わたしに起こる嵐の前兆
しばらくして、真顔の真紘が戻ってきた。
「灯さん」
「ん?」
「……何か、パン屋さんの人が来てる」
「パン屋さん……?」
わたしが知ってるパン屋さんはヒノデパン屋しかないが、そんなまさかと思い、体を引きずりつつインターホンを覗くと。
「幸くん?」
まさかのそこのご長男が、しっかりと映っていた。
そして背後から掛かる声。
「……誰かな」
「えっ、あ、ああ、職場のご長男」
「ふーん……」
何故、ご機嫌が急降下なのですか。
「あっ、待たせちゃってる!?ごめんね、幸くん!どうしたの?」
インターホンを押して話しかけたなら、向こうの幸くんが「家、間違えたかと思った」と言った。そうか、真紘が出たからか。
「ううん、合ってる。あ……」
振り向けば、今度の真紘はすこぶるいい笑顔で……爽やか、ではあるが、何か、怖い。
「せっかくだから、あがってもらったら?」
「……はい。幸くん、どうぞ……あの、直通エレベーターがあるので……」
体調の悪さとは別の意味で、頭が痛くなってきたわたしである。
「灯さんは出ないで」
「でも」
「体調悪いんだから、ね?俺がちゃんとお相手するから大丈夫だよ」
すこぶる爽やかに、そしてすこぶる優しく、そう言いくるめてくるイケメンが目の前にいる。何故だろう、不安しかない。しかしわたしは、お風呂にさえ入っていないしノーブラで、発熱している。確かにお相手は出来ないに違いない。
「じ、じゃあ、お願いね。シフトのことだったらわたしに教えてくれる?」
「もちろん」
「ちゃんとお茶も出してくれる?」
「場所はわかってるから任せて」
「うん……」
会わせてはいけないという警鐘が頭の中に鳴り響いているが、では何故そう思うのかは全くわからない。勘としかいいようがない。
ピンポーン。
「さあさあ、灯さんは休んでいて」
しかして、彼はやって来たのである。