ゼフィリーヌドルーアンその4
ハンバーグセットを片付けながら、俺と美咲は、いろいろと話をした。
「へぇ、文学部って、小説書いたりするんだと思ってた。」
「史学科だとそういうのはしないです。まぁ趣味で書いてるやつはいると思いますが……。」
「まぁ、よその学部が何をやってるか、なんて分からないもんだよね。医学部だって、よそからは何やってるんだか分からないだろうし。」
「医学部は、分かりやすい方じゃないですか? お医者さんになるための勉強をしてるっていう、ふんわりレベルですが。文学部は、本当に、何やってるんだか分からないって思われてますよ。それこそ『将来、小説家になるのか?』って聞かれたこと、一度や二度じゃないです。」
「ふふ。宮野高雄先生かぁ。サイン貰っておこうかな?」
「あの、人の話、聞いてます?」
運転の練習中とは、打って変わって、冗談を飛ばしたりしている。結構、分かりやすい人なのかもしれない。
「美咲さん、あの、聞いてもいいですか?」
「ん? 何?」
「あの、玉子さんのこと、頼まれたって、言ってましたよね。」
「はぁ。宮野君。それ、忘れてくれないかなぁ。」
「……、難しいです。」
そう、ずっと気になっていたのだ。以前に、美咲は、伯父であり、玉子さんの夫でもあったアキトさんから、亡くなった後のことを頼まれた、という話をしていたのだ。
「ごめん。ちょっと、少し不安定になってたかもしれない。伯父が亡くなったのは5月だったから。」
「俺じゃ、大して力にはなれないと思います。でも、話を聞くくらいなら……。その、アキトさんのこと、好きだったんですか?」
言葉が口から出てしまった。しまった、と思ったが、遅かった。
「やっぱり、宮野君、イジワルい。」
美咲の呟くような声が、刺さった。
会話が続かなくなり、お互いの皿が空になった時点で、どちらともなく席を立った。
会計では並んだが、それぞれ自分の分を支払った。
なぜ、口にしてしまったのだろう。俺たちは無言で駐車場に戻った。
キーを作動させると、ドアロックが外れる音が響いた。
美咲は、助手席のドアを開け、俺も運転席に乗り込んだ。
美咲は、無言のまま、シートベルトを締め、そして俯いたままだった。
しかし、エンジンをかけた時、何かを決意したように、美咲は言葉を絞り出したのだった。
「……好きだったよ。伯父のことが。アキ兄ちゃんのことが、大好きだった。」
俺は、もう、何も言えなかった。
「玉子さんには言わないで。お願い。」
そのまま、黙ってしまった美咲を横に、俺も黙ったまま運転を続けた。
まだ、夕方にもなっていない。
時間はあるのに、もうそれ以上続けられなくなったみたいな雰囲気しか、車内には無かった。
「あの、今日は、ありがとう。」
もうすぐそこの角を曲がれば『ハイツエグランテリア』が見える場所まで辿り着いた時、美咲は、声を発した。
「いえ。余計なことを言って、すみませんでした。」
俺も、やっとのことで、言葉が出た。
「ねぇ、まだ時間は早いよね。もし、まだ大丈夫なら、行きたいところがあるんだけど……。」
俺は驚いた。そして、慌てて、車を端に寄せて停車した。いったい、何を言われたのか、瞬時に理解ができなかったのだ。
「大丈夫?」
「え? 何がですか?」
「……時間。この後、何か予定入ってる?」
美咲は真っすぐ俺の方を見て言った。何か、胸の辺りが疼いた。




