第31話 主人公ルート
学校から帰ってきたら体が重い。疲れてしまったのだろうか。
リビングのテーブルを囲む座布団に座る。
皆と喋っていた。
その途中、
「高3の教室ってどんな感じなの?」
「普通だけど」
「たくまの事だから成績優秀だよね」
あれ、マトモに返答出来ない……
息が苦しい。
「それほど、でも」
「たくま君って友達居ないよね」との乃愛の辛辣な語りに「友達くらい居るし!」と反論したかったのだが、その気力、体力が無い。
明らかにおかしかった。
「たくま君、たくま……どうしたの?」
乃愛に体を揺すられる。
「たっくん、顔赤いよ」
「もしかして本当に友達居なかったの? あはは。恥ずかしがることないよ」
額を触ってみる。熱い。
「体温計貸して」
「はいよ」
計ってみたら38.5度。どうりでおかしいわけだ。
「何度だった?」
「熱ある」と紗弥奈に体温計を渡す。
「あらら。こりゃ看病タイムの始まりだね」
乃愛が急いでキッチンに動いた。
その間、他メンバーが俺の面倒を見ていた。
「冷えピタ貼るよー」
その掛け声と共に紗弥奈が冷えピタを貼った。
「……」
俺の反応は何も無し。
それに不満を抱いたのか不満げな顔で「ひゃん、とかきゃっ、とかわぁ、とか少しくらい声出してよ」と紗弥奈は残念がった。
「それ男がやったら痛い人だよ。恥ずかしい」
「痛い人になってほしかったの!」
何でだよ。
「熱あるね。綾薙くん。大丈夫だからね、すぐ治るから」と伊織が手を握る。細く冷たい手の感触が優しく伝わってくる。
「じゃあ次はお薬だね」
伊織が刹那に薬袋を渡すが、そのタイミングで乃愛が来た。
「海鮮粥できたよ」
「乃愛早い! 薬はお粥の後にしようか」
皆は和風メニューだが、俺だけ特別メニューだ。乃愛はむすっとしている。
「みんな、わたしが居ない間イチャイチャしてたでしょう。わたしだって巻き返すから! わたしが愛情込めて作ったご飯食べて♪」
ただの嫉妬か。イチャイチャって……してねぇよ。
そう言って、乃愛はスプーンでお粥を掬う。
「お口開けて」
「自分で食べる!」
「「ダメ!」」
メンバー全員に気圧され、嫌々あーんさせられる羽目になった。
「あーん。はい、あーん」
乃愛が器用に俺の口に溢す事無く、入れていく。
普段の甘い声が更に甘く、可愛く聞こえた。風邪のせいかな。
「乃愛、ずるい! あたしも」
麻邪実がぐいぐい押していく。
次は麻邪実がやる事になった。
その次は……
「ローテーション方式でいこう」と紗弥奈が提案したのだ。
は? ローテーション方式だと!?
メンバーが順番にあーんする事である。
「開けて下さいー」と愛理。
口をずっと閉じてたい。
「これ、なかなか緊張しますね。本当は耳の穴とか鼻の穴に突っ込みたい所ですが、仕方なく口に入れてあげます」
無表情で怖い事言うなよ、刹那。
「疾風! 目潰しの刑!」
目にかけようとした霞を全力で紗弥奈が止める。
「な、何をするのじゃ」
「ちゃんと口に入れてあげなさい」
「えー。……ペット」
ペット? 俺はペット?
あと何の罪犯したんだよ、俺。
こうしてメンバー全員にあーんされたのだった。不思議な儀式だったが、これだけで癒されて良くなった気がする。
「おやすみなさい、たくま君」
最後に薬を流し込まれ、眠りへと誘われた。
管理人部屋に刹那だけが残った。
その前に刹那に
「最後にキスでもしておきますか」と艶やかな声で言われた、気がした。
寄付? どこへだ? 俺にはそうとしか聞き取れなかった。
返答出来なかった俺に刹那は頬に優しく軽くキスをした。
頬に何か当たったな。クッションか。
熱と夢に惑わされ、この事は夢で片付ける事にしたのだ。
起きた時には全員居た。
8人の顔が俺を覗きこむ。
「朝だよーたくま君」
「まったく。寝ぼすけさんなんだから」
え、朝! どうやら俺は朝まで寝てしまったらしい。
「熱無いんだから学校行くよ。朝ごはん食べて」
「熱計ってないよ!」
「熱計らなくても分かるよ。顔色良いんだから」
一応計ったところ、36.7度だった。
あー学校休めると思ったのにぃ。
そうして朝食を食べ、学校に行くのだった。
――美少女に看病されるのも悪くない。




