賢神将vs巨弓
ハサドが飛んで行った先に行くと、既にハサドは立ち直っていて、僕に向けて巨大な弓を構えていた。
「.......なんだ、僕の方に来たのは君かあ。リーン・ブラッドロードを殺せれば、勇者の仇討ちをした英雄ってことで、序列が上がったかもしれないのに。これじゃあ、上がるのはデューゲンさんじゃないか」
「.............」
「ああ、でも君も、一応第三席なんだっけ?サクラ・フォレスター。魔王軍最強の魔術師.......君を殺せれば、僕の序列も上がるかもしれないね」
「.......そんなに、序列が、大事.......ですか」
「勿論。聖十二使徒の第一位は、法皇の座が約束されている。法皇といえば、ミザリー様に最も近い領域だぜ?あの御方の声を聞くことが出来ると言われる、唯一の座だ。いずれは、僕がそこに座ってやるのさ」
「.......ティアナ様を、殺したのも.......その、一環、ですか」
「ティアナ?ああ、あのエルフか。魔王軍幹部だって言うからどれほどのものかと思ったけど、他愛なかったね。この弓で、心臓をぶち抜いてやったさ。体はあれ、半分近く消えてたなあ。蘇生は期待しない方が.......」
「《威力超増加付与・重力刃》」
「うおっ!?」
言い終わる前に、思わず魔法を撃ってしまった。
.......でも、収穫はあった。ティアナ様の体は半分以上残っている。なら、僕なら蘇生出来る。
何処にあるのかも、既に探知魔法で捜索済み。そして、転移魔法で既に所定の位置へと送ってある。
あとは、この男を殺すだけ。
「よくも.......よくも、ティアナ様を!」
「クソッ、エルフ如きが驚かせやがって!お前なんか、僕の敵じゃないんだよ!」
そう言ってハサドは、その異名の由来となっている神器、『巨弓ダリオン』の矢を放ってきた。
「《屈曲空間》」
周辺の空間を捻じ曲げ、あらゆる遠距離攻撃を逸らす魔法。
槍のような大きさの矢も、僕には当たらず、後ろへ飛んでいった。
「なにっ!?」
「《氷結光線》」
「ぐっ.......!」
「《熱波竜巻》」
「うおっ.......!ちょ、調子にっ.......」
「《追尾付与・酸の散弾》」
「ぐあっ!?」
あの男が持つ神器『巨弓ダリオン』の特性は、『防御貫通』。だけど、ヨミさんの持つ魔剣ディアスみたいに、生物のステータス的な防御力を無視する訳じゃなく、ダリオンは結界や盾、鎧といった、防御強化の術を透過する。結界神であるフルーレティア様の天敵のような神器。
けど、さっきみたいに、『逸らす』魔法は効果があるみたい。
矢は弓を引けば無限に現れるけど、実体を持つまでに約三秒かかる。
つまり、この男の攻略方法は一つ。
「《極爆炎》」
「ぐおっ!?ま、待て.......」
「《威力超増加付与・雷球》」
「うわああっ!?」
この男が、弓を引く暇を与えなければいい。
一度魔法を撃ったら、即座に次の魔法を発動して、こいつに神器を使わせない。
魔法の威力を増加させ、必要魔力は抑え、更にあらゆる魔法を簡略化し、発動時間を極限まで短縮する。それが、僕が魔王様から賜った神器、『王杖ハーティ』の力なんだから。
実際、この杖は凄い。僕ももう、かなりの高位魔法を連発したのに、僕の使った魔力は、精々、限界の五パーセント。
普通なら、もう十パーセントは使っているはずなのに.......半分以下なんて。
けど、蘇生魔法はハーティの力を使っても三割近くの魔力を使うから、その分は温存しておかないと。
その魔力で.......ティアナ様を殺したこの男を、ティアナ様の分も、しっかり、虐めてやろう!
「ふふ.......あはははは!!!《暗黒砲》!」
「畜生、イカレ野郎め!僕を舐めるなっ.......」
「《効果増大付与・激痛の波動》」
「.......ギャアアアアアアアア!!」
何故だろう。
この男に限らず、僕は.......人を追い詰める時の、あのゾワゾワする感覚が、なんとなく癖になっている。
ティアナ様も同じだと言っていた。もしかしたら、エルフ族の種族特性なのかもしれない。
もっとだ。もっと、こいつを痛めつけてやろう。
「僕の家族を殺した男.......遠慮する必要なんて、ないよね」
※※※
流石弓士と言うか、この男は僕の魔法を、結構避け続けた。
腐っても聖十二使徒序列第五位なだけのことはある。平均ステータス二万三千、弓を引くための筋力と、距離をとるための速度のステータスは、三万を超えていた。
実際、何度か僕の魔法を掻い潜って、神器の弓で殴りかかってきた。
けど、防御貫通効果は弓そのものにはないらしくて、僕の結界を破ることは出来なかった。
そのうち、僕が空中爆撃の戦法に切り替えてからは、二度ほど僕から身を隠して矢を放つことが出来たみたいだけど、全て逸らした。
そんなものでは、僕の魔法は破れない。
魔王軍最強の魔術師、魔王軍第三位にして、魔力ステータスが十万近い僕を、容易に倒せると過信して油断したのが、あの男の運の尽きだ。
「クソ!クソクソクソぉ!!なんだよあれ、あんなの反則だろ!」
「《穿つ光》」
「うわあ!.......ぼ、僕は悪くない!あいつが強すぎたんだ!だから、これは.......逃げるんじゃない、戦略的撤退だ!そうだ!」
そう独り言を呟いたハサドは.......速度ステータスにものを言わせて、一目散に逃げ出した。
.......フヒヒ、それくらいで逃げられるわけがないのに。
「《次元返し》」
「よし、これで.......え?」
周辺の空間を操り、対象者が一定以上離れると、元の立ち位置に戻ってきてしまう、逃亡阻害の魔法。
リーンさんがこの魔法を見た時、『.......ボスからは逃げられないってこういうことか』と、よく分からないことを言っていた。
「な、な、なんっ.......」
「おかえりなさい。《天炎》」
「う、うわああああ!」
何度も逃げようとするけど、その度に元に戻されるハサド。
本当に聖十二使徒の上位かと疑いたくなる風景だ。
でも、まだ足りない。
もっと絶望して、痛みを感じてもらわないと.......ティアナ様の死に釣り合わない。
「《威力超増加付与・水飛沫》」
「《破壊光線》」
「《四属性槍》」
高位魔法、及び高位化した魔法のオンパレード。
直撃こそしなかったけど、少しずつ、あの男の命を削っている。
「クソおおお!魔族如きにいいいいい!」
「.......《万年氷》」
「っ!?う、動けな.......」
足元を氷魔法で固めて固定。
これでハサドは動けなくなった。
「まっ.......待て、待ってくれ!僕を殺していいのか?ここで僕を殺せば、お前の恐ろしさを伝える者がいなくなるぞ!僕を逃がせば、お前には手を出すなと命令しようじゃないか!だからっ.......」
「別に.......僕は、戦いが嫌いとか、そういうのじゃないんです。だから、そういう事は、言わなくていいです。それに.......魔王様に、あなたは殺せって言われてるから。そして、ティアナ様を、殺した、あなたを.......僕は許さない」
そして、僕は発動する。
僕が使える魔法の中でも、五指に入る破壊力を持つ、土の元素系最上位魔法の一つ。
本来は儀式を必要とする魔法であり、僕でも発動に数分かかる魔法だけど.......王杖ハーティが、それをものの数秒で処理してくれた。
直撃したもののほぼ全てを破壊し尽くす、最高の破壊魔法。
その名は―――
「《隕石招来》」
瞬間、遥か遠い空から、巨大な石の塊が超速で降ってきた。
氷で足を固められたハサドは、もう逃げられない。
「.......ちくしょおおおおおおお!この、バケモノがああああああああああああああ!!!!」
その言葉が終わると同時に.......隕石は、ハサドのいた場所を中心に、地面へと衝突した。
魔法少年サクラ☆マジカ