ゼフィリーヌドルーアンその7
4月の最終週、美咲の路上運転の練習に付き合うべく、あまり、混み合わない国道へと車を走らせた。
道幅の広い国道の左右には、大型店舗が並んで建っており、時間帯によっては渋滞も起きるのだが、午前の遅い時間から午後の早い時間は、意外と空いているのだ。
モール形式の大型スーパーの駐車場へと、一旦入り、店舗で買い物をしてから、路上へ出ることに決めていた。
「あ、お昼、サンドイッチを作ってきたんだけど……。」
そういえば、美咲はやや大きめのバスケットを持ってきていた。
「え? じゃあ、飲み物だけ買いますか?」
「辛いもの大丈夫?」
「あまり得意ではないですが、中辛程度なら……。」
サンドイッチと辛いものの関係がよく分からなかった俺は、大して気にも留めず、店の備え付けの籠にペットボトルを入れた。
美咲も自分が飲む分を選んで、籠に入れた。
会計の際、駐車券にスタンプを押してもらい、それを持って急いで駐車場に戻る。
時間は有効に使わなければならない。
駐車場で、ボンネットの端っこに、美咲が持ってきた若葉マークを貼り付けた。キーを美咲に渡し、俺は助手席に、美咲は運転席にと乗り込んだ。
美咲は、今回も、エンジンをかける前に深呼吸をした。
俺は、なんだか、その様子がおかしかったが、必死に笑いをこらえた。
幸い、美咲は、運転自体に集中しており、まったく気付いていない。
駐車場から国道へ出る際も、比較的スムーズに流れに乗せることができていた。
国道は渋滞さえ起きなければ運転しやすい道であり、久しぶりに路上に出る美咲には、ちょうど良いと思われた。
道なりに車を走らせ、信号の変化に合わせて停車したり、発進したりを何度か繰り返した後、当初から予定していた交差点で左折することとなった。
タイミング良くウインカーを倒し、車内にカチカチという音が鳴る中、横断歩道手前まで車を進めて、歩行者がすべて渡るのを待つ。
歩行者用信号が赤に変わったところで、美咲は、上手く左折した。
「うまく曲がれましたね。」
俺の言葉に、美咲は、正面を見たまま軽く頷いた。
「少し、勘が戻ってきた気がする。」
美咲は、緊張感を漂わせつつも、運転を楽しむ余裕が少し出てきた様子だった。
あらかじめ、車を走らせる経路を決めてきてはいたが、うまい具合に昼直前に、市の北側に位置する総合運動公園まで辿り着いた時には、正直、感心した。
総合運動公園には、陸上競技場や市民プール、テニスコートなどと共に、ちょっとしたピクニックが楽しめる芝生で覆われた緑地があった。
残念ながら、緑地の端に植えられた桜の木は既に花が終わってしまっていたが、新緑の鮮やかさは、花とは別の見どころと言えた。
木製のベンチが開いていたので、美咲と俺はそこに並んで腰かけた。
美咲の手には買ってきたペットボトルの入った袋、俺の方は、美咲が準備してきたバスケットを持っていた。
「はい。」
バスケットをベンチの中央に置くと、美咲はその蓋を開け、中からビニールに包まれたお手拭きを取り出して、俺の方に1つ渡す。
自分も手を拭き、そしてバスケットの中からタッパーや箱を出して広げた。
「いただきます。」
俺は、チキンらしきものが挟まったサンドイッチを手に取り、口に運んだ。
と、想像もしていなかった衝撃が口の中を走ったのだった。
声も出せず、むせる。
辛い。というより、粘膜に来た感じと、気道にまで達した刺激感で、咳が止まらなくなってしまった。
「だ、大丈夫?」
慌てて美咲が、ペットボトルを手渡してきた。
「めちゃくちゃ辛いんですけど、これ。」
やっとのことで、言葉が出たが、口の中はしびれたままだ。ペットボトルの紅茶を一気に飲み干してしまった。
「う~ん。これぐらいだったら普通だと思ったんだけど……。」
驚いたことに、美咲は、同じサンドイッチを平気そうに食べていた。
「こっちのは辛くないから。」
と言われ、卵サンドと野菜サンドを食べたが、味がよく分からなかった。後で食べたサンドイッチが辛くなかったのだけは分かったが。
「美咲さんの味覚は、ちょっと変だと思います。」
俺は、またしても余計なことを言ってしまったのだった。




