第32話 乃愛ルート
学校から帰ってきて、乃愛は料理へと取りかかった。
今日は和風メニューだ。
異変が起きたのは鯖の味噌煮を作ってる最中だった。乃愛の体が左右に揺れているのだ。フラフラしている。
その異変に気づいた伊織は乃愛に声を掛ける。
「大丈夫? 私がやろうか?」
魚をひっくり返す事くらいは伊織でもできる。
「大丈夫。わたしは平気だから」
『大丈夫』、『わたしは平気』、これは乃愛の口癖だった。乃愛は責任感が強いのだ。
それから夕食を食べ、全てが片付いた夜のこと。
乃愛は体調が悪いのを自覚していて熱を計っていた。
「……38.6度……」
この一言を俺は聞き逃さなかった。
乃愛は熱があるというのにチェックシートを書こうとしていた。
チェックシートのボードを取りにいこうとしていたのを見て、
「乃愛? 体調悪いんじゃないのか? 休んだ方がいいよ」と問いかけた。
「大丈夫」
真顔で言った。
万が一の事を見越してチェックシートを取りに行く乃愛についていった。
「これはリーダーとしての仕事だか……らっ」と言った直後、乃愛は倒れてしまう。
ふらっと倒れた乃愛を全身で支えた。
「大丈夫か? おい、しっかりしろ」
体を揺するが意識が無い。
さっきよりも熱が上がっているようだ。
急いで紗弥奈のゲーム部屋まで運んだ。寝ている子達を起こすのも良くない。
チェックシートも一応持っていった。
「紗弥奈、入るぞ」
いつも通りゲームをしていた。ゲームは23:00迄で24:00迄に寝るように、というルールを設けた。
紗弥奈はゲームに集中していてこちらの事には気づいていない。
冷えピタを貼ってあげて、薬と体温計を持ってきた。
体温を計ると39.8度だった。かなりの高熱だ。
薬は自分で飲めそうもないから、飲ませてあげた。
それから15分後。
乃愛が目を覚ました。と同時に紗弥奈も振り返った。
「お母さん……?」
乃愛は寝ぼけているようだ。
「綾薙拓真だ」
そんなにお母さんに会いたいのか。もう1ヵ月は会ってないもんな。授業参観で会えたかもしれないけど。
「看病してやったぞ」
「ありがとう、チェックシートは?」
「俺がやる。お前はいいから寝てろ」
そう言い聞かすと乃愛は目を閉じた。
「おやすみなさい」
「乃愛、おやすみ」
今日はここで寝かせてやるか、と思った。それか紗弥奈に運んでもらおう。でも、熱があるから他の子に移しちゃまずいか。
乃愛の抱きしめた時の感触が拭えなかった。柔らかい肌。豊満な胸。それからぽっちゃりしてるけど小柄で俺の体にフィットした身体。乃愛は胸が大きいのだ。ぽっちゃりしてるからかもしれないけど。そして、ちひろの次に背が低い。
――柔らかくて温かい。
「ってちょっと! いつから居たの?」
「10分くらい前から」
「来るならノックくらいしてよ!」
「ノックもしたし、声も掛けた」と俺は呆れ顔で言う。
「そう」
「どうせゲームに熱中して気づかなかったんだろ」
紗弥奈はゲームが一段落したのか立ち上がった。
「乃愛! どうしたの?」
「熱が出ちまったみたいで……」
「寝てるから優しく大部屋まで運んでくれるか?」という俺の頼みに「分かった」と引き受けてくれた。
助かる。
そうして夜が更けた。




