吸血姫と葛藤
「フハハハハハ!フハハハハハ!やはり魔王軍にはワレがいないとダメか!そうだろうそうだろう、さあ人間共を蹴散らせえ!!フハハハハハ!」
「.......単純な人だこと」
「ま、まあまあ.......」
ちょっと煽てて焚き付けたらこれだよ。
あの人もしかして、ただ構って欲しかっただけなんじゃないの?
まあ、負けてショックだったのは分かるけどさあ.......。
ルーズさんに今後負けられていちいちこんなことするのは面倒なので、ルーズさんは極力聖十二使徒の上位がいなそうな場所に配置するってヴィネルさんが言ってた。
ちなみにルーズさんを助けようとしたフルーレティア様は、ヴィネルさんにどっかに連れていかれた。あとは知らん。
聞いた話によると、ルーズさんを倒して、瀕死寸前まで追い詰めたのは、聖十二使徒序列第五位、『巨弓』のハサドらしい。
「まあ.......確かにあいつは、ルーズさんとは相性悪いよね。サクラ君かリーンならそれなりに余裕で勝てるかもしれないけど.......」
「分からないよ?序列第五位でしょ?『六位で区切り』って言われてるほど、聖十二使徒の五位以上は強いらしいじゃん」
「まあ、そうだね。ボクもよく覚えてないけど.......」
聖十二使徒は、全員がヨミを交互に痛めつけた奴らだからね。
全員殺す。生まれてきたこと後悔しろ。特にノインとイーディスは、なんとしても殺す。
「フハハハハハ!さあ、突撃ー!」
「あ、突撃した。.......ルーズさんが」
「ちょっ.......なんで指揮官が突撃してんの!ちゃんと指揮してよもう!」
「でも、リーンも結構突撃してるよね?」
ヨミ、余計な茶々を入れない。
※※※
あれから三日。
ヴィネルさんが妙につやつやした顔になってたり、逆にフルーレティア様はげっそりしてたり色々あったけど、まあなんとか、私達の休暇を取り戻すことが出来た。
私も一週間後にはまた戦場に戻らなきゃいけないけど、取り敢えず今は、ヨミと平和な日常を送ってる.......のだけれど。
最近、かなりやばい問題がある。
それは.............
「ねえねえ見て、リーン!あっちでなにか盛り上がってるよ!行ってみよ!」
「.......ふえっ!?あ、ヨ、ヨミ、手、手ぇ.......!」
「?手がどうかしたの?.......あ、もしかして痛かった?一応手豆とか力加減とかは気をつけてるんだけど.......」
「う、ううん.......い、いいいきなり繋ぐから、びっくりした、だけ.......」
「そう?じゃあ早く行こ!」
「う、うん.......」
.......お分かり頂けただろうか。
最近、自分がおかしい。今までだったら、ヨミと手を繋ぐくらい、鼻血を吹きそうになるだけで済んだはずなのに。
今はもう、心臓バクバクで顔が赤くなり、息遣いも荒くなるのが自分でわかる。
.......フルーレティア様との戦い以来、ずっとこんな感じだ。
今まで普通に出来ていたヨミとの会話とかスキンシップとかその他諸々が、何故か上手く出来ない。
ヨミの一挙一動にドキッてするし、顔すらマトモに見れない。
「.......ーン。リーン!」
「.......へ?」
「もう.......どうしたの?」
「あ、ごめん。ボーッと.......して.......た.......」
ヨミが私の顔を.......覗き込んで.......
「か、顔っ.......顔が、近っ!」
「え、そう?ごめんね。.......でも、リーン、最近おかしいよ?何かあったの?」
何かあったか.......か。
そういえば、なんでこんなにヨミを意識してるんだ私は?
『大丈夫。リーンはボクが守るから』
「〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「えっ?.......リーン、どうしたの!?ちょっ、どこに行くの!?」
※※※
思わず飛び込んだ路地裏で、私はへたりこんでいた。
.......あああああ、もおおおう!!思い出しちゃったじゃん!!!
ああもう、そうだよ!フルーレティア様との一件が一段落して.......あの時のアレを思い出して、ヨミの事がマトモに見れなくなっちゃったんだよ!
だって.......だって.......ずっと可愛い可愛いって愛でてきたヨミが、背中越しに.......『ボクが守るから』って.......。
か、かっこよすぎて.......本当に死ぬかと思った.......。
ええ、そうですよ。そのギャップに心を撃ち抜かれたんですよ!
可愛くてかっこいいヨミが、近くにいるだけで心拍数が爆上がりして体中が熱くなって..............あの天然タラシ、本当に.......!
ああ、もう.......好き.......!
今まで、めっちゃ可愛い親友の域を出なかったのに、あの一件でそんな領域、天元突破しちゃったじゃん.......。
ほっとけば戻ると思ったのに、ヨミといればいるほど、何だか気持ちが大きくなって.......もう、声を聞くだけでドキドキしちゃって.......
「あああ.......本当に、どうすれば.......」
※※※
「.......というわけなんですけど、助けてくれませんか」
「なんでそれをあたしに相談するのよ」
だってたまたま会ったんだもの。
相談相手は、現魔王軍幹部第六位、『災禍将』レインさん。
魔王軍に入ったのは結構最近.......と言っても三百年以上前だけど、年齢はダントツで上。確か今年で千六百歳とか言ってたっけ。
「なので、それだけの時を生きたレインさんなら、こういったことの解決も出来るのではと.......」
「言っとくけど、あたし達妖精族には生殖能力がほぼ無いから、そういう浮いた話はあたしにはないわよ。あと次年齢のこと言ったら地の果てまで吹き飛ばすからね。.......はあ。まあ、ここまで聞いたなら相談くらい乗るけど.......。で?あんたはどうしたいのよ」
「どう、とは?」
「だから、ヨミに恋しちゃったんでしょ?どうしたいのよ」
.......。
.............んー。
「.......これって、恋.......なんですかね?」
「はあ?.......あんた、最近ヨミと一緒にいるとどうなるって言ってた?」
「心拍数が急上昇して体が異常に熱くなり、鼻血が吹き出そうになって場合によっては息も上手く吸えなくなります」
「改めて聞くとマジの病気を疑う症状ね。.......まあ、恋の病ってやつなんじゃないの?あたしも詳しく知らないけど」
そうかあ.......。
やっぱり私、ヨミを.......。
「で、どうしたいの?付き合いたい?気持ちを諦めたい?距離を置きたい?気持ちを胸に秘めておきたい?一夜限りの関係になりたい?」
「取り敢えず最後のは無いです。.............うーん、分からない.......。何しろ、人を好きになったことなんて、割と長いこと生きてきてなかったですし.......」
「あたしの百分の一も生きてないガキが何言ってんのよ」
前世含めるとちょっと考えたくない年齢になるんだけどね。
「んで?どーしたいのよ。ほら、言ってみ?」
「えー.......うーーーーん.......」
「ほらほら、遠慮せずに。自分の気持ちを!ほら!早く!」
「あの、レインさんちょっと楽しんでませんか!?」
相談する人間違えたかなこれ。
「わ、私は.......そのぉ.......ヨミと.......」
「ヨミと!?」
「つ.......付き.......」
『領内に残っておる四魔神将、及び幹部!聞こえるか!?緊急事態じゃ、至急来とくれ!』
.............。
「.......なんであの方は、ほんと.......こう、空気が読めないタイミングで連絡よこしてくるのよ.......!」
「で、でも、緊急事態って言ってましたし、結構火急の話っぽいですよ?一旦この話は忘れて、早く行きましょう」
「.......そうね」
※※※
「.......みな揃ったな」
いつもの会議室で、領内に残っていた幹部、計八人が集まった。
そして魔王様は、かなり焦った様子でいた。
「それで魔王様。緊急事態というのは?」
「.............フェルリン平野での戦にて、聖十二使徒の序列四位と五位が出現。我が軍を打ち破り、そのまま進攻してきておる。.......そして.......」
「それを止めようとしたティアナが、殺された」