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夢その1

挿絵(By みてみん)

©秋の桜子 様

夢を見た。

見渡す限りの薔薇の花々。

再び出逢う、その日のために……。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

もうすぐ春休みも終わる3月末、俺は、先輩である町田光華からアルバイトの誘い、というよりも強制参加を命じられた。


「何でも1つ、言うことを聞いてくれるんだったよね? 助かったわ。思い当たる子は、もう全員、声かけた後だったの。」


ほとんど忘れかけていた約束だった。正月明けの新年会で、どういう経緯だったか、もはやはっきりしないが、突然始まったじゃんけん大会。俺は、最後の最後で光華に負けたのだった。

すっかりアルコールで出来上がっていた光華は、


「よっしゃ! じゃあ、何でも1つ、言うこと聞いてもらうからね、宮野君!」


と宣言して、直後にそのまま寝落ちしかけ、同学年の菅沼ミツコに付き添われて帰ったのだった。

こっちは、「そんな話じゃなかったよな?」であったが、酔っ払いには通用しない。

大体、何で、最下位ならばいざ知らず、2位が1位の言うことを聞かねばならんのか? さっぱり分からんのだった。

しかし、大抵の酔っ払いは記憶を失くす。よって、翌日以降まったく話題に上らなかったことから、とっくに無かったことと考えていたのだ。


光華からメールが届き、某ホームセンターへ10時に来るよう、指示された。作業ができる服装、汚れてもよいもの、という文言付き。一体、何をさせる気だ?


「おぉい、こっち、こっち! 宮野君。」


俺は、某ホームセンターの駐車場に約束の10分前に着いた。乗ってきたコンパクトカーを空いているスペースに停め、降りたところで、後ろの方から声をかけられた。


「一体、何をすればいいんですか? 町田先輩。」


光華は、ストライプ柄のラフなコットンシャツにジーンズ、足元はスニーカーという出で立ち。すぐ横に、ビニールの大袋に入った園芸用土が積み上げられた台車があった。



「とりあえず、来てくれてありがとう。で、早速なんだけど、この土とか支柱とかを運ばないといけないの。宮野君が車持ってるって聞いて……。」



そういうことか。つまり、荷物運び役が必要だったわけね。

俺は、後部ドアを開け、ラゲッジフロアに載せたままにしていた荷物を脇に寄せた。

光華は、台車を押して荷物を近くまで運んでくる。


「先輩、家庭菜園でもやるんですか?」

「私じゃないよ。これ、伯母の家に運んで欲しいの。あと、菜園じゃなくて、バラ園ね。」

「バラ? バラって花の?」

「そ。花のバラ。」


ビニールの大袋に入った土と、園芸用の支柱、あと何だかよく分からないボトルや小物が入ったレジ袋を積み込むと、光華は店に台車を返しにいった。


「バラねぇ……。」


俺は、光華とまったく結び付かないその花の植え付け作業に駆り出されたらしい。




「そこの角を左に曲がって、で、100メートルくらい進んだところの『ハイツエグランテリア』ってところね。」


バラ園と聞いて、てっきり郊外の広めの庭付き住宅を思い浮かべたのだが、光華のナビに従って辿り着いた先は、大学からも近い3階建ての共同住宅だった。


「伯母の亡くなった旦那さんが、建築士でね、自宅兼事務所兼賃貸として建てたのがこれ。まぁ、賃貸っていっても5室しかないけどね。」


光華の母の姉にあたるその人は、2年前に連れ合いを病気で亡くしたという。子供は無く、共同住宅の一部だった事務所は整理し終わって、自宅部分にそのまま住んでいるのだそうだ。


「で、亡くなった義理の伯父の趣味で、建物の一部がバラ園状態になってたのよ。」


3階建ての建物の1階部分は事務所と駐車スペース、2階と3階に渡った自宅スペースの一部が広いサンルームになっており、そこで鉢植えのバラを育てていたらしい。2階に3室、3階に2室の賃貸部分があり、光華はそのうちの3階の1室を借りている。

事務所になっていた1階部分は、現在、倉庫兼作業スペースだという。


「伯母を呼んでくるから待ってて。」


1階の駐車スペースに車を停め、荷物を運び出せるよう後部ドアを開けて待っていると、光華と、光華より少しばかり背が高い女性が中から出てきた。


「伯母のタマちゃん。で、こっちは、後輩の宮野高雄君。」

「光華、初めての方に、タマちゃんって紹介するのはやめて。もう、ごめんなさいね。この子、無理を言ったんでしょ。初めまして、星野玉子です。光華の伯母です。」

「は、初めまして。光華さんの後輩の宮野です。」


光華の伯母であるから、40代後半か50代前半くらいであろう。しかし、無地の青いコットンシャツにジーンズ、セミロングの髪を緩く束ねて、化粧っ気のない顔のその女性は、童顔も手伝って、年齢不詳といった感じだった。

夢:ハイブリッドティーローズ、1994年日本作出。花色は、パステルオレンジ。

光華:ハイブリッドティーローズ、1996年日本作出。濃い黄色の大輪。

ミツコ:ハイブリッドティーローズ、1970年フランス作出。花色は淡い黄色で、縁にピンクが入る覆輪。由来は、ゲラ〇の香水 Mitsou〇o 。

ロサ エグランテリア:野生種、ヨーロッパから小アジアに自生。5弁の一重咲き。花弁はライトピンクで花芯は黄色。

高雄:ハイブリッドティーローズ、1975年日本作出。黄色と朱紅色の覆輪。


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