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エンジェルフェイスその3

水やりも含めた作業が一段落し、摘み取った芽や伸びすぎた枝をまとめてゴミ袋に入れ終わると、もうすぐ昼だった。


「美咲ちゃん、タマちゃんのご飯食べるの久しぶりじゃない?」

「そうだね。夜とか、あまり早く帰れてないし。」

「美咲さん、バラのお手伝い、以前からしてるんですか? なんだかすごく慣れてるようですけど。」


玉子さんや光華の、美咲に対する接し方は、どうも、単なる下宿人という感じの扱いに見えない。


「あぁ、そうか。ちゃんと説明してなかったね。私、星野アキト、つまり玉子さんの連れ合いだった人の、妹の娘なのよ。玉子さんは、私にとって義理の伯母。」

「じゃあ、アキトさんからバラのこと教わったりしてたんですか?」

「教わったって感じじゃないんだけど、遊びに来た時、手伝ったりはしてた。ここに部屋借りたのが4年前だったけど、伯父の家だってことで、よく食事も一緒にしてたし、来たら、芽かきくらいはしてたよ。」

「美咲ちゃんとは、義理同士だから、私も、ここに部屋を借りるまで知らなかったんだ。でも、年も近いし、同じ大学の先輩になるからね……。アキトさんが病気になってからは、美咲ちゃんが頼り、みたいなところもあったし。」

「頼られても、学生じゃ大したことできなかった。ムンテラに同席させてもらったくらいだし。」

「でも、説明内容とか、タマちゃんや私、まったく頭に入ってこなかった。美咲ちゃんが、ちゃんと分かっててくれたから……。アキトさん、苦しまなかったんだよね?」

「うん。……最期はね。」


玉子さんの、昼食の準備ができたという声がして、3人は、順番に手を洗い、食堂の方へ向かった。




昼食は、親子丼と味噌汁、サラダと煮物の小鉢が並んでいた。


「ご飯多めのが宮野君のね。ご飯のおかわりはあるけど、おかず、何かあった方がいいわね。」


玉子さんは、何かと気を遣ってくれるが、そこまで、空腹ではない。よって遠慮しておく。


「午後から、凛ちゃんが来るから、何かおやつになりそうなものを作ろうかと思ってるんだけど、宮野君は甘いもの大丈夫?」

「甘いものですか? 甘すぎなければ大丈夫ですよ。っていうか、いいんですか?」

「どうせ、人数分作るんだから、問題ないっしょ。」

「町田先輩が作るわけじゃないでしょうが。」

「お手伝いくらいしますよ。私だって。」

「焦がさないようにね。」

「あ、美咲ちゃんまで。ひっどい!」


なかなかに賑やかではあるが、1人だけ部外者である自分が、少しだけ落ち着かない。

親子丼は、卵がふんわりとしていて、味付けもちょうど良かった。三つ葉の香りが爽やかだった。


「味付け、大丈夫? 少し濃かったかしら?」

「美味しいですよ。」

「タマちゃんの料理が美味しくないなんて、あり得ないよ。」

「そうそう。玉子さん、お店出せるレベルだよ。」

「もう! 光華も、美咲も、調子いいんだから。」


口では怒ってみせても、嬉しそうな玉子さんだった。




3時少し過ぎに、凛は、父親と一緒にやってきた。

いつも通りの完全防備。大きなヘルメットが目立っている。彼女は、いつも以上に張り切っている様子だ。


「うまく乗れたら、今日からペダルを付けてもらえるんだ。」


父親はリュック型の鞄を背負っていた。右手に紙袋を下げている。そして、玉子さんを見つけると、頭を下げた。


「いつもお世話になってます。練習場所を提供していただいて、助かります。これ、良かったら。」


父親は、右手の紙袋を玉子さんに渡して、凛にも頭を下げさせていた。


「ふ~ん。あれが噂の凛ちゃんか。」


玉子さんが作った蒸しパンを入れた籠を持って降りてきた美咲が、興味深げに呟いたのだった。

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