元勇者と人質奪還
昔、職業を進化させる条件なんてものを思いつきで作ったんですが、感想で指摘されるまですっかり忘れてました。作者の無能さを許してくださいテヘペロ。
というわけで、第四話を少し改稿しました。
転移魔法で送って貰った先は、人間の軍が向かっている村より少し先の平原だった。
ボクの任務は、もうすぐここに来る人間を、一人として生かして帰さないこと。
人質奪還の終了が、蹂躙の合図だ。
「そういえば、レインさんと仕事って、これが初めてですね。よろしくお願いします」
「ん?.......ああ、言われてみればそうね。あんた、表に出て行動すること少なかったし。あたしの雷に当たったりしないように気をつけなさいよ?」
「大丈夫.......だと思います」
いくらボクでも、レインさんの雷を受けたらかなり痛いはず。
しかも、レインさんの天候操作は魔法の部類じゃないから、魔防で防げないし.......。
「まあ、あたしも気をつけるからそんなに気負わなくていいわよ。それより、目の前の任務に集中しなきゃ」
「そ、そうですね。.......リーンとサクラ君、大丈夫でしょうか」
「あの二人なら問題ないわよ。第二位の『宝眼』とか、第一位の『神子』なら面倒だったかもしれないけど、四位と五位でしょ?二対一なら厳しいけど、二対二なら十中八九勝てるわ」
「いえ、聖十二使徒戦もそうなんですけど.......ティアナさん、ちゃんと蘇生出来ますよね」
「そこはなんとも言えないわね。もしかしたら、アイツらが道連れに焼こうとかするかもしれないし。それ以前に、サクラが一定以上に魔法を使ったりでもしたら蘇生出来ないしね」
蘇生魔法は、回復魔法の最上位魔法だ。
そもそもの習得者数が物凄く少なくて、魔王軍でも使えるのはサクラ君と準幹部のシェリーさんしかいない。魔王様も使えないと聞いた。
人間の方も、聖十二使徒の第一位『神子』のルヴェルズと、第三位の『天命』のゲイルだけと聞いたことがある。つまり、知られている限りは世界で四人しか習得者がいない魔法。
おまけに使い勝手が悪すぎて、あのサクラ君すら、一度の使用に全魔力の三割を使う。シェリーさんは全魔力を絞り出さないと使えない。
更に、部位欠損も問題になる。サクラ君なら肉体や細胞の三割が残っていれば蘇生可能。シェリーさんなら九割残っていないと蘇生出来ない。確か、ゲイルは六割が必要だと聞いた覚えがあるような気がする。
しかも、蘇生可能時間というものが存在し、サクラ君でも、死後半日以上が経つと蘇生出来ない。
つまり、一般人には縁遠い魔法なんだよね。条件が厳しすぎて、普通は蘇生なんて出来ないから。
「蘇生可能時間は十分あるから間に合うでしょうけど.......」
「例えば、ティアナの首だけ切り取られて、あとの体は燃やされていたりしたら.......流石のサクラでも蘇生出来ないわね」
「そ、そんな.......」
「でも、そんなこと考えたって仕方がないでしょ?あたし達はあたし達の仕事に集中しなきゃ」
「.......そうですね、すみません」
※※※
「あっ.......見えてきたわよ」
レインさんのその言葉に目を凝らすと.......本当だ、こっちに行進してくる、凄い数の軍だ。
「さて.......あの手の連中は、軍ごと結界で囲ってたりするのよね。人質は中心部か。魔王様はどうする気なのかしら?」
「.......ワタクシが行くのよ」
「「えっ?」」
「.......フルーレティア様?」
「ええ。.......お久しぶりね、ヨミちゃん」
そんなに久しぶりでもないと思うけど.......。
というか、なんだかここ数日でやつれた気が。
「あら、魔王様も人使い荒いわね。引退した老兵を行かせるとか」
「老兵はやめてください、泣きますよレインさん。.......なんかフィリスが、ヨミちゃんとリーンちゃんに迷惑かけた分働けって.......やらないなら、ぐるぐる巻きにしてヴィネルの部屋に放り込むって.......」
「美味しく激しく乱暴に、色々とされること請け合いね。まあ、あんたが来てくれるなら安心だわ。ちゃっちゃと人質助けてきちゃってよ、あとはあたし達がなんとかするから」
「老兵って言うなら、もうちょっと気遣ってください.......」
「あれ、お二人って知り合いだったんですね」
「ええ、昔色々とあってね」
最古参の魔王軍幹部を動員してくるとは、魔王様、本気の本気なんだなあ。凄く怒ってるみたい。
「はあ.......敵はあれでいいのかしら?」
「はい、そうです」
「人質は.......中心部にいるのね。じゃあちょっと行ってくるわ」
※※※
.......なんでこんなことになってるのかしら。
何百年も魔王軍の為に戦って、そろそろいいかなーって思って引退して。
で、あの超怖いヴィネルと正反対の子を見つけちゃって、あの子のメイドとして暫くは余生を過ごす予定だったのに。
「.......なんでワタクシ、また戦場に出てるのかしら」
まあ、リーンちゃんとヨミちゃんとの一件関しては、たしかにやりすぎたとは思う。
その分働けって言うのもわかる。
.......けど、いくらなんでも引退した兵士を戦場に出すかしら?
フィリスのやつ、暫く見ない間に人を使うってことを学んだのかしらね。
「はあ.......まあいいわ。さっさと終わらせて、ルーズちゃんの部屋の掃除でもしましょう」
エッチな本とか見つからないかしらね。
それがメイド物とかだったら若干興奮するわね。
悪魔っ娘ものだったら燃やしてやりましょう。
そう思いを馳せていると、軍の人間連中と人質達が見えてきた。
なるほど、申し訳程度に結界は張ってあるのね。
でも、
「《結界破壊》」
結界術師の頂点、あらゆる結界魔法に対する優位性を備える結界神であるこのワタクシにとって、あんなもの紙細工みたいなものだわ。
「襲撃!襲撃だあ!」
「誰だあの女!?」
あら、もうワタクシを知っている兵はいないのね。悲しいわ。
「くっ、おいこいつらを見ろ!こいつらを殺されたくなければ.......」
「《異界結界》」
人質に剣が突きつけられたけど、関係ない。
ワタクシの《異界結界》で、周辺を囲ってしまえばいい話だわ。
今ワタクシが創った、この異世界の法則は、『他者への傷害の禁止』。
つまりこの結界内部では、誰も傷つけられない。
『フィリス、終わったわよ。あとは転移が使える魔術師を送り込んできて頂戴。この結界内部なら安心だから』
『ご苦労。少し待っておれ』
数分ほど、一切ワタクシも人質も傷つけられないことに戸惑う人間達を眺めながら待っていると、魔術師が五十人くらい転移してきた。
「お疲れ様です、フルーレティア様。人質の奪還に参りました」
「はい、ご苦労さま。じゃあ、さっさと運んでしまいなさいな」
「はっ!」
「おい貴様ら、何をしている!勝手に人質を連れていくな、魔族共が!おい!」
何か人間が叫んでるけど、こういう時のコツは、努めて無視することよ。
「ああ、誰かワタクシも一緒に転移してくれるかしら?もう仕事は終わったし」
「かしこまりました。では私が」
さて.......ワタクシはもう仕事しないわよ。
あとは頑張ってね、後輩達。
.......あら危ない、結界を解除しておかなきゃね。
「《転移》!」
※※※
「人質奪還成功だってさ。さて、あたし達の出番よ」
「はい。.......あ、リーンとサクラ君が聖十二使徒と交戦を開始したそうです」
「見えてたわよ。初っ端からサクラが超規模の衝撃波を放つんだもの、凄い速度で吹っ飛んで行ったわよ聖十二使徒の二人。あれはサクラのやつ、相当キレてるわね」
「みたいですね。.......じゃあ、ボク達も行きましょう」
「そうね。手加減とかするんじゃないわよ」
「するわけないじゃないですか。.......地獄を見せてやる」