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パフュームデライトその1

幸せの匂い。

良く晴れた日に干したお布団の匂い。

朝の香ばしいトーストとコーヒーの匂い。

貴方からもらった、花束の甘い甘い匂い。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「お、お願いだから、飛んだりしないでね。」

玉子さんは、涙目になって、なるべく視界にそいつを入れないようにしつつ、スプレーボトルに入れた牛乳を噴霧していた。

辺りは、かなり、牛乳くさい。


そいつ、アブラムシが見つかったのは、昨晩のことだったらしい。

3階のサンルームから外に通じる通路に一番近い位置に置かれていた鉢のバラの枝に、うじゃうじゃと蠢いていたのを見て、玉子さんは叫び声をあげてしまったという。

一緒にいた光華もびっくりの声であったらしい。


「てっきり、Gだと思ったんだよね。」


別の虫の出現を疑ったが、玉子さんが枝の上の方を指差していたため、誤解はすぐに解けた。

しかし、その場で光華が確認すると、3鉢のバラに、アブラムシの集団が住み着いたことが判明してしまった。


「しかたないから、3鉢だけ、こっちに移動させて、段ボールをかぶせといたんだけどね。」


そのままにしておくと、アブラムシが、他の鉢のバラにも移動してくる恐れがあったため、3鉢をサンルームの外の通路の方へ動かしたのだ。


「タマちゃんてば、おっかなびっくりでさ、おっかしかったぁ~。」

「だって、うごっ、動いてるんだよっ! 飛んできたらどうしようかと……。」

「替わりましょうか?」

「宮野君、平気なの?」

「いや、俺だって、気持ち悪いですけど。……玉子さん、見ないようにしてスプレーしてるから、関係ないところに飛んでますよ。牛乳。」


多少、周りに飛び散ってもいいように、通路にはビニールシートを広げ、周囲には段ボールで囲いをした上で、3鉢にたかったアブラムシへ牛乳を噴霧しているのだが、微妙にずれた部分が白くなっている。

俺は、玉子さんから、牛乳の入ったスプレーボトルを受け取った。


「じゃあ、お願い。残りの鉢の確認してくる。」


サンルームのプランターやテラコッタ鉢があまりに多いため、昨晩だけでは、すべてを確認できていなかったため、目視確認要員として、日曜の朝に、俺が急遽呼ばれたというわけだ。

アブラムシは風に乗ってやってくるらしい。サンルームの中に侵入することは、稀ではあるらしいが、換気のための小窓などからの侵入を完全に防ぐことも、また難しい。

殺虫剤を使うのがセオリーではあるが、サンルームの中では、あまり使いたくないという。

それで、牛乳を噴霧しているのだが、こんなんで、退治できるのか、よく分からない。


「一応、アブラムシが付いてるところ全部に噴霧しましたけど。」


俺は、ガラスドアの隙間から声をかけた。


「ありがとう。牛乳が乾くまでそのままにしておいて。あと、こっちの確認の方を手伝って。」


サンルームの方へ移動し、目視確認に加わる。


「すっごい、臭うよ。牛乳くさい。」

「まじか。うわっ、最悪。」


光華は顔をしかめてみせたが、いまさらだ。この後、さらにアブラムシが見つかったら、それにも牛乳噴霧が必要になる。


「ごめんなさいね。」

「はぁ、まあ、こん中で、農薬撒いたら、健康にも悪そうだし、しかたないんじゃないですか? でも、通路とか臭い残りそうですよ。」

「牛乳が乾いたら鉢を外に出して、洗い流すけど、それでも臭い残っちゃうかな?」

「タマちゃん、私、後で芳香剤買ってくるよ。」

「先輩、芳香剤の臭いと混じってさらに変な臭いになるかもしれませんよ。脱臭剤の方がましだと思います。えっと活性炭?」


結局、3人で、残りすべてのバラの確認を終えた時には、昼を過ぎていた。

幸いなことに、それ以上、アブラムシの集団は、見つからなかった。

パフュームデライト:ハイブリッドティーローズ、1973年米国作出。花色は明るいローズピンク。

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