ゼフィリーヌドルーアンその3
美咲は、エンジンをかけ、あっけないほどスムーズに車を動かした。
がら空きの駐車場をぐるりと周らせる。左折、右折も問題無し。
「全然、問題ないじゃないですか。」
「え、ちょっと急に話しかけないで! ど、どうしたらいいの?」
話しかけるな、と言っておいて、アドバイスを要求する。実は、結構テンパっていたらしい。
「じゃあ、端に停めましょう。車庫入れですよ。しゃ、こ、い、れ。」
わざと茶化して言ってみる。
「やっぱり、宮野君、イジワルい。」
「あはは。」
美咲は、普通に走らせたり、ブレーキをかけたりする分には問題なかったが、車庫入れは苦手のようだった。
何度も切り返しを繰り返しては、枠の中に収めようとするのだが、なぜか車体は斜めになる。
「何か変ですよ。」
「う。……おっかしいなぁ。何で斜めになっちゃうんだろう?」
どうも、恐る恐るハンドルを切っているために、車体が真っすぐにならないまま、バックしているようなのだ。
「たぶん、最初の段階で、駐車スペースから離れ過ぎてるんだと思いますよ。」
「どういうこと?」
俺は、預かっていた教習用の教科書の教科書を広げて、説明した。
「駐車スペースから離れてスタートすると、バックの距離がそれだけ長くなっちゃうんです。修正が難しくなります。」
「うん。」
「なるべく寄せて、運転席を駐車スペースの真横に合わせて一旦止めるんです。」
「うん。」
「で、斜め45℃になるように角度を付けて前進し、止めて、そこで思いっきりハンドルを切ってからバックするんです。ドアミラーと目視で、左右を確認して、真っすぐになったと確信できたら、ハンドルを戻して、そのままバックです。」
「なるほど。」
「恐る恐るハンドルをゆっくり切りながらバックするから斜めになったままなんですよ。」
美咲は、俺と交代するよう要求した。見本を見せろということらしい。
「うわぁ、何か、緊張してきた。」
「何よ。これで、斜めに止めたら、笑ってやるんだから。」
「美咲さん、あなたもイジワルいですよ。」
「うるさい。」
美咲の表情がくるくると変わるのが、おかしかった。幸いに、俺は、まぁ及第点が貰える程度に、車庫入れを完了できた。
「そうか、思いっきりハンドルを切るのね。うん、分かったと思う。」
再度、交代し、俺は助手席に、美咲は運転席に乗り込んだ。
美咲は、またもや、オーバーな深呼吸をしてから、エンジンをかけた。そして今度は、真っすぐに駐車することができたのだった。
時間いっぱい、運転と駐車を繰り返し練習し、気付けば、とっくに昼も過ぎていた。
コンビニで買ってきてあった飲み物と共に、スナック菓子を齧ったが、空腹は満たされない。
食堂のトイレを借り、そして、まだ準備を続けている江場たちに挨拶を済ませて、俺たちは、帰ることにした。
まだ、山道を走らせるのは不安そうだったので、帰りの運転も俺だった。途中で、ファミレスに寄る。
「お腹空いたぁ。」
「あれ? 平気そうな顔してたのに。腹減ったの俺だけなのかと思ってた。」
「緊張してたんだもん。今頃になって、お腹が減ってるって……。」
「もうちょっと、がっつり食べれそうなところに店変えますか?」
「いい。それより早く食べたい。ここ、今、ハンバーグフェアやってるみたい。私、それ。」
「はいはい。んじゃ、俺は……。」
メニューを見ながら、考える。そして、結局、オーダーを取りに来た店員に、ハンバーグセットを2人前頼んだのだった。




