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パフュームデライトその2

遅い昼食を3人で食べた後、時間を確認すると、15時近くになっていた。

17時から、別のバイトの予定が入っていた。


「じゃあ、これで失礼します。」

「いつも助かってる。これに懲りずに、また助けてね。」


玉子さんは、牛乳の臭いに辟易している俺に気を遣って、少し多めのバイト代を出してくれた。

昼食も出してもらったので、一旦は辞退したのだが、あまりにも恐縮しきっているので、ありがたく頂戴することにした。

正直なところ、増額は、ありがたいのである。

やや、早歩きで部屋に戻り、服を洗濯機に放り込み、シャワーを浴びる。

さすがに、牛乳の臭いが染みついたまま、バイト先に出向くのは避けたかった。


自分から牛乳の臭いがしてこないか、一応、確かめては、みる。

臭覚って、麻痺しやすいんだったよな。たぶん、大丈夫だと思うんだが……。

はっきりとした自信が持てなかった俺は、メントール系のタブレットを口の中に放り込んだ。

まぁ、気は心みたいなものだが。


そんなことをやっていた時、メールの受信を知らせる音がした。

それは、これから行くバイト先の店長からのメールだった。


「すまないね。どうしても他に見つからなくて。予定無かったのかい?」


店長は、頼んでおきながら、今頃になって予定の有無を確認してきた。


「いえ、今日は、ここのバイトが終わったら、特に用事も無かったので。」


本当は、見たい番組があったのだが、録画にしてきていた。今日は、予定通りにいかない日らしい。

17時から20時までの予定が23時まで埋まった。今日は、1日バイトデーだ。


仕事内容は、いつもと変わらない接客とレジ打ち。店内の客の数が少ないタイミングを見て、商品棚の整理。

学生バイトとしたら、普通の仕事だ。


「あら宮野君、バイト?」

「あ、こんにちは。堀田さん。」


堀田ワカナは、玉子さんが家主である『ハイツエグランテリア』の住人だ。少し前に、ちょっとした騒動があって、顔見知りになった。

今日は、会社も休みのはずで、繁華街に近いこの店の近くに、買い物にでも来ていたのだろう。

ワカナは、雑誌とコーヒーの会計を済ませ、一旦、店を出ようとして、もう一度戻ってきた。


「あの、宮野君、バイト何時に終わるの?」

「え? 夜11時ですよ。」

「11時かぁ。ちょっと遅いね。ごめん、何でもないから。」


ワカナは、再び、向きを変え、店を出て行った。


「おいおい、宮野君。ひょっとして……。」

「違います。」


店長は、何か勘違いをしたようだが、ワカナはただの顔見知りだ。それ以上でも、それ以下でもない。

その後はバイトの終了時間まで、にやにやと訳知り顔をしつつ、情報を引き出そうとあれこれ聞いてくる店長を横に、いつも以上の疲労感が押し寄せてくるのを感じることになったのだった。


翌日、大学の講義も終わり、構内を歩いていたところを、俺は、あのハスキーな声で呼び止められた。


「宮野君、ちょっと。」

「え? 堀田さん、なぜこんなところに……。」

「悪いんだけど、頼まれて欲しいの。えっと、この近くだと、『喫茶あけぼの』が近かったわね。そこで説明するから。」


俺は、半ば強引に、ワカナに引っ張られ、大学近くの喫茶店へと移動した。

ワカナは、俺へ、喫茶店で好きなメニューを選ぶように言った。俺がブレンドコーヒーを選ぶと、店員に同じものを2つ注文した。


「これを、理学部の花見小路教授に届けて欲しいの。お願い!」


ワカナは、俺へ、A4サイズの茶封筒を突き出した。


「何ですかこれ?」

あけぼの:ハイブリッドティーローズ、1964年日本作出。花色はクリーム色にピンクの覆輪。

花見小路:ミニチュアローズ、2012年日本作出。花色は淡いピンク。

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