第9話
21:00になった。
日程表には21:00消灯となっていたのでもう寝る時間だ。
洗濯係の愛理とちひろが布団の準備をしている。
部屋が広いので8人分の寝るスペースはある。
俺はバイト、職員の管理人専用の別室で寝る事になる。管理人になって初の寝泊まりだ。
そして、やらなきゃいけないのが夜の見回りだ。1時間に一回。但し、3~5時は見回りせずに寝れる。起きる時には全員が起床時間に起きているかチェックしなければならない。起こすのも管理人の仕事だ。因みに起床時間は7:30だ。
全員が布団に入るのを確認してから電気を消そうとした。
が、乃愛が布団をかけたまま座っている。
「みんなー寝るよー」
点呼した。
「乃愛も」
乃愛は立ち上がり、窓際の小さなスペースに移動した。背もたれ付きの丸椅子と丸テーブルがあった。小さなランプを付け、書き物をした。
「乃愛も寝ないと」
「これはリーダーとしての仕事なのです」
そう言われても寝てくれないと心配だ。
「やらなくていい。俺がチェックシート書くから大丈夫だ」
「たくま君は何も分かってない! 余計なお世話ですっ」
キレられた、のか……
「さっきだって手伝ってはくれたけど、たくま君がいなくても上手く回るのに」
俺は必要な存在じゃない。胸に言葉が刃物のように突き刺さった。
辞めたい、と初日から思いそうだった。これが乃愛の抱えてきた本音だったのかと思い知らされた。
「ごめん、邪魔して。色々な事も含めて」
「いいよ。書類は管理人に提出する決まりになってるから」
「そうだったのか」
乃愛だけは10分くらいで書き終えて寝るという約束で許可した。
それにしても夜まで書類を書くなんて凄いし偉いなと思った。遠くから真剣に書いてる乃愛を見つめていた。
女子寮部屋の戸を開けて自分の部屋に戻ろうとした道中、乃愛に言われた言葉が脳内でリピートされていた。
俺は要らない存在。余計な事ばかりする。触れてはいけない所にまで手を突っ込む。何て最悪な人なんだ。少しくらい高校生なんだから、目を離して自由にさせて任せてもいいはずなのに。と自己嫌悪に駆られた。
でもそれで気づかされた。今度から言動を直そう。努力しよう。そうも思えた。
だけど、乃愛との距離が開いてしまった気がした。
少しの仮眠をしてアラームが鳴ったので見回りだ。なんかこの部屋、狭いなぁと思ったのはともかく。それは置いといて。
女子部屋に行ってみると乃愛はぐっすりと目を瞑って寝ていた。
あれ? 肝心の紗弥奈は?
紗弥奈がいない事に気づいた。部屋中どこを見渡してもいない。
ほんと、どこ行ったんだ??
辺り一面を見てもいない。どうやらこの一室にはいないようだ。一体何処に消えたんだ? まさかだけど誘拐とかされてないだろうな。
あの明るくしっかりしてそうな紗弥奈が寝床に就いてないとは思わなかった。
この部屋に居ないから戸を開けて廊下に出た。
するとトイレとは別に扉がある事に気づいた。……まだ部屋がある!。
扉をそおぉーっと開けてみると……
そこにはパソコンに夢中な変わり果てた紗弥奈がいた。
***
「紗弥奈、何してるんだ?」
声に驚いて紗弥奈は目を見開いて戦いた。
「バレちゃった、ね」てへ、というかのように頭をコクっとする。
「夜は寝なきゃダメだろ」
優等生かと思ってたのに裏切られた感が半端なかった。だけれど、問題児ばかりのいわくつき女子寮だから仕方ないか、という諦めもどこかにあった。
「だって、イベント今日で終わりなんだもーん。やんなきゃでしょ」
「そんな言ってもこれはルールだ。俺以外の管理人の時もそうしてたのか?」
「もちろん!」
そんな自慢されても困るんだが。
それと気になったのがパソコンと椅子の周りにあるキャラのぬいぐるみの数々。パソコンにもフィギュアやマグネット、ストラップが集まってる。壁には暗くてよく見えないがポスターが貼られてるように見えた。部屋が散乱していた。
「今日はもうダメだ。諦めて寝なさい」
「えーヤダヤダぁーイベントぉー」
駄々を捏ね始めてしまった。まるで玩具を取り上げられた子供のよう。
紗弥奈を無視し、パソコンを閉じようとするが抵抗する力も負けてない。
「これだけは本当にっ」
パソコンを何とか閉じ、紗弥奈を何とか説得し、事態は収まった。
「誰にもオタクだって事、言わないでね」と唇に人差し指をかざし、言われた。
「もうバレてると思うぞ」
紗弥奈はグッズやゲーム課金をバイト代削ってまで、借金を負うまでしていたらしい。親から万単位の金を貢いで貰っている。
親元で自分の部屋の整理も出来ず、借金するからこの寮に来たのが紗弥奈だ。
寮部屋の布団まで送り、俺は部屋に帰った。送る途中、紗弥奈専用部屋をどう解体するかなぁと考えていた。
パソコンは勿論、シャットダウンした。
そうして、9人は深い眠りに入った。