表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/41

夢その2

1階の倉庫兼作業スペースから台車を出してもらって荷物を降ろし、エレベーターで3階に上がった。


「タマちゃんちは、玄関は2階だけど、3階からも荷物が入れられるようにドアがあるの。」


伯母を“タマちゃん”呼びするのを、なおすつもりがまったくない様子の光華は、レジ袋を持って、俺を先導した。


「ありがとう。ここから入ってくださいね。」


玉子さんが、先回りして3階のドアを中から開けてくれた。

ドアの中側もコンクリの通路になっており、俺は、台車を押したまま入ることができた。

そして、さらに奥へ進むと、サンルームに繋がるガラスドアがあった。

ガラスドアの向こうには、かなり広めのサンルーム。まだ、花の咲いていない緑の植わったプランターやテラコッタ鉢がズラッと並んでおり、アーチ状の支柱は葉と蔓とで覆われていた。壁際に並んだ鉢から伸びた蔓は壁に貼り付いている。手前側のスペースには、空のプランターやテラコッタ鉢、そして、おそらく植え替えが必要な鉢が置かれてあった。


「すごいですね。」


正直、最初は、光華の言う“バラ園”というのが想像できていなかった。目の前にしてみて、確かにそれは、花の時期になれば、バラの花で埋まるのだろうと思わせる空間だった。


「とっても手のかかる子達なの。」


玉子さんは、サンルームの端の棚の方へ台車を誘導しながら言った。

棚に、園芸用の土の袋を積みなおすのを手伝い、支柱の束も収納した。光華が持って上がったレジ袋の中身も整理して入れる。


「これ、全部バラなんですか?」

「そうよ。アキトさんが、あぁ、アキトさんて亡くなった私の夫ね。そのアキトさんが置いてっちゃった子達。」

「ひょっとして、玉子さんは、バラ、あまり好きじゃないんですか?」

「そうね。だって、本当に手がかかるんだもの。もともと、アキトさんが1人で育ててたし、よく知らなかったの。入院中、水やりは私がしてたけど。」


玉子さんは、アキトさんが亡くなってから、この“バラ園”をどうするか? となった時点で、バラのことを調べたらしい。


「病気になりやすいとか、変な虫が付くとか、肥料がたくさん要るとか、剪定とかもしないと駄目とか、1年に1回、植え替えが必要とか……。面倒なこと、いっぱいだったの。」

「タマちゃん、これ全部、バラに詳しい人にあげちゃおうかって言ってたもんね。」

「そう。でもね、やっぱり無理だった。アキトさんの子達なんだもの。だからね、ちゃんと面倒みて、次にアキトさんに逢ったら、いっぱい文句を言ってやることにしたの。」

「え? 文句ですか?」

「そうよ。私、虫とか嫌いなのに、アブラムシとか……。土も肥料も重たいし。剪定したら、枝や葉っぱのゴミがたくさん出るし。それなのに、全部置いてっちゃって。1人残してって。絶対、文句を言ってやるの。」


鉢植えのバラというのは、基本的に1年に1回、植え替えが必要なのだそうだ。本当は、12月から2月までの間に済ますのがよいのだが、たくさんあり過ぎて、間に合わなかったという。


「この子達で、今年の植え替えは最後なの。」


玉子さんと光華と俺とで、途中、軽い昼食を取りつつ、バラの植え替えを何とかやり終えた時には、もう、外は真っ暗だった。


「本当に、ごめんなさいね。こんなに遅くなっちゃって。でも、助かったわ。やっぱり男の人がいてくれると違うわね。」


玉子さんは、申し訳なさそうに言ったが、こっちとしては、昼食と夕食代を含めてではあるが、ちょっとした臨時収入が得られて悪くはなかった。


「これ、花が咲くのって、いつ頃なんですか?」

「5月から6月。もし良かったら、見に来て。で、もし、その、こういうのが嫌じゃなかったら、……今後も、手伝いをお願いしたいのだけれど。」

「私からもお願い! やっぱり、力仕事になるから。あと、車持ってるのは大きいのよ。タマちゃんと私だけだと、全然間に合わないの。」


光華が、手を合わせてみせた。

俺は、大学や他の用事と重ならなければ、と返事し、帰宅の途についた。

アキト:フロリバンダ、1974年ドイツ作出。白色の中輪花。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ