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第16話 伊織ルート

「あ、綾薙君。こんにちは」


手をひらひらと振りながらそう挨拶するのは学年でTopの成績を誇る伊織だ。生徒会副会長も務めている。


「こんにちは」


「それより座っていいのよ、隣」


このベンチって男女で座ると恋が実るベンチじゃなかったっけ?


「俺は良いよ。立ち話にも慣れてるから」


「暑いからそんな事言わずにほら」


「じゃあお言葉に甘えて」


白いベンチに深く腰かけてフッと一息。


「伊織はこんな所で何やってるんだ? 休憩中か?」


「そう。休憩中。美少女とか才女とかで注目されるのに嫌になっちゃって。一人になりたいの」


「じゃあ、俺いないほうがいいか?」


俺は気を遣った。


「綾薙君は居ていいの。何て言うか綾薙君といると安心したり落ち着くから」


そう言われて嬉しかった。


「ありがとう」


「そりゃあ注目され過ぎるのは疲れるし、嫌になるよな。ここではのびのびとしていいんだぞ」


伊織の表情が柔らかくなったように感じた。


「伊織は無理し過ぎだと思うんだ。私がやらなくちゃとか100パーセント頑張らなきゃとか。完璧主義なんだと思う。だから、肩の力を抜こう」


「そうなんだね。言われてみれば綾薙君の言う通りだと思う。もっと肩の力を抜いた方がいいよね」と伊織は言うと足を組んだ。


伊織がこういう体勢するなんて珍しい。


「なんかね、綾薙君といる時は本当の自分でいられる気がするの。何でかな……」


「リラックスしてくれてるのは嬉しいけど理由は俺にも分からない」


「私ってドジじゃん? そういう所も認めてくれてる気がして」


「ああ。それは女子寮の子も認めてると思うよ」


「何でドジを否定してくれないの!」


渾身のツッコミだった。ビンタされた。否定して欲しかったんだ。肯定してもいいのかと思った。


「女子寮の子といる時も安心するよ」



「今日、生徒会の仕事があって会長お休みだから私がまとめなくちゃいけなくて疲れちゃった。もう最悪だよ。全てを投げ出したい」


「お疲れ様」


「ブラックいおりんが降臨しそうだよ。……綾薙君の前では見せたくない」


「見てみたいけどな」


「いや!」


両手を広げてみせた。

伊織は困惑している。


「お疲れ様」と言うと伊織が腕の中へと入った。


伊織の体は温かかった。顔が近い。ふわりとしていた。


このぬくもり。忘れない。綾薙君の腕の中は安心する場所だった。安心感のあるしっかりとした体つき。ずっといていたい。さっきまでの疲れが一気にやわらいだ。


「もう大丈夫。大丈夫だから。ありがとう。こういうのは好きになったらにしよう」


「伊織は俺のこと、好きじゃないのか? それにお疲れ様のハグだから愛してるのハグではないから勘違いしないでね」


伊織はコクりと頷いた。


「まだ綾薙君のことは10パーセントしか好きじゃない」


何だよ、10パーセントって。


「何なの、その数値ぃー。意味分かんないんですけどぉ!」


まだ陽は明るかった。俺たちの声が庭園に響いた。薔薇に囲まれた道を伊織はくるくると回りながら、俺はまっすぐに歩いた。



















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