第24話
この寮に入って3日目。だいぶ、ここの生活には慣れてきた。皆の性格も分かってきて最初に比べて一段と楽になった。騒がしい毎日には変わりないが。
俺は起きて背伸びをする。この眠気と背伸びした時の気持ちよさが相まって、絶妙に気持ちいいのだ。
そんな事はどうでもいい。
毎日の朝の日課である牛乳とコンビニで買ったサンドイッチを食べる。少しでも乃愛の負担を減らしたい、そう思っていた。そう思っていたのだが――。
女子寮の戸を開ける。勿論ノックして入っていいか? と聞いてから開けた。最近になって覚えたのだ。
もう既に乃愛は料理を作り終えていた。
「たくま君、おはよう」
「おはよ」
テーブルにはトーストや目玉焼き、サラダといった朝専用の食べ物が並べられていた。俺の好きなオムレツもあったが、そこは我慢。我慢だ。
「俺は朝飯要らない。皆で食べるといい」
「なんで?」
不思議そうに上目遣いで乃愛は尋ねてくる。
「ほら、沢山作ったんだから食べてよ」
促されるが拒否する。
「わたしが作ったご飯、食べてはくれないの?」
「折角端正込めて作ったのに……」
目がうるうるしてる。上目遣いで涙目になって食べて? て言われたら食べないわけにはいかないだろう。
全国の男性は女の子にうるうるした目で上目遣いされたらドキッとして何でも受け入れてしまうに違いない。そういう所に弱いと思う。
「ごめん。毎日作ってくれるのはありがたいんだが、乃愛の負担を減らしたかったんだ。だから、俺の分は要らなかったんだ。だけど、そこまで言われたら食べるよ」
「気遣ってくれたんだ。だけど、一人増えたくらいで大変じゃないから心配しなくて大丈夫。ありがとね」
気づいた時には乃愛を抱きしめていた。乃愛を傷つけてしまった事への細やかな報いと日々の感謝で。抱きしめずにはいられなかった。
「何するの? たくま君」
「いつも、ご飯作ってくれてありがとう」
小さな体の温もりに心が浄化される。どこまでも守ってあげたくて、柔らかな感触が全身を包む。時が止まったような気がした。
「お礼を言われるような事をした覚えは無いよ。リーダーの料理係の当然の任務をしたまでですっ」
「それよりコンビニのご飯とわたしのご飯どっちが美味しいの? 答えて?」
何でそれを知っているんだぁー
こっそり下校時に寄って買ってるのを。
「乃愛のご飯かな」
「適当めーめーです」
その一連のやり取りを見ていた愛理が口に出した。
「それ! 演劇に使えるかも! 料理を毎日作ってくれる妻に感謝してさりげなく夫がハグ。いいじゃん!」
乃愛が妻で俺が夫とでも言いたいのか? ありえん。
「もう一度ハグしてー」と愛理。
「……嫌だよ」
はぁ、と息を漏らす。
「たくま君の体は筋肉があってバリケードみたいで良かったなぁ。男性にハグされたの初めて……」
何の褒め言葉? バリケードってそれ褒めてる? 初めてって余計な事しちまった。
「高校一年生の女子と高校三年生の男子がハグとかありえない! ここ女子寮だよ? 写真撮っちゃったー」と麻邪実が批判する。
「麻邪実も本当はハグしてほしいだけだろ?」
「その通り!」
「駄目だ。俺はお前に感謝する事が何も無い。彼氏にやってもらえ」
「感謝しなくてもハグは出来るでしょ? ハグしてくれないとこの写真学校全体にバラすよ」
ヤンデレ怖いよ。バラされたら俺の人生終わるじゃん。
俺はカメラを奪い取り、麻邪実は飛び乗ってきた。飛び乗られても困るだけだ。
「返してー」
そんなこんなで麻邪実は不機嫌だった。
「あたし、乃愛になる! 今日から料理する!」
「麻邪実は掃除係だろ」
「じゃあ掃除したらハグして?」
「はいはい」
所で愛理は何をやっているのだろうか。
壁にハグしてる。時折、空気にもハグしてる。
そして、「いつも、ご飯作ってくれてありがとう」と低い声で俺のセリフをコピペしてやがる。
まさか男役をやるとは……。
しかも声わざと低くしすぎて変質者とか怪しい詐欺の人みたいになってんぞ。
「俺のセリフ真似しても意味なんて無いぞー」
俺の声が愛理に届く事は永遠に無いらしい。それだけ集中している。
メモまで取っていた。
本当に演劇で使うのか?




