吸血姫と・・・・
ティアナさんの蘇生の成功、ヨミとレインさんによる人間軍壊滅、私とサクラ君が聖十二使徒上位に重傷を負わせたという三つの吉報は、瞬く間に魔王軍全体へ広がった。
それに伴い、魔族領首都『パンデモニウム』は今やお祭り騒ぎとかしている。
そこらで、やれ四魔神将万歳だの、レイン様万歳だの、ティアナ様万歳、魔王様万歳だのと、私達を讃えるような掛け声が上がっている。
褒められなれていない私としては、ちょっと恥ずかしすぎる状況だ。
「いやーしかし、流石はヨミ様だぜ。神器とはいえ、剣一本で二万の軍勢の半分近くを殲滅したんだろ?人間業じゃねえとはまさにこの事だな」
「それを言ったらリーン様もだろ!幹部すら手に負えなかったあの『金剛』をボコボコにしたって話じゃねえか!話を聞いた時はスカッとしたもんだぜ」
「馬鹿ねー、今回の功労者は間違いなくサクラたん.......じゃねーや.......サクラ様でしょ!あの『巨弓』に高位魔法をぶっ放しまくって半泣きにしたって聞いたよ!しかも、ティアナ様の蘇生も成功させたとか!」
「まあ、確かにMVPを決めろって言われりゃ.............お前今、サクラ様のことなんて呼んだ?」
聞こえてますよ。
ああもう、だから褒められるの苦手なんだってば!
少しだけ、吸血鬼の聴覚を恨めしいと思ってしまった。
ちなみにサクラ君をベタ褒めしてたあの女性は多分、『サクラきゅん(たん)を物陰からそっと見守る会』、通称サクラ会のお姉様だと思う。ちなみにこの会の会長はヴィネルさんらしい。マジで何やってんだあの人。
まあそんなこんなで、完全に臨時のお祭りになってしまっているパンデモニウムで、私はつかの間の休憩をしているわけ。
だって私、明後日からまた戦場だし.......。
本当は五日後からだったのに、幹部第八位の『大海将』ナツメさんから、緊急の応援要請があったらしくてさ。それで私が出向くことになった。
人間を殺せるのは、全然いいんだけど.......また、ヨミと離れ離れかあ.......。
「.......はあ」
「リーン、ため息つくと幸せが逃げるよ?」
「だってさぁ.......休みが縮んだ時ほど絶望的な気持ちになることって、あんまり無いと思わない?」
「気持ちはわかるけどさ。今回はそれなりに短いんでしょ?帰ってきたら、リーンの好きなもの作っておくからさ、ね?頑張って」
「うん.......ありがとう、ヨミ。.............え、ヨミっ!?」
「えっ?うん、ヨミだけど?」
いつの間に!?
.......やばいな、最近弛んでる?気配感知が鈍くなってきてるのかも。
「い、いつからいたの?」
「ほんのちょっと前だよ。さっきまでレインさんと一緒にいてさ」
「そ、そう.......」
.......あー、駄目だ。
ぜんっぜん上手く話せない。最近ずっとこんな調子だ。
昨日の夜、出撃前にはこんなじゃなかったのに.......。
なんか気が抜けた途端、またヨミを意識しちゃってるみたい。
取り敢えず、心臓が破裂する前に、速やかにここを離れなければ。
「えっと.......じゃあ、私行くね?」
「えっ、なんで?一緒に行こうよ」
「いやー、それは.......」
やばい。咄嗟の言い訳が思いつかない。
どうする?逃げるか?いやダメだ、今は朝だし、月の加護が発動していない私が、この子を巻けるとは思えない。
どうしようかと悩んでいると、
「ねえ、リーン。どうしたの?最近変だよ?」
.......この子ってばいきなり爆弾投げ込んできた!
「.......い、いや、私はいつも通りですことよ?」
「違うよ、絶対変だよ。リーンと何年一緒にいると思ってるの。それくらい分かるよ」
うう.......確かに、私だってヨミが何かを隠してたりする時は、全部見破れるけど.......。
くっ、仕方ない。ここは一縷の望みにかけて、戦略的撤退を!
「だ、大丈夫だよヨミ、私本当になんでもないから!それじゃっ.......」
「待って」
.......しようとしたけど、腕をがっちり掴まれた。
うん、腕を.......。
う、腕を!つ、つ、掴まれ.......!
ヨ、ヨミの手が、私の腕に.............
「こっち来て」
「.......へあ?」
なんだか自分でもよく分からない昂りに戸惑っていると、そのままヨミが私を引っ張り出した。
抵抗?無理。月の加護が無い以上、ヨミのステータスは私の一・五倍くらいあるし。
なので、抵抗は無意味と早々に諦めた私は、ヨミに腕を掴まれたまま、観念して歩き出し.......
気がつくとそこは路地裏でした。
※※※
.......ん?
.......んんん?
なんで私、こんな所にいるのかなあ?
ヨミに引っ張られるがまま移動して、なんで人気の一切無さそうなこんな場所に?
「え、えっと.......ヨミ?その.......何か、怒って、る?」
「.............」
何か言ってよお!
怖いよぉ!私、そんなにヨミを怒らせちゃってた!?
た、確かに.......フルーレティア様の一件でヨミを意識しちゃって以来、距離を取ったり、逃げたり、色々とあったけどさ!
でもあれは、ド天然タラシすぎるヨミも悪.......
「リーン」
「ひゃいっ!」
「ここは人もいないし、一本道だから来てもすぐ分かる。それに、リーンが逃げようとしても、ボクならすぐに追いつけるよ」
「え、えっと.......ヨミ?どうしちゃっ.......」
―――ドン!
壁に同化してこっそり逃げようとしてた私の進行方向に、ヨミの手が突き出された。
そう、所謂『壁ドン』というやつである。
.......少女漫画とかはあんまり読まず、たまにネットとかで流れる壁ドンの画像に対し、「こんなもん何が良いんだか」と首を傾げていたあの頃の私に、言ってやりたい。
『壁ドンすげえ』と。心臓がマジで破裂しそうになるぞと。顔が発火しそうになるぞと。ヨミの綺麗すぎる顔が、超至近距離で見られるこの状況、興奮するなという方が無理でしょ。
い、いやいや。いやいやいや!.......落ち着け私。
そう、確かに今の状態は壁ドンだ。
けどこれは、決して少女漫画でよくあるようなあれではなく、マジで私を逃がさないためのヨミの手に過ぎない。
だってこの世界に、壁ドンなんて文化は無いもの。
この子がただ単に天然でやってるだけだ。
―――ドン!
そう!だから!この、両手を使った壁ドンも、本当にただ私を逃がさないためのこの子なりの策略だから!そういうあれじゃないからあ!だから、焦る必要なんてないんです私!
「リーン」
そもそも壁ドンは吊り橋効果的な感じで恐怖のドキドキを恋のドキドキと勘違いしているだけって話もあるんだしこれがそういう気持ちかどうかは分からないわけでだから私がヨミの事を好きかどうかとかそういう話には―――
「もう、逃がさないから」
.............。
...................。
.............っこいい。
かっこいい。
かっこいい、かっこいい、かっこいい、かっこいい、かっこいい。
心臓が.......マジでこのままだと破裂する。
本気でヤバい、意識保つのも結構きつい。
かっこよすぎる。
ちょっと怒ったような表情が、普段の愛嬌を帳消しにしてそのまま可愛いがかっこいいにシフトチェンジして.......
あ、ダメだわ。好きだわ、この子のこと。
普段の可愛らしい時も愛おしいし、こっちのかっこいい時も心臓鷲掴みにされたような気持ちになる。
ちょっと天然なところも、剣を振ってる時も、その全てが、思い出しただけで私の心を揺さぶってくる。
ちょ、あ.......待って、マジでかっこいい.......。
普段の可愛らしいとのギャップが.......もう.......頭.......
「.............へうっ」
「え?.............ちょ、ちょっと、リーン!?大丈夫!?」
どうやら、あまりの血の巡りの速さに、脳がついていけなくなったようで。
そのまま私は、ヨミのかっこよさで気絶した。
今回のタイトルの「・・・・」には、皆様の好きな言葉を入れてください。
「陥落」でも「恋の始まり」でも「百合畑」でも。絞りきれなかったので諦めました。