マリアと王宮
「なにバカなことやってんのよ!!」
案の定ポーラに怒られた。
協力者としてマリアを紹介したが、ほぼ一般人のマリアを巻き込んだんだ。
ポーラが怒って当然である。
「ま、まあ、私が手伝いたいって言ったんで許してあげて――」
「んなこと無理でしょ!」
矛先がマリアに変わる。
「それにあなたは魔法を使って盗みをやっている。事情は把握してるけど、
それって犯罪ですよ?黒のやつらと変わらない事やってるんですよ?」
そう言われたマリアは諦めたように大きく溜息をついた。
「トウヤくん、ごめん。やっぱり局の人と仲良くなれないわ」
「……だろうね」
「な、なによ……」
なぜか二人に責められているようでポーラは口を紡ぐ。
「法律が秩序を守るためにあるのは知ってるわ。でもそれで苦しむ人がいるのよ?
それが命を奪う結果になるのは知ってる?その法律にこの国の人は苦しんでるのよ?」
この国は王に虐げられている。様々な物資が王に管理され、王だけが使う。
そのおこぼれを拾い、国民は生活している。
時には互いの物を奪い合ったり、分けたり、交換したり。
そしてそれを売り、金に換え、新鮮な食料などに変えて生活している。
もちろん買うことの出来る人間は限られているので売れるかもわからない。
そんな法律にマリア達は苦しめられていた。
「例え黒と呼ばれようとも、犯罪行為であろうと構わない。
私は愛する人と子供達の未来を笑って祝福出来るようにしたい!
ただそれだけを叶えるためなら何だってするわ!」
ただ目の前にある小さな命が幸せになれるなら、そう願うことは悪いことだろうか?
この場でトウヤだけはその思いを十分に理解していた。
(ああ、だから……)
マリアと同じような思いを、昔、トウヤは持っていた。
そしてトウヤは今、手を差し伸べる側になっている。
「局に入れることが出来ないなら、俺個人の協力者にする。
念話も俺だけに繋げば問題ない。ポーラは知らなかったで通しても構わないよ」
「……もう!そんなの聞いたら無視出来ないじゃない!」
ポーラは割り切った。
「トウヤだけに責任を押し付けることは出来ないわ。だから私達、
ギルド全員と繋げるようにすること。ただ、あくまでトウヤの協力者。
ある程度の報告をするだけでトウヤの指示に従ってもらう。これでいい?」
「ギルドって……何人と繋ぐつもりなの?」
「六人。新設一年目の少数ギルドよ」
「六人って……あと一人は?」
この場にはマリアを除いて五人しかいない。
「男だから王宮に潜入してもらってるわ」
「!?なら急いだほうがいいわ。たぶん魔導士って気付かれていると思う」
「本当!?」
思わぬ事態だ。
「研究者は私よりずっと優秀な魔法使いよ。見分けるのは簡単でしょうね」
最悪な展開だ。もしかしたらが当たり、相手にこちらの存在を教えてしまったのだ。
「なら王宮内の構造と研究所の目星が欲しいわ」
早急にマリアの情報を話してもらう。
「外壁は対魔の妨害型装甲、破壊する前に魔法を打ち消すから、
物理的な攻撃しか受け付けないわ。さらに床や内壁には罠魔法が仕掛けられてるの。
遠隔で一斉起動させるから気を付けてね」
ここはファイゼンの報告と一致する。
「さらに奥の方から地下室に入れるんだけど、ここはただの訓練用の大きな部屋。
研究員は王の謁見の間からしか行けない通路を抜けた先の部屋にいるわ」
これはファイゼンの報告に無い。むしろ見れないと言ってた部分だ。
「やけに詳しいわね」
ポーラが何気なく言った言葉にマリアは顔を曇らせた。
「……私は王の玩具になる女だったの」
突然の告白だが、それはトウヤからの話で知っている。
「小さい頃、王宮に連れていかれて、喜び組になるよう管理されて育ったわ。
食べる物、教育、関わる人間、全て管理され、王の為に全てを捧げるようにされたわ」
マリアは貧しい国でありながらも健康的な美人に育ったのはこの影響だろう。
「その中でも私は良かったらしく、いろいろな人から可愛がられたわ。
その中に研究者の人もいてね。そこから上手く聞き出したのよ」
ハニートラップと言うやつだろうか?諜報活動としては優秀だ。
「でも同じように育った人の最後を見て怖くなっちゃった」
喜び組と呼ばれる女性は何人もいる。
「顔から血を流しながらもニコニコして、虚ろな目で王の名前を呼んでるの。
もう会話も出来ない、ただ王のいいように使われる姿が自分の未来の姿だって
思ったら怖くて怖くて、思わず逃げ出しちゃったのよ」
その時、一緒に逃げたのが布男、ヨシエフと言うことだ。
「ヨシエフは強かったんだね」
トウヤの言葉にマリアは笑顔になった。
「ええ。とっても強くて頼りになったわ」
ヨシエフはマリアにとって特別な存在だった。
「それと上手くいったのは私の空間操作で上に逃げたからでしょうね」
「上……なるほど。地上は厳戒態勢でも上空は手薄だったんだね」
「ええ。この国で飛行魔法はとても珍しい魔法だから手薄だったんでしょうね」
飛べなくても、空中での転移を繰り返せば空へ逃げられる。
「でも彼だけは完全に逃げ切れなかったわ。遠隔で起動させられて苦しんでいる。
今も何とか抑え込んでいるけど、いつ限界が来るかわからないわ。
だから、何としてでも王宮からあの魔法を解除する方法を手に入れたいの」
マリアの目的はポーラ達と似ていた。
人を媒体とした人体実験。天使とは限らないが似たようなことが行われている。
「……今の話は信用出来る情報として局に話させてもらいます。
あと、あなたの魔法はトウヤの空間操作と同じとみていいのでしょうか?」
「マリアでいいわ。歳もそんなに変わらなさそうなのに
そう言われるのに違和感感じちゃって」
その言葉に全員違和感を感じた。
「え?年も変わらないって……」
マリアは母性を感じるような見た目のため、全員二十代半ばくらいに感じていた。
「この国で正確な年齢はわからないけど、
まだ大人と呼ばれてから暖気に入った回数は4回よ」
「「え!?」」
全員が驚き、目を見開きながら固まった。
一年の境目が怪しいこの国で正確な年齢を知るのは難しいが、
寒い時期の“寒気”の後に温かい時期の“暖気”が来たら一年を数えるらしい。
そして大人になる時期の判断として体格に大きな変化が起きた時と判断している。
年齢がしっかりわかる国基準で判断すると、体格が変わるのは12歳前後。
遅めに変化が出たと考えてもポーラ達より年下になる。
「み、見た目で小さな子供がいてもおかしくない感じが……」
「……人が気にしてることを!!」
仲良くなれないと言っていたがやり取りは十分仲良しである。
マリアの魔法は空間操作と氷の礫を打ち出すこと。
つまり氷属性の操作・放出系ということになる。
また空間操作は行ったことある場所を最大50m程の距離で繋げること、
別空間を一定時間保持することが出来るようだ。
だが魔力が少ないので、別空間を中から動かす事は出来ない、
別空間を維持しているときは繋げられる距離が短くなる、
という欠点があるそうだ。
ただ、別空間の維持は2~3時間出来るそうだ。
トウヤと組み合わせれば、これだけでも十分、王宮の潜入には役立ちそうだ。
二人はさっそく身の危険が迫っているであろうファイゼンの救出に向かった。
「同じ魔法の使い手だったなんて驚いたわ」
「まあ、燃費が悪いから乱発は出来ないけどね」
マリアの記憶を頼りに、人の少ない上層階から潜入する。
「そっちが地下室への通路、あっちが王の間への通路よ」
マリアに連れられることでトウヤの“繋”の条件でもある、
“行ったことある場所”をクリアしていく。
「あれ?おかしいわね」
マリアは違和感を覚えた。
「王の間は警備が厳重になってるはずなのに……」
マリアの知る王宮内は一年近く前になる。
それくらい時間が経てば事情も変わるだろうが、
王の間の厳戒態勢はそう簡単に変わらないはず。
ドン!!
異様な爆発音が響く。
「なに!?」
「地下室の方よ!」
様子を見るが土煙で視界が悪い。
ふと誰か人がいるる気配がした。
「マリア!」
トウヤは危険を感じ、咄嗟にマリアを掴む。
これで即座に逃げられる。
だが土煙から現れたのはよく知った顔だった。
「その声、トウヤか!?」
「ファイゼン!?何があったの?」
「逃げろ!バレたんだ!」
その言葉で一気に逃げ出す。
“繋”で脱出する瞬間、何かが動いているのが分かった。
(なんだ、あれは?)
その正体はファイゼンが知っているだろう。
気になったが逃げることを優先した。