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ブラックバカラその3

誕生日を迎えた。20歳になったのだ。

だからと言って、昨日とまったく違う人間になったわけではないが。

少なくとも、成人という範疇の仲間入りをしたのだ。


5月の連休は、実家に帰って過ごした。

高校時代の友人たちと連絡を取って、飲み会とカラオケ。

実際のところ、20歳になる前からフライングは、しているのだが、堂々とアルコールを飲めるのは悪くない。

タバコの方は、たぶん、一生経験することはないと思うが。臭いが駄目だ。


気が付けば、連休もあっという間に終わった。


そして、一人暮らしの部屋に戻ってきた。


「じゃ、遅れちゃったけど、20歳の誕生日、おめでとう。」


美咲が、今度は辛くないものを作ると言って、食材の入った買い物袋を持って、部屋に来た。

俺も、美咲の横で、言われた通りに、野菜を洗ったり、切ったりをした。


そして、レモンの汁をだいぶ使うようだが、大丈夫だろうか?

激辛でないかもしれないが、かなり酸っぱい料理ができそうだ。

美咲は、手慣れた様子で、小麦粉に水と油を混ぜ、手で捏ねていた。


「何ができるんですか?」

「それは、できてからのお楽しみ。」


美咲は、楽しそうだった。


「美咲さん、飲めるんですか?」

「ちょっとだけ。でも、今日はお祝いだからね。」

「まさか、20歳になって、お誕生会をやってもらうことになるとは、思いませんでした。」

「あ、ケーキ買ってくるの忘れてた。」


正直、夕食時にケーキはどうかと思うので、忘れていてくれて良かった。でも、美咲は、何か甘いものが欲しいのだろうか?


「俺、コンビニに行ってアイスクリームでも買ってきましょうか? 何味がいいですか?」

「え? ちょっと、悪いよ。今日は。」

「でも、デザート欲しいでしょ。夕飯作ってもらってるんだから、アイスぐらい、いいじゃないですか。リクエスト無ければ適当に買ってきますよ。」

「あ、待って。だったら、チョコがいい。」


俺は、キーを持って部屋を出た。

コンビニは歩くと少し時間がかかるので、車を出す。

コンビニでは、ちょっと値段が高いベルギーチョコ味と季節限定のカシス味のアイスを買った。


たぶん、どっちも食べたいと言うだろうな。


美咲がどんな顔をするか、ちょっと想像しながら、部屋へ戻った。


玄関のドアを開けると、美味しそうないい匂いがした。


「わぁ、何かすごいのができてる。」

「へへ。今日は、うまくいったみたい。冷めないうちに早く食べよう。」


美咲の作ったのは、たぶん生パスタの類だ。詳しくないので名前は分からないが、赤くないので、たぶん辛くないはずだ。

この前の強烈な辛すぎるチリソース味のチキンは、ちょっと引いたので、助かった気がする。

しかし、さっきのレモンが頭をよぎる。


冷凍庫に一旦、買ってきたアイスは仕舞う。


「「乾杯!」」


ワイングラスなんていうお洒落なモノは持っていなかったので、折角の白ワインなのだが、普通のガラスのコップだ。

美咲は、「私も、こっちの方が気楽。割っちゃう心配しなくていい。」と言ってくれた。


パスタは、さっぱりとした白いタイプ。レモンをたくさん使ったわりに酸っぱさはきつくない。

むしろ、にんにくの方が勝ってる感じだ。


「美味しいです、これ。」

「でしょ。宮野君、どんな酷い味のもの、食べさせられるのか、どきどきしてたんじゃない?」


美咲は、可笑しそうに笑った。どうも、バレていたらしい。


「そんなことはないですよ。」慌てて繕ってみるが、美咲はずっと笑っている。



食後のアイスを冷凍庫から出すと、美咲は、想像していた通りの反応を示した。


「え、何これ。季節限定品? いいなぁ。カシスも美味しそうだねぇ。」

「半分ずつにしますか?」

「いいの? 本当に? チョコって甘いから苦手だったりするんじゃない?」

「それ、美咲さん、チョコの分は全部食べて、カシスの方も半分食べるってことですか?」


美咲は、慌てて否定した。なんだか、可笑しい。そして、かわいい。

ずっと、笑っていればいいのに……。そう、思った。

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