第21話
皆、俺の方を見ている。何だか見つめられると緊張する。
「?の名前の件についてなんだが」
「刹那に決めようと思う。皆それでいいかー」
全員えー、とか、んー、とか、それでいいと思う、とか様々な意見が飛び交っていた。一番驚いていたのは?だ。
「何で? 理由は?」
「それは?が刹那を使ったポエムを口にしていたからだ。それに?も刹那って単語好きそうだし。一番似合ってると思う」
「そうだね。刹那って単語は好きよ。ありがとう」と?が礼を言う。
「ほら、何か言ってみろ」
「刹那」
「そうじゃなくてポエムだよぉ」
「刹那とは一瞬、ごく僅かという意味の単語であり……」
「そうじゃない!」
どうやら刹那のポエムは珍しいらしい。
「じゃあ皆、?の名前は刹那でいいかー。決定な」
「いいよー」
声が揃った。
「でもあたしはこおりちゃんってずっと呼んでいたいな」紗弥奈が呟く。
「我は可能性を秘めているそなたは魔王と呼ぶぞ」と霞もそれに続く。
皆自由にしていいと思う。
「刹那ちゃんのポエム聞きたかったなー」と残念そうに愛理が嘆いた。
すると、だよねーという声が聞こえた。
「じゃあ学校でも刹那って名前になるの? 寮のチェックシートは?」
「そこまで俺に権力は無い。チェックシートは刹那になるよ」
「バイト先は?」
「それも違うな。刹那は寮内だけの名前なんだ」
それだけ特別な大切な名前なのだ。
これで正式に?の名前が刹那に決まった。刹那も喜んでいる。ご飯を食べ終わる時、嬉しそうににっこりとはにかんだ。それを俺は見逃さなかった。
初めて名前を付けられて嬉しかったのだろう。可愛らしさもあるクールな彼女をこれからも大切にしようと思った。
***
食事が終わり、風呂を待っていると……
「今日彼氏と喧嘩しちゃったんだよね」
麻邪実が落ち込んだトーンで呟く。麻邪実が落ち込むなんて珍しい。
ていうか麻邪実彼氏いたのか!?
新情報!
「お疲れ様。傷ついたなら俺に言ってくれ」
「そういう事じゃないんだよ。あたしは傷ついてねえよ。彼氏が他の女と廊下でいちゃついてたの。マジあり得なくない? それにお菓子プレゼントしたら前に食べたことある、だって。それで彼にキレられて。最悪な1日だったわ」
そうか。そんな事があったんだな。
でも、麻邪実の物事の見方も間違ってる気がする。
「いちゃついてたのは本当にいちゃついてたのか? ただお喋りしてただけじゃないのか」
「お喋りしてたけどあれもいちゃついてたのに入るわよ。学校であたし以外の女と喋るのは禁止されてるんだから」
ヤンデレこえー
「それはおかしいだろ。彼氏大変そう」
「なんでよ」
麻邪実は不満げだ。
「お菓子の件はよくありがちだな」
「もう食べたことないお菓子あげて仲直りするしかないな」
「そんな事できるかしら。だって彼氏、お菓子スペシャリストなのよ」
「お菓子スペシャリスト?」
「お菓子好きで食べたことないお菓子は……無いに等しい。それで何で俺の食べたことあるお菓子買って来るんだよ! ってキレられた」
彼氏は彼氏ですごい人だ。
「まあそれは時間が解決してくれるのを待つしかないな」
「それはそうとして何で彼氏がいるのに俺にあーんさせたりなんかしたんだ?」
それが問題だ。一歩間違えれば浮気になるかもしれない。
「それはたっくんが好きだから」
は?
「学校の彼氏、寮の彼氏、大人の彼氏がいるのは常識でしょ」
何言ってるんだ?
「ちょっと待て。俺はまず彼氏になった覚えは無い。あと何でそんなに彼氏が必要なんだ」
「えーそんな寂しい事言わないでよ。必要なのは愛が満たされないから」
口を尖らせて言う麻邪実。
「もしさ、彼氏が複数の彼女がいたらどういう気持ちになるか?」
「殺意湧く」
「だよな。いや、だよなじゃ無いんだけど。気持ち分かるよね」
「うん」
「だから大人の彼氏とは別れろ」
すごくショックな顔を浮かべた。まるで糸が切れそうな様子を見ているかのように。
「考える」
「考えるじゃない。今すぐ別れろ」
麻邪実の終始不満そうな顔は変わらなかった。
「まあ取りあえずゆっくり休め」
そう言ってソファーへと促した。
麻邪実がソファーに座るのと同時に風呂のセット完了の音が鳴った。




