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パフュームデライトその5

花見小路教授は、わざわざエレベーター前まで、付いてきた。

理系学部の教授って、こんな感じなのか? 年齢も随分若いし……。

文学部(自分のところ)とは随分違う感じ。なんとなく、やっぱり軽い。


エレベーターのドアが開く。上の階から降りてきた箱の中には、先客がいた。


「あれ? 三毳みかも君。上の階に行ってたの?」


花見小路教授は、エレベーター内の先客に声をかけた。


「え? あ、花見小路教授。えっと、ええ。今日は、4階の方で実験させてもらってたんです。」


三毳と呼ばれた男子学生が、慌てて返事をした。何か大きな鞄を肩にかけていた。


「ん?」


花見小路教授は、何か気になったようだが、それ以上の会話は続かなかった。


「それじゃ、今日はありがとうございました。」

「あぁ、感想文、楽しみにしてるよ。堀田さんにもよろしく伝えて。」


俺は、予定より随分と時間がかかってしまったことで、建物の外で待つワカナが心配しているだろうと考えていた。

ふと、何か、柑橘系の香りが漂っているのに気が付いた。

横に立つ三毳を見ると、階を示す数字をじっと見つめつつ、足踏みをしていた。そして、1階に到着し、扉が開くと同時に飛び出していった。

俺は、呆気に取られたが、何か急ぎの用事でもあるのだろうと、大して気にも留めなかった。

何よりも、俺自身、ワカナを待たせたままであった。


建物を出て、あたりを見渡すと、植え込みの近くにいたワカナが手を振ってみせた。


「確かに渡してきましたよ。これ、受け取りのサインです。」


忘れないうちに、渡しておく。


「何かあったのかと……。随分時間がかかったのね。」

「教授に呼び止められちゃったんですよ。サンプル渡されて、感想文提出の課題が出されちゃいました。」


ワカナに、サンプルを見せる。


「あ、それ……。」

「今回だけのはず、でしたよね。」

「ごめん。」

「堀田さんに、担当を続けてもらいたいみたいですよ。教授は。」

「え?」


ワカナの表情を見て、俺は、気が付いた。


「言わない方がいいのかもしれませんが……。」

「な、何?」

「ひょっとして、花見小路教授のこと……。」

「あぁ、分かっちゃった? うん。」


ワカナは困ったような顔になった。


「私が学生だった頃は、まだ准教授だったんだけどね。気さくで、話やすくて……。で、いつの間にか、目で追うようになってたの。」


ワカナは、そのまま歩き出した。


「自分が普通じゃないって思えて……。今はね、自分のあるべき状態じゃなかったんだと思えるんだけど、当時は混乱してたし。」

「難しいんですね。」

「今回ね、1か月だけ繋ぎってことで、メールのやり取りしたんだけど、……楽しかった。仕事なんだけどね。」

「会いたくなかったんですか?」

「……、会いたくなかったわけじゃないんだけど……。妙に勘が鋭いんだよね。知られたくないから……。」

「堀田さんが、……その、昔、理学部の学生だったってことを、ですか?」


いや、ちょっと違うか? 理学部の学生っていうより……、うまい表現が見つからない。


「宮野君はさ、男の人に告白されても平気?」

「えっ、え~と、すみません、その、それは……。」

「でしょ。……困らせたくないの。向こうは知らないし、知る必要もない。……でも、直接会ってしまうとね、気付かれちゃいそうな気がしたんだ。」

ミカモ:シュラブローズ、1963年日本作出。花色はロイヤルパープル。

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