第29話
それから1時間ほど過ぎて皆が風呂から出てきた。俺はというとちひろが心配過ぎて銭湯に行けなかった。
「俺がずっとそばにいてやるから」と声を掛けるとちひろは幸せそうに眠っていた。
ちひろには聞こえてないだろうと思ったが実はちひろにもその声は届いていた。
ちひろは熱だからだと思うが顔が真っ赤に染まっていた。けれど、ちひろは心の底から安心感を得れた。俺は髪を撫でてやる事しか出来なかった。無力な自分に嫌気がさす。
「たくま君、もういいよ。看病代わる」
銭湯行って、と言われたので渋々銭湯に行く。
銭湯に行く最中もちひろの容態の事ばかりが頭を埋め尽くしていた。
一方その頃女子寮では熱を計っていた。1時間ほど経ったから熱は下がっただろう。
39.3度だった。下がったがまだ高熱だ。
「うどん食べれる?」
「うん」
「リンゴも切ったよ」
乃愛が皿を布団まで運ぶ。
「じゃあ、あーんだね。それとも自分で食べれる?」
「自分で食べりゅ」
本当は拓真くんにだったら食べさせて欲しかったみたいだが、女子相手だから自分で食べるらしい。
(熱で息苦しい……頭が重い。クラクラしてぼんやりする)
苦しみながらそれでも食べた。
「うどん、美味しい」
「それは良かった」
一本一本、丁寧にゆっくりと噛みしめて食べた。出汁が利いてて美味だ。
「早く拓真くん帰って来ないかなー」
ちひろはそう呟いた。
さっきの彼の言葉が頭を巡っていた。ちひろはずっとそばにいてくれる、という言葉を信じていた。安心感を感じていた。そばにいてほしい、と思った。ちひろにとって彼はお父さん的存在だった。頼れる存在。
「お風呂は?」
「入れないね」
「明日の学校」
「無理だね」
折角、下着買ったのに、と嘆いていた。
「多分、ただの風邪だと思うよ」と乃愛。
「2日くらいで治るから心配いらないよ」と紗弥奈が励ます。
すぐ寝た。
起きた頃に俺は帰ってきてた。
「ただいま」
「おかえり」
「ちひろ、大丈夫か? 熱は? さっきより顔色良さそうだけど」
「39.3度」
その言葉に一安心した。アイス買ってきたぞーと言ったが、もう食べたと言われてしまった。
「いいなーちひろ。あたし、ちひろになりたい。皆から心配されたい。特にたっくんに看病されたい」
「そういうこと言うなよ! ちひろはすっごく苦しんでるんだぞ。分かるか?」不謹慎な発言をする麻邪実に本気で怒った。
「ごめんごめん。苦しみたくはない」
それから洗濯物が洗い終わり、洗濯係の愛理が干す作業にあたる。至ってシンプルだ。無駄がなく要領が良い。ここは寮だから部屋干しだ。
乾いた洗濯物を畳んで洗濯物入れの箱に入れるのはいつもならちひろ担当だ。
だが、今のちひろは熱があって意識が朦朧としている。当然、無理だ。愛理一人に任せるのは大変そうだし、他のメンバーがやるしかない。俺がやるとまたセクハラ騒動となるだろう。
なのだが、なんとちひろが「やる!」と言い出したのだ。
「うち、畳むから。やるから、これでも頑張って、する」
「ちーちゃん、無理し過ぎだよ。あたしが全部するから気にしないで」
ちひろは今にも泣きそうな顔になっている。
「愛理さん一人じゃ大変そう……」
「じゃあ、私がやってあげてもいいわよ」と刹那が一番手で挙手した。
なんでこう、刹那は上から目線なんだ。
「あたしもやるー」と紗弥奈。
それから次々と私も、あたしも、と声が上がった。
こういうチームワーク良いなあと俺は感動していた。
「ちひろ、おやすみ」
「あ! パジャマに着替えさせないと」
ちひろは途端に服を脱ぎ始めた。
ダメダメダメ!
「なんでパジャマ着なきゃいけないの? 今日全裸の日」
全裸の日って何だ。
パジャマを持ってこさせた。黄色のパジャマは洗濯に出されていたので、水色の水玉のパジャマだ。
「たくま、出てって。ちーちゃん着替えるから」
出ていくが、こいつの裸ならもう20回は見てるぞ。変わりない気がする。
「服着てないから風邪引くのよ」
ちひろは「服ちゃんと着るようになってから、なんで風邪引くんだろう……うちはいつまでも裸のほうが良かった?」と終始不思議そうな顔をしていた。




