……大変ねぇ」
「す、すみません……」
ただ恐縮するしかないポーラにソニアは同情した。
「あんたは感謝しなさいよ」
トウヤに向けられた顔は怖かった。
「い、いいじゃないですか。これで進展するんですから」
「終わり良ければ全て良しなんてただの子供の我儘よ。
正義を貫くために犯罪を犯すなんて許されないのと一緒ね」
ぐうの音も出ない。
「とりあえず、起こってしまったことはしょうがないから、
サンプルとして有効活用させてもらうわ」
「あ、ありがとうございます」
とりあえず許してもらえたようだ。
さっそくファイゼンにかけられた魔法を確認する。
「これは……強化系魔法かしら?肉体強化から始めて、
後の魔法に耐えられる体にしてからいろいろ試そうとしてるのね」
ソニアはメモを取りながら観察する。
「単体だから解呪自体は難しくなさそうね。でもやり辛いように複雑にしている。
これも人がやったことだからクセとかもありそうね」
呪いに近い魔法だが、かけた人間が同じならパターン化が同じ可能性も高い。
これを知ることでヨシエフの方も対処しやすくなる。
「ファイゼン君の場合は単体だから対処できるけど、
あの彼の場合、ここにたどり着くまでが苦労しそうよ」
いわば形の解らないパズルを組み立てるようなもの。
ここで解けても気休めにしかならない。
だからこそ、王宮で実験に使われた魔法の情報が欲しいのだ。
「データとってアクセス出来るようにしとくから、みんな目を通しておくのよ」
「あれ?ソニアさんがやってくれるんじゃないんですか?」
「時間が限られているのに、あたしが怪我したとかですぐに対処
出来なかったらどうするの?それにみんなも気づいたことがあったら教えて。
こういう時に周りを頼るのも大事よ?」
見た目が幼いから忘れるがソニアはポーラ達より年上だ。
こういった世渡りはずっと上手い。
「ねぇ~?それ私にもちょ~だぁい」
突如聞こえた声に全員驚く。
「ぬ、盗み見なんていい趣味したババアね」
「お子様が吠えても迷惑なだけだ・ぞ」
人を見下し可愛い子ぶった物言いの声はトウヤにも覚えがあった。
「藤躑躅の君……」
「あらあら~?ミイナのご主人様も一緒にいるのねぇ」
盗み聞きしてたのだから知ってての物言いである。
「で?普段のあんたなら興味持たないのに珍しいわね。何かあるのかしら?」
クラリスと縁の深いソニアがさっさと会話を進める。
「ちょっとねぇ」
はぐらかして目的がわからないようにされた。
「……データは誰でも見れるようにするから、あんたもそこから見てちょうだい」
「はぁい」
妙に素直過ぎて逆に怖い。
「何か錬金術に関係あるのかしら?」
マッドアルケミストなどと呼ばれてる彼女が興味を持つのは、
面白い実験体と錬金術に使えそうな魔法くらいだ。
「錬金術って確か……足して引いての感じじゃ……」
「――!?」
トウヤのあやふやな知識の呟きに何か気付いたのか、
ソニアはもう一度魔法を確認する。
「ファイゼンくん、痛いだろうけど、魔力を一度止めてくれる?」
「え?ええ!?」
「いいから早く!みんなはファイゼン君を抑えて!」
物言わせぬ声に思わず全員で動いてしまったが、
実際はみんなで抑えなくてもリーシャとリンシェンで済んだ。
リンシェンは自作AMZ装置でファイゼンの魔力を消して、
さらに自作の拷問器具のような吊るし台で固定。
そこに一番力のあるリーシャが腕と上半身を抑えてガッチリ固定。
AMZ範囲外まで右腕を出させた。
痛みに耐えるファイゼンの声がするが、これは魔法の影響だけではない気がする。
ある意味拷問より酷い状態だが得るものはあったようだ。
「やっぱり抑える魔力で消えてたのね。これで……こうすれば……!」
パリン!
何かが割れるような音がすると、ファイゼンにかけられた魔法は消えた。
「収まっ……たたたたっ!!リーシャ!関節!関節!!」
「おお、わりぃ」
リーシャは拘束を解いたが、リンシェンの吊るし台はまだ解けなかった。
「もしかしたら錬金術のルールに沿って魔法をかけて強化していったのね。
確かにあれなら付加魔法よりも確実に長期間で力を付けれる。よく考えてるわ」
「詳しいですね」
「一応うちのギルドの人間だから、どういう魔法かは知ってるの。
ババアの能力は本物よ。伊達に麗王まで成り上がってなわ」
下級貴族から麗王まで成り上がったというのが藤躑躅の君だ。
確かなものがあるからあの態度か?性格の悪い人である。
「とりあえず手掛かり見つけたから、あたしは出撃まで解析進めてるわ」
「お願いします」
要件が終わるとソニアは自室に帰ろうとした。
「あの、ありがとうございます!」
黙って様子を見てたマリアが帰るソニアに大声でお礼を言い頭を下げた。
それに応えるようにソニアは目も向けず黙って片手をあげて横に振った。
(気にすんな……か)
ソニアは貴族の中でも武闘派。気前のいいお姉ちゃんのようだった。