第8話
「あーんして、たっくん」
目を輝かせながらそう言う麻邪実に俺は戸惑っていた。
舌を出して口を大きく開けている。
何とも嫌らしい。
「お前は自分で食べれるだろ」
「食べれなーい」麻邪実は足をバタバタさせて、子供みたいに駄々《だだ》を捏ねる。
仕方なく、スプーンでシチューを麻邪実の口に入れる。だが、口は開けっ放しなので、口からシチューが零れ出していた。唇から顎にかけて伝う。
「こぼれちゃった、たっくんっ」
いや、わざとだろ。
目をパチパチしながらテンパる麻邪実に心底呆れ、冷たい眼差しを送るしかなかった。
何故か好き嫌いがある子も居たが、全員が完食した。
全員が食べ終え、片付けの準備へと取りかかった。
皆、自分で食べたお皿はカウンターに持っていき、係の子以外は好きな事をやっていた。
係の子は運ぶとすぐに台所に待機していたので、びっくりした。
まずは霞が皿を洗うのだ。
汚いとか言ってたが、食べた証拠だ! と自己完結していたので無視した。
それから9人の唾液が付いてるとか数億個の細菌が繁殖してるだとか霞は訳の分からない事をぼやいていた。
「見よ、偉大なる滝の如し!!」
「いいから洗剤使って洗えよ」
さっきから水で流しているだけで、手は動かしてない。
「……これでも少しは汚れが落ちてるじゃよ」
ゴミを見る目を送る。
「まぁまぁ分かった、分かった。拓真殿は我の技をもっと見たいのだな」
「見たくない」ドン引きした。
「風神火山!」
素早い手捌きで皿を洗う。洗剤を使い、次々と皿が皿置き場に重なっていく。最初から出来るなら真面目にやれよ。
「風神火山じゃなくて風林火山だし。何言ってんだか分からねーけど」
「風神のように風魔法で早く、という意味。そしてこの積み重なった皿の山が火山なのだ」
「あっそ。手ー止まってる」
それから霞が全ての皿を洗い終え、乃愛の拭く作業に移った。
「拭き拭き、拭き拭き」
可愛い、俺も皿になって拭かれたい。
て、見とれてたら駄目だ。
それでも丁寧に拭けてる。丁寧さは伝わるが、もう少し早く拭いてもいいのかもしれない。
「もうちょっと早くできる?」
「分かった」
乃愛が手慣れたペースで拭き終わり、あとは食器棚に片付ける所になって一旦ストップ!
「いいよ、俺が運ぶから」
運ぼうとしていた伊織を制止し、皿を持った。さっきとは見違える程、白く光っている。
「え、でも……」
遠慮がちにそう言うがきっと割るだろう。俺が来る前だと1日で20皿割っててもおかしくない。自分が食べた皿を運ぶ時、落とさなかったのは奇跡だ。
スマートに皿を持って食器棚へ向かう。高身長という事もあって上の段にも入れる事が出来た。
「ありがとう」と伊織が礼を言う。
全員分、洗って仕舞い終え一息吐いた。
係の子以外は居間で丸机を囲んでTVを観ていた。
春風が窓から吹いてきて大変心地が良い。もう新緑の季節だ。
TVは歌番組だった。
愛理は熱唱してるし、どこからか音痴な声も聞こえてくる。
?か?
「あーあーあー」と?が歌う。
「音程外れてるし、何の歌、歌ってるんだ?」
「TVの」
絶対そんなんじゃない。発声練習だろ。
「~愛してる~」?は最後まで歌った。
愛したくても愛せないよ。それに生気がしない。心がこもってない。
歌番組は終わってないが、曲は終わった。
「お疲れ様ー」と愛理が言う。
まさか?が歌うとは思わなかった。意外。
それにまだ?の名前決めてないじゃん。
「幸せは刹那。刹那に消えゆく」
何、ポエム言ってんだ? と思ったが。こいつの名前、刹那でいんじゃね?
その考えに至った矢先、ある事に気がついた。ちひろ、服脱いでるじゃん、マッパじゃん。毛布に包まれてるけど。
「ちひろ、服着ろ。服」
俺が台所で見てなかった間に。何で服脱ぎたがるんだろ。裸族だから考えても仕方ないか。
「えー夜くらいいいじゃん」
「ダメだ」
普通にそんなこんなで歌番組見て、寝るまで過ごした。
そういえば紗弥奈がここに居る理由知らないな、と思った。1日で全員の秘密知らなくてもいいかなとは思ったが。
寮生活1日目が終わりそうになっていた。




