ブラックバカラその1
私が死んでも、愛しい人よ
悲しい歌を歌わないで
私の墓には薔薇の花も
影濃い糸杉も植えないで
『歌』クリスティーナ=ロセッティ 作 より
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そもそも、花については、詳しい知識を持っていなかった。
別に嫌いではないが、花が好きで好きでたまらない、というわけでもない。
まぁ、概ね男というものは、そんな感じの方が多いのではないだろうか。少なくとも日本においては。
そんな、たいして知識の無い俺であっても、バラの花くらいは分かる。
いや、バラについて深い知識を持っているわけではなく、その、例えば、花屋で見かければ、あぁ、バラがあるな、くらいにだ。
いろいろあって、バラの世話を手伝うことになってから、それ以上の知識も得るようになった。
日本では、バラの花は初夏と秋に咲く、ということ。
花屋に行けば、バラは年中売っているように思うが、季節外れのバラは輸入ものなのだそうだ。
日本国内に流通しているバラの8割は国産。
真夏と冬は、供給を補う目的でインド、中国、エクアドル、コロンビア、ケニアといった国からバラは輸入されている。
距離的に近い中国はともかく、インドや南米、アフリカから花が輸入されているというのは、正直、驚いた。
そして、インドや南米、アフリカというと、紅茶にコーヒー、チョコレートのイメージだったので、なんというか、生ものの代表みたいな花が? という驚きがあった。
なぜ、こんなことをぐだぐだと連ねているかといえば、これが、新しく入ったゼミで、課題となったテーマに直結するからだ。
俺が選択したのは、赤城英輔教授の西洋文化史ゼミ。文字通り西洋史における文化、美術や音楽、あるいは大衆文化といったものを研究するゼミだ。
先日、ゼミの新人歓迎会が開かれた。
赤城教授の他、先輩方と新人である2年生の俺と奥部智也、佐原翔太が参加した。
奥部は1年の時に学園祭のスタッフとして史学科のみならず他学科の連中のまとめ役を果たしていた男で、同学年内では、リーダーというあだ名の方が知られている。
佐原の方は、対照的に物静かで、いつも講義室の隅にいるタイプだった。しかし、真面目で出席率も高く、ノートも綺麗であることから、定期試験前にはそのコピーが多くの学生を救ったことで知られている。
俺たち3人、なぜか男ばかりが新加入となったのだ。
「おぅ、宮野。俺は今年も学園祭の仕事があるから、間近になったら時間が足りんようになるかもしれん。そん時は助けてな。」
奥部は、初っ端に、リーダーらしからぬ発言をしてきた。
一方で、
「過去問集めは、まかしといて。あとレポートの傾向と対策に関しても。上の学年の知り合いから、いろいろ貰えるんだ。このゼミ、佐原が一緒だからなぁ、もうそれだけで得してるぜ。」
などと要領の良さを披露した。
佐原は佐原で、
「リーダーと宮野が一緒だと、なんか心強いな。講義のノートくらいなら提供できるけど、自分、何か、人見知りの方なんで。ゼミってよく分からないけど、交渉事みたいなのもあるのかなぁ。そういうのは、全てまかせる。」
と言ってきた。
まぁ3人寄れば、それぞれの短所もカバーされるかもしれない。
そして、始まった歓迎会では、お互いの自己紹介、乾杯(ただし、未成年者は俺も含めて烏龍茶で)、会食となった。
赤城教授は、50代半ばであるが、見た目は40代と言ってもいいくらいに若い。
西洋文化史ということで、交通手段についての研究を専門にしており、馬車やら鉄道やら船やらに詳しい。
どうも、鉄道オタクっぽいという噂もある。
学生の研究テーマに関しては、自主性を重んずる方針らしく、何に興味があるか、歴史を抜きにしてもいいので、レポートにしろと言ってきた。
で、話が戻るのだが、俺は何に興味があるか? と言われても、なんとなく、歴史自体が面白いという感じで、ここまで来てしまったので、困ったことになったのだった。
ブラックバカラ:ハイブリッドティーローズ、2002年仏国作出。花色は濃い赤黒色。
オーブ:シュラブローズ、2014年日本作出。花色はアプリコットを含むピンク。
サハラ'98:クライミングローズ、1996年独国作出。花色は黄色からオレンジ色。




