ノヴァーリスその2
ここには無いバラ。
そして、それ以上には、ヒントは与えてもらえなかった。
サンルームでのお茶会は、玉子さんが準備した軽食とお菓子を食べながらのバラを眺める会であったが、俺にとっては、途中から謎解きの会だった。
はぁ、やっぱり厄介な人だ。
それにしても、登録されているだけでも4万種以上の品種があるとか言われてるんだよなぁ。
玉子さんのサンルームには無い、とあそこまでキッパリ言ったからには、美咲は、玉子さんとアキトさんのバラに関しては把握しているのだろう。
参ったな。
実は、玉子さんから、美咲の誕生日が6月1日であることを聞いたのだった。
もうすぐなのだ。
何か贈りたいのだが、何が良いのか?
花を贈られて嫌な女性はいない、と聞いたことがある。
と、すれば、バラの花束などは悪くないかもしれない。そう思ったのだが、美咲にはどのバラを贈るのが正解なのだろうか?
たぶん、黄色のバラは駄目なんだろうな。
彼女自身が、黄色いバラのことを、『大事な人に贈ったりしちゃ駄目』だと言っていた。
黄色いバラに、あまり良くない花言葉があるらしいことと、何より、アキトさんを想い出させるバラだ。
玉子さんにだったら、アキトさんの想い出のバラでも問題はなさそうだが、美咲には、いろいろな意味で贈りたくない。
赤はなんだか、重いよな。
オレンジ色も違う気がする。
あまり時間がないこともあって、俺は、頭を抱えてしまった。
ふと思い付いた俺は、席を外させてもらい、スマホで検索をしてみた。
すると、薄ピンクのバラの画像が出てきた。
ちょっと値段が張るが、悪くない感じだ。
その場で購入を決め、注文の手続きをした。
そして、素知らぬふりで席に戻った。
「すみません。思い出したことがあって、メールしたんです。」
「へぇ。相手、女の子だったりして。」
すかさず、光華が茶々を入れてきた。この人は、何というか、もう少し落ち着いた方がいいと思う。
「違いますよ。通販サイトからの購入品の確認関係です。」
「ふ~ん。」
光華の声は、あっという間に、つまらなそうな響きに変わる。分かりやすいなぁ。
何やら視線を感じて顔を向けると、玉子さんと目が合った。何か言いたそう……。というか、面白がってる感じだ。いいのだろうか、それで。
「ほら、いろいろと他人には知られたくない買い物ってあるじゃない? あまりシツコク訊いたら可哀想だよ。」
美咲のその発言が、一番、刺さった気がする。
いったい、何を購入したと思われたんだろう? あまり深く考えない方がいいのだろうな。
「それにしても、2週間ほどで花の時期が終わってしまうって、短いですよね。」
「たぶん、少しずつずらして剪定作業をすれば、秋の開花の方はトータルで長い期間花を楽しむことができるのだと思うけど、試行錯誤になりそう。実は、まだ名前も把握しきれてないのよ。」
話題を変えようとした俺の言葉に、玉子さんが答えた。
「でも、美咲さんが把握してるんでしょ?」
「え? そうなの? 美咲、ここのバラの名前、全部分かるの?」
「まさか。全部なんて分かるわけないじゃない。特徴的なのは流石に分かるけど、時々、手伝ってただけだよ。」
美咲の言葉に、今度は俺が驚いた。じゃあなぜ、ここには無いって断言できたのか?
ますます、謎が深まったのだった。




