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設定もりもり婚約破棄

作者: 桜江

出来心なんです。

「……メノー・ブルルッタ! 貴様との婚約を破棄する!」

 

 ズビシッ! という効果音が良く似合うポーズを取って目の前に立ちはだかったのは、私の婚約者であるこの国の第一王子、モン・リアン・チョップー。

 腕にはタラシで有名なスノウ・ホワイト男爵令嬢が絡み付いている、ダッ○ちゃん人形のように……。

「メノーさん、あやまってくださぁい」

 と、悪くないスライムのように無害そうにぷるぷる震えている。

 彼らの周囲には、赤や青の髪色をした色も顔も派手な男たちがまるで黄門様御一行のように並んでいる。

 

 今日は学園の卒業パー……ん?

 

 ――えっ、ちょっとまって!

 

 私の名前はメノー・ブルルッタ、そう、公爵令嬢。

 もしかして、これはあの、有名な乙女ゲー……ん? そんな乙女ゲームは知らないわ!

 ならきっと小説……でもないわね。マンガ……? マンガでもないわ。しかも私のマンガ歴はずいぶん昔で止まっているわ。

 それに、ダッ○ちゃん人形と形容したけれど、あれは私がずいぶん小さい頃に買ってもらった記憶があるし……はっ!

 これがいわゆる転生! 娘が言ってた『転生悪役令嬢がヒロインもの』なのね!

 ――ごくり。

 ならばここから私の怒涛の幸せ生活ラッシュが始まるのだわ……死んだ時の記憶は……ええとあれは……。

 あれ? 私、この男爵令嬢のことガンガンイジメたわよね!? どどどどうしよう!

 

 

「……」

 ズビシッ! と指を目の前の婚約者に突き付けながら、私は冷や汗がだらだらと流れるのを感じていた。

 マズい、マズいぞ!

 婚約破棄だ! と告げた途端、記憶の波が押し寄せてきた。

 私はモン王子、よし、と言うことはやはりこの人生をやり直している!

 前回この可愛げのない婚約者、メノーに今と同じように婚約破棄を宣言した。そして腕に可愛くつかまっているスノウをイジメた罪で断罪していた。

 結果、確かにメノーはスノウをイジメていたが、王である父からは「ブルルッタ公爵家がバックに付く意味が分からないとはヤレヤレ」、王妃である母からは「イジメた程度で済んで良かったじゃないヤレヤレ」と呆れられ、騒ぎを起こしたとして廃嫡の上平民に落とされ、暴動に巻き込まれて死ぬ。という理不尽極まりない罰を受けたのだ。

 騒ぎは起こしたが、それで廃嫡からの平民ってやりすぎじゃないか?

 スノウは私を含め高位貴族の子息たちを誑かしたとして、修道院へ神に姦淫の罪を懺悔するために送られた。だったら妾や娼婦は皆が罪人じゃないか! 社交界の華と呼ばれる女は大抵当てはまる! 理不尽だ!

 

 ここから起死回生! それが今後の人生を決める!

 

 

 

「……ハッ!」

 妙な違和感で目の前に意識を戻すと、そこには恋い焦がれたキャラが顔色を悪くして立っていた。

 彼女は悪役令嬢ではない、心優しい令嬢だ。

 聖女の力を持ち、精霊の愛し子である。俺には妹がいて、『ありがち異世界恋愛もの』にハマッていたのだ。兄である俺にも布教してきて、俺もハマッた。そしてその作品が来年春夏2クール連続放映(※一部地域を除く)が決まり喜んだのも束の間、一部地域は俺たちの住むところだった。

 ネットでもアニメ難民を多数輩出することで有名なうちの地域。こうなったら兄ちゃんのバイト代で某回線契約してやんぜ! と力強く妹に宣言したその当日、トラックに跳ねられた、これがトラ転か。

 

 しみじみ考えていたが、目の前に大好きな作品の主人公メノーちゃんがいるということは……どぅわ!

 俺は自分の足元から腕まで確認し、隣の男の顔をチラリと見た。

 ぐえ!? モン王子だと! ……となると俺はスノウか……。ピンク頭の癖にスノウ・ホワイト(白雪姫)っていうふざけた名前の。

 まさかのTS転生……クソッ、せめてこの馬鹿面王子ならまだやり直しの可能性が。いや、いずれ結ばれる実は行方不明の隣国皇太子でこの断罪中に名乗りを上げる彼女の従者になりたかったあああアアア!

 

 ハァ、とにかくまずはこの絡めている腕を外すか……。

 

 

 

 

『何なの、あれは』

 卒業パーティーで始まった茶番劇とも思える騒ぎを冷めた目で見ていた私は、突然雷に打たれたようにその場から動けなくなった。

 ――わたし、モブ転、した!?

 超スピードで脳裏を駆け抜けていく前世の記憶。

 モブ転だわ! モブに転生した。だが、大抵モブに転生という建前ありきの主役なのでモブで終わらない。

 あくまでも「モブだったけど主役」。凡庸さはチートを駆使し破壊、容姿の冴えなさは眼鏡を外すか化粧か、髪型かドレスを変えて上書き。するとあーら不思議、逆ハーしますね美女になるのだ!

 だが逆ハーはいらん。なぜかそっち系に転生した人間は前世三十路や四十路であっても『えー、わたしぃ、モテたことないからぁ、好意とかわっかんない、キュルン♪』と無自覚でタラシていくのだ。

 しかも『ほっぺにキスなんて、はわわ、私のこと好きじゃないはずなのに何で!? ふええ』とブる。ざけんな。お前を好きじゃないならそいつは遊びだ遊び。そいつと遊びたくないなら本気やと思っとけ。

 いいか、そんな逆ハー作れるような人間は前世でもモテていたはずだ、非モテなめんな。

 

 は、置いといて。

 

 この後。本来ならばあの騒ぎの集団の中にいる自分の婚約者に別れを突き付ける。だが私は違う。別れない。お飾りでいい、面倒くさいから愛してもらわずとも結構。奴も罰を受けた気はするが、それは私と婚約解消したせいだから、しなきゃ普通に貴族としてやっていける。

 愛は大事だけど、生きていくにはまず生活。生活するには金。金がないと愛なんて目減りする、よし、モブらしく生きていこう、そう強く決心した。

 

 

 

 

「――婚約を破棄する!」

 その声に私は愕然とした。――目眩がする。倒れそうになった身体を気力で奮い立たせた。

 

 馬鹿げた宣言をしたのは私の異母兄だ。

 王妃腹の兄と違い、妾腹の私は幼い頃から踏みつけられて育ってきた。着るもの食べるものに事欠く辛い生活。きっとあの頃の私を見た者は王族とは思うまい。

 王妃派の臣下に貴族たち、見てみぬふりの父である王。そんな中で育ったために私を同じ人とは思っていない異母兄。

 学生時代に特別枠で入った平民の母を見初め、断られたら塔に監禁したのだ……と母からは言われてきた。

 そしてそれを信じていた、今先程までは。

 

 思い出してしまったのだ! 私は無理やり引き離された番を探すために、何度も生まれ変わっていることを!

 私に横恋慕した魔女は私の心変わりを願ったがその手には乗らない! 魔女より呪いを受けて、私は生まれ変わった先で必ず不幸になる、ことを。

 

 そして喪った遥か昔の記憶を取り戻し、すぐわかった。私を生んだ母こそあの呪いをかけた魔女だと。

 さらに王も王妃も異母兄も、私に関わる者に魅了の魔法を掛けて、操っていたのだ! なんて執念深く粘着質な女なんだ!

 あの女を倒して、きっと皆の目を覚まさせる! そうすればこんな混乱は収まる!

 魔女を倒して、私は運命の番を探す旅に出る!

 

 

「あやまってくださぁい」

 その声を背後で聞いて突然の頭痛が僕を襲う。

 ズキズキ痛む頭に眉根を寄せた。

 おかしい、さっきまで教室にいたはずだ。

 だが、ここは何だ? まるで映画のセットのようだ。

 シャンデリアに、ドレス、なんだ、タキシー……ドではないか、なんだ、この服、まるで貴族――って貴族?

 ま、ま、まさか!

 

 周囲をキョロキョロと見渡せば、同じような格好だが髪色はカラーコードにない色はありませんよ、ばりにある。

 後ろを振り返ればピンク頭の可愛らしい女の子がいた。彼女はふるふると震えている。

 

 こ、これはもしや。まさかまさかと慌てて『ステータス!』と心で叫べば、目の前にウィンドウが浮かび上がった。古いタイプのゲームなのか、詳細はなさそう。

『や、やはり。え、ええと』

 ゴクリと唾を飲み込んで、順に確認する。

 ――レベルはたったの5か……ゴミめ。

 言いたかっただけだ、ちくしょう。でも5なら最初の町付近くらいは余裕だろう。

 スキルを見ることは出来ない……外れスキルとか追放もなさげだ。

 えっ、しょぼいじゃん。こういうのって剣と魔法とスキルと冒険じゃないの?

 もしやハイファンじゃなくて異世界恋愛!?

 

 しかも僕の身体じゃないよね、どう見ても。

 僕は手をひらひら目の前で振ってみる。見慣れた手ではない。

 転移したはいいけど、他人の身体乗っとり系かよ。

 これから先どうやって生きていったらいいんだよ、僕は……日本に帰りたい……。

 

 

 

 

 会場内はしぃん、としている。

 皆固唾を飲んで見守っているような、誰かが口を開くのを待っているような。

 

 婚約破棄を宣言した王子は、ずっと腕をズビシッ! と真っ直ぐ前に向けているが、指は差されておらず握りこまれている。そしてなぜかこの世の終わりのような真っ青な顔だ。

 

 隣のスノウは肩を落とし、見るからにがっかり気落ちしたように力が抜けている。王子の腕に絡めていた腕もとっくに外されている。視線はゾンビのように覇気がない。

 

 メノー公爵令嬢も顔色は悪く、ぶつぶつと何事か呟いている。

 

 ――というか、会場内全体がおかしな雰囲気に包まれていた。

 

 王子が公爵令嬢を見て、その後公爵令嬢は男爵令嬢を泣きそうな顔で見て――。

 

「すまなかった! 破棄は撤回! 無理なら白紙ということで許してほしい!」

「ごごご、ごめんなさい! 私スノウさんをイジメていたようですわ! 反省しておりますからお許しください!」

「俺、いや、私は王子のことなんて何とも思ってませんから! メノーちゃんいやメノー様とまずお友達からお願いしますうううう!」

 

「は?」

「え?」

「ん?」

 

 この三人が声を上げたのを切っ掛けに、会場内は混沌の坩堝と化した。

 

 魔人に変態するもの、獣化するもの、泣き、笑い、怒る者たち。

 そして飛び交う日本語。

 

「ねえ! 誰か今日本語話したよねえ!?」

「君は日本人なのか!?」

「あなたも?」

 あちこちでお互いを日本人と確認し合う動きや、ループはもう嫌だという血の叫び、雄叫びに絶叫。

私たち(俺たち)入れ替わってる!?」

 というシンクロボイス。

 

 もう何もかもがはちゃめちゃである。

 

 見事に流れるような土下座を決めたメノー公爵令嬢の手をモン王子が取り、もう片手を膝をついたスノウ男爵令嬢が取る。

 

 三人は騒乱狂乱の中、怯えながら寄り添った。

「……一体何が起きているんでしょうか」

「皆、混乱しているな」

「俺……じゃなかった、私にもさっぱりですわぁ」

 そこへ、第二王子のリアム・リアン・チョップーが人波をかき分けてやって来た。

 

異母兄(あに)上! ご無事ですか!?」

「ああ! リアンじゃない、リアム! お前も大丈夫か」

異母兄(あに)上、なんだか雰囲気が……」

「私はこれから戦う(理不尽な処罰への法改正)と決めた」

異母兄(あに)上! それは素晴らしい! 私もこれから戦います(魔女の呪いと)!」

 兄弟はガシッと抱き合う。そして二人で王宮へと走っていった。

 

「これが、雪解け!」

「メノー様、春です!」

 メノーと、スノウも抱き合った。

 

 ――会場内の混沌と熱狂はおさまらないままだった。









読んでくださってありがとうございます。


シリアスな話を考えているとふざけた並列思考が

「ほら書けよ」

「ほら投稿ボタン押せよ」と囁くのです。


ごめんなさい。反省はしてます。


©️2022-桜江

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