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ブラックバカラその2

言葉に詰まってしまった俺は、大学へ来ている時間以外には、何をしているか話すように言われ、最近では、バイトでバラの花の世話をしている、と話したら、赤城教授は、


「花も文化史として面白いね。西洋では、キリスト教と関連して植物も扱われてきた。それぞれの植物、花に宗教的なイメージを重ね合わせたり、宗教画に描いたりしたんだ。大航海時代以降になると、他の地域へ、有用な植物や珍しい花を探しに探検するようになった。茶や香辛料については知っているだろう? 花も集められたんだ。」

と教えてくれた。


何か、花をテーマにする、というのには、少しばかり抵抗感があったが、さりとて思い浮かぶものが無かった。

まだ2年生で、始まったばかりであるから、途中でテーマを変えてもよいから、と言われ、とりあえず、バラについてレポートを書くことにしたのだった。


ちなみに、奥部は、キリスト教以前の文化の影響が残る西洋各地の祭りについて調べると言い、佐原は西洋の鉄道文化について調べると言っていた。

佐原は、赤城教授の鉄道に関する著作を読んだことがきっかけで、この大学を選んだ、とまで発言していた。

なんとなく、で進路を決めてしまった俺とは、思い入れが違うようなのだった。


バラの原種とされるものは、北半球の温帯域に広く自生しており、その数は150から200と言われている。

チベット周辺、中国雲南省からミャンマーにかけてが主産地で、ここから中近東、ヨーロッパへ、また極東から北アメリカへと伝播した。

また、日本はバラの自生地として世界的に知られており、品種改良に使用された原種のうち3種類(ノイバラ、テリハノイバラ、ハマナシ)は日本原産である。

南半球にはバラは自生しない。


バラと言われると、何か、ヨーロッパのイメージが強かったが、アジア、日本にもその起源があったという事実に、ちょっと驚く。

そして、原種とされる植物の数が非常に多い。

それは、それだけの数を北半球中から収集し、バラという花の品種改良に用いたということだ。ごく一部を除き、食用にはならない作物に、それだけのものを費やしたということだ。

ちょっと、狂気すら感じる。

バラという花に宿る底知れない何かが、人間を動かしてきたのだ。


レポート用に、大学図書館、市立図書館、県立図書館から、バラに関連した本を大量に借りてきていた。

その多くに、バラの挿絵が入れられていたが、これまた、細密で鮮やかな色で描かれたそれらには、何というか尋常でないものが感じられた。


ふと思う。

玉子さんは、あのサンルームに残されたバラを、“アキトさんが置いてっちゃった子達”と言った。

“面倒なこと、いっぱいだった”と言いながら、結局、手放すことができず、“ちゃんと面倒みて、次にアキトさんに逢ったら、いっぱい文句を言ってやることにした”と。


それは、一種の呪いのようなもの、なんじゃないだろうか?


美咲が言っていた。

アキトさんの最後の頼みが『玉子を頼む。』だったと。

美咲は、その言葉が、呪いの言葉だと言った。


アキトさんは、いったい、人生の最期に何を願ったのだろうか?

そして、それは、玉子さんと美咲にとって、良いことなのだろうか?


俺は、既に亡くなっているアキトさんを知らない。

でも、少なくとも2人の女性が、亡くなって2年経った今も、その面影に囚われているのは分かる。

時間の問題ではないのかもしれないが。


そして、そもそも、あの大量のバラ。

アキトさんも、バラに惑わされた1人なんだろうか?

残されたバラは、次に誰を惑わすのだろう?


なぜ、こんな突拍子もないことを考えてしまったのか?

スマホの画面を見ると、既に深夜2時をまわっていた。

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