第12話
「じゃ、私はバイト行ってくる」
「バイトは行ってるのかよ? 単なる引きこもりかと思ったよ」
少し勝ち誇った顔で腕を組み、刹那は一言。
「当たり前じゃない。金は必要だから。将来の為にも貯金した方が得よ」
もう将来の事、考えてるのか。
「何のバイトしてるんだ?」
「援助交際、JKビジネス」
悪戯な目で俺を弄ぶ。
「嘘だろ、何で嘘吐くんだ」説教モードに入った。
「騙されるのかと思ってーえへへ」
だいぶ、馴染んできたのか冗談も言える関係になった。少しずつ心を開いてもらえてるのだろう。最初のクールさも良かったが。
聞けば午前、午後のシフト両方入ってて、店長と相談したから17:00には寮に戻るらしい。因みにファミレスで働いているらしい。
「バイト先の人から学校の事とか聞かれないのかよ」
「聞かれるけど大丈夫。上手くあしらってるわ。それに制服でバイト行くとすぐ学生だって分かるから便利なの」
「それで中学は通ってたのか?」
「行ってない」
「え、」
「だって小学校だけ卒業すれば社会に出ても問題ないってあの人が言うから」
「いや大問題だ。言った人殺す。誰だ?」
「テレビに出てる人」
「もう信じるな。連帯保証人の人可哀そ過ぎるだろーが。小学校は卒業したんだ」
「苛められてたけど小学校は心を無にして死んだ目して行ってた」
おいおい、心無ちゃんになっちゃうぞ。
「そうか」
「それで?の名前、刹那でいいか夕食の時、議論するから。刹那はいいか?」
名前を決めないと呼びづらい。この寮だけで呼び合う名前を決めなきゃ。学校は空欄だとしてもバイトは連帯保証人の苗字だとしても。名前を付けてあげたかった。
「私はいいよ」
「人生は刹那的。すぐに終わるけどその瞬間がいとおしい。そして刹那で散った綿毛は空へと飛びゆく。そして花になる」
「そのポエムにはついていけないが」
そして刹那はバイトへと出掛けた。制服のまま、玄関から出た。バイト先で着替えるのだろう。だけど、小学校しか行ってない子が仕事をこなせるか心配だった。
残るはちひろと紗弥奈だ。
もうゆっくり説得してる暇は無い。
ちひろは何故学校に行かないのか。やはり服が問題か。
「ちひろ、学校」
「このまま出ていいの?」
「駄目なのは分かるよな」
「つい最近、公然猥褻罪で補導されたんだよね」
補導されてんのかよ。
「わたし、外で着ていい服は一つしか持ってないから。それなら大丈夫かな?」
気になった。問い返すより先にちひろが口を開いた。
「水着」
一瞬思考停止した。
「ダメに決まってるだろおお」
「水着で登校したら皆ちひろのこと、まじまじと見るよ。普通水着で過ごす人はいない」
「可愛いから?」
そうじゃねぇよ。何でそうなるんだよ。
「水着も無しだ。今日は休んでいい。下着買ってくるから届いたらそれ着て学校行け」
「うん」
ちひろは服さえあれば登校してくれそうだから問題無い。
最後にゲーム部屋を見てから俺も遅れて登校する事にした。