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思い付いた侭を書き殴ってみたシリーズ

婚約破棄は策略と共に

作者: 羅貫厨

思いついた侭を書き殴っただけなので、設定や背景はボロボロです。

 どうしてこんな事になってしまったのだろうか――?


 そう悲嘆する彼の目には、



「アンジェリカ・モートン!聖女ステラに対し行った数々の悪行を許す訳にはいかない!ボクは君との婚約を破棄する!」



 彼の親友である王太子フェイル・ド・グランシスが婚約者である公爵令嬢に向けて婚約の破棄を告げる姿と、公衆の面前で辱めを受け悲痛な面持ちで俯くアンジェリカ公爵令嬢。


 そして、王太子フェイルの影に隠れるように立っている一人の少女と、王太子の側近を務める四人の青年達。


 男爵家令嬢のステラ・エイクス。


 宰相の子息、ニコル・フォルヴァーン。


 騎士団長の子息、クライヴ・ウォルソン。


 外務大臣の子息、フィリップ・ローウェル。


 辺境伯の子息、ダレン・マクレガー。



 王太子であるフェイルとその側近の四人は彼にとって良き友人だった。




 ステラ・エイクスが現れるまでは――……。




 今日は学園の卒業式という目出度い日だった。


 人生に一度しか無い晴れの舞台で彼らはやらかしたのだ。


 それも国王陛下や教会関係者、諸外国の重鎮が居並ぶ中で。


 その中には、彼の父であるアゼラード帝国皇帝・ロンベルク・ザム・アゼラード八世も含まれる。




 友人達の愚行に嘆く彼の名はローディス・ザム・アゼラード。


 アゼラード帝国の皇太子である。



 グランシス王国は大陸有数の巨大な学園を有しており、彼はこの学園に留学生として籍を置いていた。


 それはアゼラード帝国とグランシス王国は古くからの同盟国であり、王太子であるフェイルや公爵令嬢であるアンジェリカと幼少期から交流があったからという理由がある。


 彼が留学したのはローディスとフェイルの友情を深め、次世代も安定した同盟関係を維持する為にも必要な事だった。


 尤も、一番の理由はローディスがアンジェリカに密かに想いを寄せていたからなのだが。



 しかし、気付けばアンジェリカはフェイルと婚約していた。


 フェイルであれば彼女を幸せにしてくれるだろうと、ローディスは自らの恋心に蓋をした。


 だが、そんな彼の思いは打ち砕かれた。



 ステラ・エイクスの出現と共に――。



 一年程前の事だった。


 教会から聖女として認定されたステラが学園に編入して来たのである。


 そこからすべての歯車が狂い始めた。


 フェイルとその側近たちがステラに執着を見せるようになったのだ。


 そして彼らは自分の婚約者を蔑ろにし始めた。


 当然、アンジェリカを始めとした婚約者たちはこの事を快く思うはずが無かった。


 ステラを囲うフェイル達と令嬢達の間でドロドロの愛憎劇が繰り広げられる事となったのである。 


 そんな中でローディスはステラという少女を危険視していた。



 それを見たのは偶然だった。


 ある日、ステラがアンジェリカの側で突然転倒した。


 そしてアンジェリカに突き飛ばされたのだとフェイルに泣きついた。


 この事で言い争いとなったフェイルとアンジェリカの陰でステラが悪意のある笑みを浮かべていた。


 この日を境にローディスはステラの奇行に目を光らせるようになった。


 注意して見ていればステラがアンジェリカを貶める為にアレコレと画策し、フェイルに対する心象を疵付けようとしているのだとすぐに分かった。


 そしてフェイルの目の届かない所では側近達と逢瀬を重ねていた。


 この事態にローディスは座して静観している事は出来なかった。



『あの女は危険だ。距離を置いたほうが良い』


『王侯貴族の間で結ばれる婚姻関係は政略に拠る所が大きい。

 教会から聖女と認められたとはいえ、ぽっと出の男爵令嬢にうつつを抜かし婚約者を蔑ろにして良い道理など無い』


 と、ローディスは事あるごとに友人達に苦言を呈し道理を説いてきた。


 だが、それも無駄な徒労に終わってしまった様だ。



 卒業式という記念すべき日に、王太子であるフェイルは自身の最大の後ろ盾になっている公爵家の令嬢を冤罪で公衆の面前で断罪したのだから。


 醜聞なんてモノではない。


 アゼラード帝国とグランシス王国は何世代にも渡り強固な同盟を結んでいる程に友好な関係だが、この婚約破棄劇でグランシス王国の評価に大きな傷が出来る事は避けられない。


 それは周辺国家にも大きな影響を与えるだろう。


 アゼラードとグランシスという二大国が手を取り合う事で維持されてきた平和。


 そこに暗雲呼び込みかねない事態である。



 認める訳にはいかない――!!



 密かに想いを寄せた少女が無実の罪で貶められる事も――


 親友が悪意を持って近付いた女に利用されている事も――


 こんな茶番で長く続いた平和な時代に混乱を呼ぶ事も――



 ローディスには受け入れる事は出来なかった。



「――ふざけるなフェイル!!お前は本気でそんな事を言っているのか!?」



 気付けば叫んでいた。


 皇太子の身としてあるまじき行為。


 だがローディスには湧き上がる思いを堪える事が出来なかった。


 聡明だった筈の親友。


 その変わり果てた様相に怒りを抑えられず睨みつける。



「……ローディス、君は卑しいその女を庇うのかい?」



 アンジェリカを庇うように進み出たローディスに、フェイルの侮辱する様な視線が突き刺さった。



「卑しい?彼女は卑しくもなければ罪も犯していない」


「ふむ……。どうやら君の目は節穴だったようだね」


「その言葉、そのままそっくりお前に返してやろう」


「……もしかして君はその卑しい女を好いてでもいるのかい?」


「俺の想いは好いている等という軽いモノではない。誰よりも彼女を愛していると自負している。だから――、お前ならばと身を引いたんだが、どうやら俺はお前を買い被っていたらしい」


「ふぅん?愛している……ねぇ?本気で言っているのかな?」



 言葉の応酬が続く中、フェイルは侮蔑する様な視線を向けたまま、一歩、また一歩とゆっくり歩を進め、ローディスの目の前に立つ。



「この想いに嘘偽りは無い。フェイル、お前は本当に―――――」



 何故こうなってしまったのか――。


 言い様のない悲しみがローディスを襲ったのだが、












「――ふっ、計画通り」













 ニヤリとフェイルが悪い笑みを浮かべた。



「……は?」



 突然のカミングアウトに呆然とするローディスを前にフェイルが右手を高々と掲げた。


 それに呼応する様にステラと側近の四人が駆け寄り、板のような物を頭上に掲げる。


 そこには、


『ド』


『ッ』


『キ』


『リ』


『大』


 と言う文字。


 唖然となったローディスの肩を誰かが叩いた。


 そちらへ視線を向けると、顔を赤らめたアンジェリカが、


『成功』


 の文字が書かれた板を胸の前に掲げていた。


 何が起きたのか分からずローディスの口がパクパクと動くものの言葉が出てこない。



「いやー、ここまで来るのが大変だったよ。ローディスの本音を引き出すのがこんなに難しいとは思わなかった」



 と、破顔したフェイルがローディスの肩に腕を回す。



「え…?は…?」


「実はさ、今までボク達がステラに執着する様に見せてたのって全部演技なんだ。しかもボクとアンジェの婚約もなんちゃって婚約だったりするんだよね~。今日会場に集まってる全員が仕掛け人だったりしちゃって」


「――――――――――」



 衝撃の事実にローディスの思考は停止した。



「いやぁ、あんまりにも君がヘタレてるもんでさ、アンジェから相談されてねー。婚約したフリすれば何かしら行動を起こすと思ったんだけど、君は全く動かないし?

 まさかこっちも卒業式まで引っ張る事になるなんて思わなかったよ!今日も君がこのまま動かなかったらどうしようってヒヤヒヤしてたんだからね」



 フェイルが揶揄う様にポコポコとローディスの脇腹を拳で叩き、



「はぁ……。殿下から協力しろと言われた時はどうなる事かと心配していましたが、なんとか目的は達成出来ましたね」



 と、ズレてもいない眼鏡の位置を調整する様に頻りに眼鏡をクィクィッとしているニコル。


 そのニコルの言葉に他の側近三人がウンウンと頷いていた。



「小さい頃、ローディス様が『お前に相応しい男になって迎えに行く』と仰っていたので心待ちにしていたのですが、いつまで経っても迎えに来て頂けないのでちょっとイタズラしちゃいました♪」



 はにかみながらエヘヘと笑うアンジェリカ。



「良かったですねアンジェリカ様!私もようやく肩の荷が下りました。これで私もフェイル殿下との婚約を正式に発表出来ますわ」


「ステラ様……。今まで私の為に色々と手を尽くして下さいまして本当にありがとうございます!」


「いえいえ、私も女優として演技に幅を持たせる事が出来ましたし……。それに魔性の女を演じていたとは言え、フェイル殿下のお側にいられたので役得でしたし?」



 イタズラしちゃいましたと笑うアンジェリカの手を取ったステラが喜びを分かち合う様に微笑む。


 これまでフェイルやその側近を巡り反目しあっていたのが嘘のように仲良くキャッキャとはしゃいでいる。

 


「あ、ステラは神聖皇国の第二皇女で、聖女三姉妹の次女だよ。んで、ボクの正式な婚約者さ。因みに彼女は演劇が好きでね。劇団フォーシーズンに所属している女優でもあるんだ」



 言葉を補足する様にフェイルがステラの正体を暴露。


 そんな彼らの様子を遠目で見ながら、



「計画を持ち掛けられてからもう一年か。

 まさかオレの倅がここまで奥手とは思わなんだ。一体誰に似たのやら……」



 ロンベルクがやれやれと肩を竦めていた。



 今回の事のあらましはこうである。



 幼い頃の約束を今か今かと待ち侘びていたアンジェリカだったが、いつまで経ってももローディスが行動を起こさない。


 周りの友人達はとうの昔に婚約者が決まっており、自分は未だに婚約が決まっていない。


 大抵の貴族子女は卒業と同時に婚約者の元へ嫁ぐ事となる。


 このまま待っていては行き遅れるかもしれない――!!


 焦りを覚えた彼女は幼馴染のフェイルに相談。


 アンジェリカから悩みを打ち明けられたフェイルは側近らと共に一計を案じ、父であるグランシス王に計画を持ち掛けた。


 そしてグランシス王はこの事を皇帝ロンベルクに打ち明け協力を取り付けた。


 許可を得た事でフェイルは一段階目として偽りの婚約をアンジェリカと結ぶ事を提案。


 ローディスがどう反応するかで今後の対応を変えていこうと考えていた。


 それが二年前の事である。


 だが、フェイルやアンジェリカの思惑は予想を外れ、ローディスは全くと言って言い程に反応を示さなかった。


 傍から見ればローディスがアンジェリカに好意を抱いているのは丸分かりだったのだが、何故か動かない。


 彼がグランシスとアゼラードの友好関係を維持する為、自身の想いに蓋をしてしまったのだと思い至った。


 政治的な側面から見ればローディスの考えは間違っていないどころか満点である。


 王侯貴族と政略は切っても切り離せない事なので当然なのだが。


 偽りの婚約がローディスの想いに蓋をさせてしまう悪手であったと理解したフェイルは次の作戦を決行した。


 それが『聖女ステラ・エイクス』の学園編入だった。



 ――ステラ・エイクス――



 これは劇団フォーシーズンに所属する女優としての名である。


 本当の名は『ステラリーゼ・ファム・アーシュライト』。


 神聖皇国アーシュライトの第二皇女で、聖女三姉妹のひとり。


 そして、当時はグランシス王国王太子フェイルの婚約者候補筆頭でもあった。


 ステラはフェイルから送られて来た手紙を読み、自身が嫁ぐかも知れない男が抱える芳しい悩みに胸を高鳴らせた。



「ここで頑張れば殿下の受けも良くなるだろうし、女優として演技の幅を広げるチャンスだと考えればやるしかないわよねー」



 と、フェイルからのヘルプ要請を受諾。父である皇王を説得し、グランシスへ渡った。


 フェイルと合流後、ステラはニコルの計らいで宰相家に所縁のある男爵家の娘という設定で学園に籍を置く事となった。


 そしてフェイルやその側近達と共謀し、学園内で五人を手玉に取り、アンジェリカを貶める魔性の女をそれはもう物の見事に演じきったのである。


 しかし、ステラやフェイル、側近達のその努力は空回りする事になっていた。


 ローディスはフェイル達を咎め諌めたりはするものの、それ以上の動きを見せなかったのだ。


 そしてそのままズルズルと月日は流れ、とうとう卒業間近になってしまったのである。


 これに焦ったアンジェリカ、フェイル、ステラ、側近ズは最後の賭けに出た。


 それが今回の婚約破棄劇である。


 フェイルはフィリップに命じ、外務大臣に協力を要請。卒業の式典に参列する諸国の重鎮たちに事情を説明して貰うと同時に、学園全体にこれまでの経緯を説明。


 今まで学園内で起きていた愛憎劇がローディスとアンジェリカを婚約させる為の策であり、上手く行かなかった為に卒業式典で盛大にやらかすので協力して欲しいと全学生を巻き込んだのだった。



 そして、最後の最後で彼らは賭けに勝った。



「――さて、随分と遠回りしちゃったけど、ローディス。もう逃げられないよ?今日という今日はビシッとキメて欲しいね」



 ニヤニヤと笑うフェイルがローディスの背を押した。



「―――っ!!??」



 絶賛混乱中のローディスは、アンジェリカを前にして物言わぬ石像と化していた。


 そのローディスの手をアンジェリカが愛おしげに握った。



「ずっと……、ずっとお待ちしていました……」


「……すまない。俺が臆病だったばかりに辛い思いをさせてしまった」


「いえ……」


「初めて君と逢ってから俺の心はずっと君の元にあった。――愛している」


「私もずっとお慕いしておりました」


「この先の未来を俺と共に歩んで貰えるだろうか?」


「――喜んで」



 ローディスとアンジェリカの想いがひとつに重なった瞬間だった。



 周囲が喝采で湧く中、



「ふぅ……。やっと婚約に漕ぎ着けたと思えば、明日には嫁に出さんといかんのか。残りの準備を急がねばな――」



 ヤレヤレと溜息を吐くモートン公爵がいたとかいなかったとか。


 この騒動の一番の被害者は彼かも知れない――。



 完。

3/31 追記。


何件か感想頂きましてありがとうございます。


唐突に思いついて書き殴っただけの話がこんなに読んで頂けているとは思わず、ビビリまくっております。


頂いた感想はどれも未熟な自分に突き刺さりまくっておりますが、次回に活かせればいいなーと思っています。(むしろ次回と言わずとこの短編を書き直した良いんじゃないか?と迷ってますが…)


最後まで読んでくださった皆さま、本当に有難うございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >『成功』 アンジェリカがおちゃめすぎて笑った。 [一言] 下手に隠さず、キーワードに「コメディ」とかつけておくと良いかもしれませんね。
[一言] 周りがドッキリと称して自分を騙しにくるとかただの信用できない人しかいない環境 現実で自分がやられたら間違いなく自〇案件
2021/03/30 16:47 退会済み
管理
[気になる点] 根回し済みとはいえこんな大勢が見ている前で、「騙されてました」「ヘタレでした」とか大々的にやられて、皇太子として将来的には皇帝としてやっていけるの? 軽んじられない? こんなやり方し…
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