吸血姫と蘇生
「ルヴェルズが出てきたじゃと?」
初の任務失敗にショックを受けた私とサクラ君が、恐る恐る魔王様に報告すると、魔王様は思案顔になってしまった。
「その.......聖十二使徒を仕留めきれず、本当に申し訳ございません.......」
「も、申し訳ございませんでした!」
「む?ああ、そんなことは気にせんで良い。ルヴェルズが出てくるなど、妾としても完全に予想外じゃ。むしろ、よく短慮に二人を殺したりせんかったな」
おお.......流石魔王様、器が大きい人だ。
「第四位と第五位が、主らで十分対処可能と分かったのも収穫じゃ。次に出てきた時に確実に殺せ。それで良い。.......それよりも問題はルヴェルズじゃ。デューゲンとハサドは貴重な戦力、故に助けに来るというのは納得がいくが.......何故、やつが直々に?」
「私とサクラ君の戦闘を見ていたらしいです。多分、それ自体が目的だったのではないかと」
「ああ、なるほどのう.......。戦闘力を測るのが目的か。普段は結界の維持の為に神都から出ぬというのに、ご苦労な事じゃ」
「あの男、戦場に出てこないんですか?第一位のくせに?」
「妾がこの城の周辺から出れぬのと同じでな。やつは、神都に張られている、極めて強力な.......結界神であるフルーレティアすら破れぬほどの強固な結界を普段から維持しておる。故に、基本的には結界の外には出られぬのじゃ」
なるほど.......って、え?普通に出てきてたけど?
「しかし、例外はある。妾がこの城周辺から絶対に出れぬのは、この結界を維持出来る者が、イスズ様の眷属.......つまり妾しかおらぬからじゃ。しかし、女神ミザリーはその眷属が、勇者と聖十二使徒で合計十三人おる。まあ、何人かは殺したが。故に、その結界の維持を誰かに一時的に譲渡し、代行させることが出来るのじゃ」
「なんて反則技」
「まあ、とはいえ、代行出来る者はそれ相応の実力と魔力が無いといかん。聖十二使徒の中でそのランクに達しておるのは、第二位のヘレナと、第三位のゲイルだけじゃろうな。しかも、所詮は代行に過ぎぬ故、ルヴェルズが外で活動出来るのは三十分前後じゃろう」
ああ、そうか。
あいつ、私達を殺さなかったんじゃなくて、時間が無くて殺せなかっただけか。
何が「ふっ、今日はこの二人を回収しに来ただけだ」だ、カッコつけやがって。
「さて、この話はここまでとして.......サクラ。そろそろ、ティアナを蘇生してやれ」
「は.......はい!」
魔王様の横にある棺。その中にティアナさんはいる。
魔王軍の為に、文字通り死力を尽くした、私の魔法の師匠とも言える人。
蘇生は.......可能と思いたい。
ついさっき、サクラ君から聞いたんだけど.......蘇生魔法は、異常な魔力消費、肉体損傷による蘇生の可否、蘇生可能時間だけでなく、もう一つの制約がある。
あまり知られておらず、だけど最も厄介なそれは、『蘇生確率』というもので、その名の通り、蘇生が出来るか出来ないかの確率。これを外すと、二度と蘇生魔法が効かなくなる。
そしてこの確率が決まるのは、『肉体損傷率』と『蘇生回数』。
肉体がほぼ完璧に残っていて、蘇生が一度目であれば、確実に最初は蘇生出来る。
.......けど、それが二回、三回となる度に、段々と蘇生が難しくなり、四回目以降はほぼ蘇生不可能。
肉体損傷率も問題で、体.......というよりは細胞が残っていればいるほど、蘇生確率は高くなる。
早い話、この世界の蘇生魔法はザ〇リクじゃなくてザ〇ラルで、しかも失敗したらそのままって事。
これに当てはめると.......ティアナさんは初蘇生らしいし、成功率自体はそこそこ高い。
けど、蘇生の確率は.......七割ってところだ。
「サクラ君.......」
「.............だ、大丈夫.......ティアナ様なら.......きっと.......」
「サクラ」
「え、あ.......」
「大丈夫じゃ。妾を、そしてティアナを信じよ」
「.......はい」
「.......《蘇生》」
※※※
.......どう、なった?
「サクラ君、ティアナさんは.......」
「.......分かり、ません。ティアナ様.......」
「大丈夫じゃ。ほれ、見よ」
棺に目を向けると.......
勝手に蓋が開いて.......
その瞬間、サクラ君が走り出した。
「おや.......ここは、何処でしょうか?」
「ティアナ様っ!」
「サクラ?どうしたのですか.......きゃあっ!?」
おお、サクラ君、ティアナさんに抱きついた。
ちょっ.......メロンみたいな乳房に顔埋めちゃダメでしょ、絵面的に!君、見た目女の子だけど生物学上は男でしょ!?
.......違うそうじゃない。
「ティアナ様.......ティアナ様あ.......良かったあ.......!」
「え、ええ.......?よく分かりませんが.......何やら心配をかけたようで」
「おお、戻ってきたかティアナ。無事に蘇生出来て何よりじゃ、痛むところなどはないかの?」
「魔王様。.......特にはないようです。.......って、蘇生ということは、私、一度死んだのですか?」
「うむ。ハサドの矢に貫かれてのう。サクラに礼を言うのじゃぞ、殺すことこそ出来んかったが、ハサドをえげつないコンボで追い詰め、更に主を蘇生したのじゃから」
「そうでしたか.......。ありがとうございます、サクラ」
「いえ.......いえ.......!」
サクラ君は、ティアナさんに懐いてたからね。
こうなるのも無理はない、か。
「ティアナさん、蘇生出来て良かったです.......」
「リーンさん。貴方にもご迷惑をお掛けしてしまいましたか」
「いえ、そんな。ティアナさんを殺した男の一人は私がボコボコにしました。気持ちよかったので全然良いんです。邪魔が入ったせいで、殺すことは出来ませんでしたけど.......」
「では、次に会った時に私が仕留めさせて頂きますね」
「おっ、それはいいですね。私も手伝います」
「ふふふ.......ありがとうございます」
こうして、魔王軍に、『森林将』ティアナ・フォレスターが、見事戻ってきた。
「.......それにしても、魔王様は凄いですね」
「.......?何がじゃ」
「いえ、だって.......さっき、ティアナさんを蘇生する時、サクラ君を励ますために、頼もしい言葉をかけたり。蘇生が成功した時も、蘇生出来なかった可能性があったような素振りも見せず.......流石です」
まるで、成功するのが分かっていたかのようだった。
魔王様ともなると、こういう運も強いってことなのかね?
「ああ、それか。それはそうじゃろう、蘇生が成功するのは分かっておったしのう」
.......ん?
今なんて?
「.......分かっていた?蘇生の成功が?何故?」
「これじゃ」
そう言って魔王様がこっちに投げ寄越してきたのは.......指輪?
飾り気のない簡素なものだけど、強力な力を感じる。
「それは、神器『定輪デビア』というものでな。有する特性は『確率操作』じゃ」
確率.......操作。
と、いうことは。
「.......これで、ティアナさんの蘇生確率を操ったと」
「うむ。百パーセントにな。そもそも、三十パーセントの確率で我が軍の貴重な戦力たるティアナを失うなどという分の悪い賭け、妾が好き好んでする筈なかろう。平然としておれたのは、それがあってこそよ」
うん、そりゃそうだ。
そりゃそうだし、こういう手際は流石だと思うけど、疑問が一つ。
「.......なんで事前に教えてくれなかったんですか?」
「それは、主らが妾がそれの存在を教える前に、なにやらシリアスな雰囲気を出すからじゃろうに。空気を読んで言わないでおいてやったのじゃ」
そういう心遣いはしなくていいですよ。
一応、四魔神将のヤバさをまとめときますね。
ヨミ.......プレイヤースキルチート。ステータスもやばいけど剣の実力がヤバすぎる。身体強化魔法もチートに近い。しかもこれでも『遅咲きの花』タイプ。
リーン.......ステータスチート。満月の夜はどんな敵もステータスでゴリ押しできる。
サクラ.......魔法チート。呼吸する災害とか言われてるけど、今ではもはや呼吸する天変地異。
グレイ.......ヨミと同じくプレイヤースキルチート。世界中のほぼ全ての武術を操る。ヨミとリーンに体術教えたのもこいつ。なんやかんや素の平均ステータスは一番高い。なのに末席。解せぬ。