第33話
ちひろが寝静まった頃、俺らは座談会を始めていた。
ちひろがいなくても出来る話をメインに。
「今日彼氏と仲直りしたのに喧嘩しちゃったー」
どうせお菓子が原因だろ。
「そういえば彼氏で思い出しました」と乃愛が呟いた。
なんだ? 乃愛が恋愛話するなんて珍しいな。
「わたし、今日の午後15:42分に告白された」
何で時刻まで詳細に覚えてるんだよ……ってそんな事はどうでもいい!
「「えええぇぇー!」」
「ちひろが起きちゃうから静かに」伊織が宥める。
「誰から?」
「中村君」
「あのがり勉メガネ?」
どうやら有名な人らしい。
「ああ見えて良い人だからOKした方がいいよ」
「なんて返したんだ」俺が聞く。そういえば喧嘩してたけど、口利いてくれるようになった。ずっと目は逸らしたままだけど。自然と緩和された。だけど謝ろう、そしてありがとう、とも。
「わたし好きな人がいるので嫌いです、って」
って、は? 好きな人がいるとその人以外の男性全員嫌いになっちゃうの?
おかしいだろ。
いや、その中村君ご愁傷さま。傷ついただろうに。
「じゃあ、乃愛の好きな人って誰?」
ツッコまないのかよ。
「まさか、この綾薙君?」
「違う」
乃愛は顔を赤らめて目を逸らした。図星だという反応を示した。本人は気づいてないだろうけど。
「学校の誰? 乃愛ってあんまりそういう話、興味無さそうだったよね。鈍感っぽいし」
「好きな人がいるのは嘘」
(本当だけど)と乃愛は内心で認めた。
「なんだー振りたかっただけかー」
「告白されたの初めてだからどう返せば分からなくって//」
「乃愛ってモテるよね。寮に入る前と雰囲気変わったし。しっかり者のお姉さんって感じになったよ」
「そんなことないよ」
俺は視線を別の方向へと向けた。
すると、ある物が目に入った。
あれ? あんなのあったっけ?
存在すら感じさせなかった。
一体いつからそこにいたんだ?
俺は視線の向こう――水槽をまじまじと見つめていた。
きっと女子寮に訪れる前からあったのだろう。気づかないだけで。
じーっと見ているとそれに気づいた乃愛が「どうしたの?」と聞いてきた。
「ああ。あの水槽って前からあったかなって」
「あったよ。女子寮メンバー全員で世話してるの。女性の管理人さんが買ってくれた」
「あっち行ってみようか」と紗弥奈が誘う。
水槽の前に座り、眺めるとそこには金魚とグッピーとエンゼルフィッシュが泳いでいた。
ここは熱帯魚水族館か! と思うほどにエンゼルフィッシュが優雅に泳いでいた。普通、水槽に熱帯魚いる?
「沢山いるな」
「食べたい」
乃愛が唐突に意味の分からない発言をした。
「夕飯ならもう食べただろ」
「そうじゃなくて金魚」
は? 何言ってんだ。こいつは。
乃愛は口元からだらーっとよだれを垂らしている。本当に食べたそうだ。
美味しそうな物を見る目で水槽を眺めている。
水槽って美味しそうな目で見るものだっけ。
「金魚食べたい。焼いて食べたら美味しそうだなーって思ったの」と言うと水槽に手を突っ込もうとした。
それを伊織が「ダメダメダメー乃愛ちゃん金魚は食べ物じゃないから。またそういう事して」と止めた。
《《また》》って事は前科があるのか。
「金魚美味しそうだったのに」
むすーっと不機嫌そうに口を尖らせた。
「じゃあ仕方なく餌食べるか」
と乃愛は諦め餌を探したが無かった。
って餌は食べ物じゃないけどね!
俺も餌をあげようと思ったので探した。
すると、踵を返すと刹那が餌が入っている筒状の容器を持っていた。
むしゃむしゃむしゃ。
って食べてるし!!
「ちょっちょっちょ、刹那、餌は魚の餌であってお前の餌じゃない」
「これ、結構美味しいよ?」
「あたしも食べるー」
麻邪実まで食べに来た。
「没収」刹那から餌を奪い、死守した。
「ちょっとーたくま君わたしも食べるー」
「結構栄養価も高いのに。アミノ酸、グル――」
刹那が言おうとしていた事を遮り、「そういう問題じゃない!」と活を入れた。
マトモなのは伊織と愛理と紗弥奈だけか。
霞も今はマトモに見えるけど多分違う。
水槽とにらめっこしてる霞に声を掛けた。
「あの……霞?」
「ひゃあ、びっくりしたー」
驚くと中二要素抜けるのか。
「何やってんだ?」
マトモな人は水槽の魚を見てた、綺麗だなと思った、と答えるだろう。
だが、霞は
「今、魚とテレパシーしてるから邪魔するなよ」と答えた。
「ちなみにどの魚とテレパシーしてるんだ?」
「グッピー様だ」
様付け……霞の中ではどの立ち位置なんだろう。
「魚とテレパシーなんて出来るはずない、と大衆は言うだろう」
「あ、うん」
霞も分かってやってるんだ。少し安心した。
「だがな、テレパシーした証拠がある」
「驚かないで聞いてよ?」
俺は頷いた。
「魚と目が合ったんだ。あの魚と! 奇跡に近い」
「いや、目くらい合うだろ。ずっと見てたら」
「そ、そうなのか?」
「うん」
きょとんとした顔を浮かべる霞。
その後は終始無言の間が続いた。
それから餌をあげた。




