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吸血姫と仇討ち会議

 .......今、なんて?

 私が口にするより先に、


「ど、どういう.......どういう事ですか魔王様!?」


 サクラ君がその場で立ち上がりながら叫んだ。

 .......ティアナさんはエルフ族の女王であり、サクラ君の叔母だ。取り乱さない方がおかしいだろう。


「.......落ち着け。最後まで話を聞け」

「.............はい。申し訳.......ありません」

「取り乱すのも分かるがな。.......軍の総数は約二万。先程も言った通り、指揮官は聖十二使徒の序列第四位『金剛』のデューゲンと『巨弓』のハサドじゃ。かなりの強敵であり、ティアナが死力を尽くしても勝てんかった。そして、その軍は現在、魔族が住まう村や集落、街を襲おうとしておる。この行軍速度だと、あと二時間程度で最初の村に到着してしまうじゃろう」

「そんな.......!?」

「どうするの?.......四魔神将を総動員する?」

「そういったことを話し合うために、主らを呼んだんじゃ。やつらめ、我らが積極的に攻撃出来ないことを狙ってか、百人程の兵士を生かして人質に取っておるのじゃ。普段は魔族と同じ空気を吸うのを嫌うが如く、その場で殺してしまうのに、余計な知恵を持ちおって.......!.......そのせいで、迂闊に軍へ手が出せぬ。じゃが、このまま野放しにしておくというのも論外じゃ」

「そうですね。ですが、兵士達を見捨てるという選択肢は.......」

「無論、無い」

「ですよね」


 人質がいなければ話は簡単だ。四魔神将の誰か、もしくはレインさんを送り込んで一方的に蹂躙すればいい。

 けど、人質がいるせいで、迂闊に手が出せない。仲間意識が強い、私達魔族の欠点だろう。


「.......ところで、ティアナさんの蘇生はどうなるんですか?可能なんですか?」

「.......その件なのじゃが」


 私が質問すると、魔王様は一拍おいて、


「結論から言えば、可能じゃ」

「本当ですか!?.......では早速!ティ、ティアナ様のご遺体は.......」

「落ち着けと言うとろうがサクラ!.......確かに蘇生は可能じゃ。じゃが、今は無理じゃ」

「な、何故.......!」

「.............そのティアナの遺体を、回収出来んかった。今あやつの遺体は、聖十二使徒の二人の手元にある」

「――――っ!?」

「やつらは、邪悪な魔族を滅ぼしたという証に、強敵.......特に、各種族の王族階級を仕留めた時、神都で晒し者にする為にその遺体を持って帰る。故に、ティアナの遺体は、今のところは蘇生可能な段階で残ってあるはずじゃ」


 .......晒し者?

 八年前.......私のお父さんであるレイザー・ブラッドロードの遺体は、吸血鬼の里に残っていなかった。

 そして、人間の兵士が吐いた言葉の中に、お父さんを晒し者にするという文言があった。

 .......知らず知らずのうちに、手に力が入る。


 だけど、今はそれに救われた。

 ティアナさんの蘇生が可能なら、絶対に助けなければならない。私としても、魔王軍に入りたての頃、右も左もわからなかった私を色々と助けてくれたのは、他でもないティアナさんだ。

 それに、魔王軍という大きな視点から見ても、ティアナさんの戦力は重要だ。あの人は、まだ死んでいい人じゃない。


「.......ティアナが蘇生出来ない程に傷つけられている可能性は?」

「無くはないが、低いな。蘇生魔法は、術者の力量にもよるが、サクラであれば遺体の三割以上の細胞が残っておれば蘇生出来るはずじゃ。そうじゃな?」

「は、はい!」

「よし。人質の救出に関しては、妾に考えがある。故に問題はあと二つ。聖十二使徒の二人の対処と、二万の軍の始末じゃ」


 おお、流石魔王様。

 もう人質に関して考えがあるのか。

 そう私が感銘を受けていると、


「魔王様!せ、聖十二使徒の始末は、僕に!僕にやらせてください!」


 と、サクラ君が叫んだ。

 .......普段、自己主張なんてしないサクラ君が珍しいな。

 それだけ怒ってるってことなんだろう。自分の家族を殺されたことを。


「まったく、落ち着けと何度言わせるのじゃ.......まあ、もとよりそのつもりじゃ。じゃが、いくら主とて、第四位と第五位を同時に相手するのは厳しかろう」

「うっ.......」


 聖十二使徒は、私達魔族の中で二つに区切られている。

 その区切りが第五位であり、第六位.......私のお母さんの仇であるノインが境目だ。

 第五位のハサドと六位のノインでは、その実力は比較にならないほどだとか。

 デューゲンとハサドは、幹部以上、四魔神将以下といった感じの強さらしい。

 確かにそれ程なら、二対一は不安かも。


「サクラ、主は一人を相手にしろ。もう一人は.......リーン、主が殺れ」


 おっ、私か。


「かしこまりました。肉片も残さずに消します」

「よく言ったぞ。我が軍の大切なティアナを殺した者共など、消し炭にしてしまえ!絶対に蘇生など出来ぬようにしてやるのじゃ!」


 .......魔王様も、かなり猛り狂ってるな。

 そりゃそうか、ティアナさんは最古参級程じゃないにしても、かなりの古参幹部だし、魔王様との付き合いも長い。


「そして、軍を討つメンバーじゃが.......ヨミ、そしてレイン。主らが行け。一人として生かして返すな」


「わかりました!」

「りょーかい」


 .......うん、これ、魔王様ガチで怒ってるな。

 グレイさん以外の四魔神将総動員、しかもそれに加えてレインさんとか、最早オーバーキルだ。


「いいか主ら!絶対に皆殺しにするのじゃぞ!ヨミまで動員するんじゃ、奴らに今まで生きてきたことを後悔させてやれ!」



 ※※※



「あ、あの.......リーン、さん」

「.......?サクラ君?どうかしたの?」


 作戦決行まで、あと一時間ちょっと。

 こんな時間が無い時に、しかもサクラ君から話しかけてくるなんて珍しい。


「あの.......すみませんでした」

「.......えっと、何が?」

「い、いえ.......僕、ティアナ様が殺されたって聞いて.......頭が、真っ白になって.......それで、真っ赤になって.......その、あの.......」


 ああ、そういうことね。

 要するに、落ち着けなかった自分に巻き込まれて、聖十二使徒戦に入れられたとか思ってるんだな。


「いやいや、そんなの気にしなくていいよ。私だってティアナさんにはお世話になったし、あの人を殺した聖十二使徒なんて、出来れば拷問にかけてやりたいくらいだよ。だから、サクラ君が気に病むことないって。仲間でしょ?」

「!.......はい、すみませ.............ありがとうございます」


 .......本当にこうやって見ると、女の子みたいだよなあこの子。


「リーン、サクラ君。準備出来た?」

「あ、ヨミ.......」


 .......落ち着け私、意識してる場合じゃない。

 今から戦いに行くんだ。ヨミへの気持ちは一旦忘れなきゃ。


「うん、大丈夫。ヨミも気をつけて」

「勿論。ちゃんとこっちは上手く殺るから、安心してあの二人を殺ってね」

「は、はい!頑張ります!」

「了解」


 .......よかった、思考の切り替えさえ上手く使えば、ちゃんとヨミと話せる。

 意思伝達は戦争の重要なものの一つだからね。


「それで、サクラ君はどっちを相手にする?デューゲン?ハサド?」

「えっと.......出来れば、ハサドの方を.......。デューゲンは、結構.......」

「魔防高いらしいもんね、あいつ。まあ、サクラ君と『王杖ハーティ』ならごり押し出来ると思うけど」

「そ、そうなんですけど.......その、やっぱり.......遠距離攻撃系の、ハサドは.......ボクとは相性が良いので.......」

「オッケー、じゃあデューゲンは任せてよ。ちゃんと殺してやるから」

「は、はい!よろしくお願いします!」


 .......さあ、ティアナさんの仇討ちだ。

 私達の仲間に手を出したこと、後悔させてやる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さぁバカなことをしでかした人間どもに絶望を見せてあげてください♪ というか蘇生魔法の存在忘れてた… [一言] これからも頑張ってください!
[良い点] 蘇生できるって聞いて安心しました… そういえばヨミも蘇生してましたねw [気になる点] 蘇生できるのは良いんですけどなんだか「死」が軽く見えてハラハラ感がなくなっちゃいそうだなぁと感じま…
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